越後、秋色の散歩道――柿の朱から信濃川の粉金へ
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
越後、秋色の散歩道――柿の朱から信濃川の粉金へ――
【第1話:実りの手仕事と、弾む息】
• 柿朱く 空気や旨し ぬくい風
今日は友人宅へ赴き、秋の恵みを体いっぱいに浴びる一日となった。
たわわに実った柿の木を見上げ、一果一果、丁寧にハサミを入れていく「柿もぎ」の手伝いだ。もいだ柿は、渋を抜いて甘く仕上げるために「さわし柿」にする。ほんのりと汗をかくような心地よい手仕事のあと、心地よい充足感を抱いたまま、いつもの散歩道へと足を向けた。
一歩、外へ踏み出した途端、胸に飛び込んできたのは驚くほどさわやかな空気だった。深く吸い込めば、それだけで体が生き返るように「旨し」と感じられる。頬を撫でていくのは、どこか優しく、まだ名残惜しそうに温かみを残した「ぬくい風」。実りの秋の真ん中に立っている実感が、私の五感を心地よく満たしてくれた。
【第2話:夕暮れの径、凛として】
• 夕映えの 道に静かし 白い蘭
歩みを進めるうちに、空の青みが少しずつ薄れ、世界が夕暮れの光に包まれ始める。
西の空がオレンジ色に変わりゆく頃、ふと道端に目をやると、そこに一輪の「白い蘭」が佇んでいた。誰もが通り過ぎるなんてことのない道のはずなのに、その白い花がそこにあるだけで、周囲の空気がしんと落ち着きを取り戻したかのような錯覚にとらわれる。
夕映えの柔らかな光に照らされながら、誰を待つでもなく、ただ凛と、静かに咲き誇る白。飾らないオーソドックスな言葉の中にこそ、この瞬間のありのままの美しさが宿る。一日の終わりに向かって静かに沈み込んでいく景色のなかで、その白さはいつまでも私の目に鮮やかに焼き付いていた。
ご一読いただきありがとうございました。日々の歩みのなかで紡いだ言葉たちが、どなたかの心に届き、小さな道標となれば幸いです。




