散歩道の命の紋(もん) 第一章:濁流の忘れ形見
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
散歩道の命の紋
第一章:濁流の忘れ形見
大雨が激しく街を叩いた翌朝、水が引いたあとの排水溝に、一筋のきらめきを見つけた。どこからか迷い込んできた、小さな稚魚の姿だった。
影落ちて 藻に身を映す 鰭ひとつ
かすかな泥の中に、そっと一枚の鰭が揺れている。助けようとそっと手を差し伸べた瞬間、その小さな命は驚くほどの俊敏さで、私の優しさを拒むようにすり抜けていった。
差し伸べる 手を翻し 魚行く
人間の勝手な感傷など寄せ付けない、生への凄まじい執着。取り残されたわずかな水溜まりで、極限状態にあるその小さな体は、激しく脈打っていた。その震えが、水面に小さな波の紋様を描き出す。
水引けば 鼓動乱れる 鰭の紋
台風一過の空からは、皮肉なほど穏やかな秋の光が降り注いでいる。けれど、私の肌をかすめる風は、あの濁流が残していった世界の厳しさを物語るように、どこか冷たく、切なく染み渡るのだった。
溝の稚魚 秋の陽気に 滲みる風
濁流の 爪痕残し 溝の稚魚
あの小さな魚は、無事に広い水へと帰れただろうか。自然の容赦のなさと、その中で健気にきらめく命の尊さが、胸の奥に深く刻まれた。
ご一読いただきありがとうございました。日々の歩みのなかで紡いだ言葉たちが、どなたかの心に届き、小さな道標となれば幸いです。




