第1話:足元の秋と、水面のラッシュアワー
猛暑の夏が去り、ようやく再開したお散歩の道。
ふと見上げた秋空、そしてベンチで待ち受けていた「あいつら」とのユーモラスな攻防――。
日常の何気ない一瞬を五七五に切り取る、俄小説家の気ままな散策が始まります。
のんびりとした秋の空気感を、どうぞご一緒にお楽しみください。
第1話:足元の秋と、水面のラッシュアワー
あの猛烈に熱かった夏が、あっという間に過ぎ去っていった。
ようやく朝夕の風に涼しさを覚えるようになり、しばらく遠のいていた日課の散歩を再開した昨今である。ご隠居の俄小説家、久しぶりに外の空気を吸えば、自然と作句の筆も動き出すというものだ。
しとしとと降る冷たい秋の雨の中、遠い故郷へ想いを馳せる日もあれば、不意に響いた犬の鳴き声につられて見上げた空に、瑞々しい季節の移り変わりを見つけることもある。
秋雨や ふるさと遠く 彼岸花
ワンと吠え 雲の晴れ間に 青い柿
見上げる空はどこまでも高く、雲の彼方へと吸い込まれていくようだ。その雄大さに比べれば、人間の一生など儚いもの。だが、だからこそこの「浮世の旅」は愛おしい。
空高く 雲へと続く 浮世旅
そんな大層な人生観に浸っていると、足元にちくりと現実の刺激が走る。ベンチに腰を下ろしてやれやれと一息ついた途端、あいつらがやってくるのだ。
秋の蚊や ベンチで休み 足痒し
夏のそれほどの勢いはないが、どこかしぶとく、実になんとも口惜しい秋の蚊との攻防。それもまた、散歩を再開したからこその、いささか痒くて可笑しな日常のハプニングであった。
さらに歩みを進めると、日曜日の一角は、平日の静けさが嘘のような賑わいを見せている。家族連れやジョギングの人々が行き交うその様子は、さながら休日の散歩道ラッシュアワーといったところか。
目を川面に転ずれば、これからの季節を賑わせる先客たちが、水上でそわそわと首を長くしていた。
屋形船 まだ来ぬかと 鴨の群れ
シベリアから渡ってきたばかりの鴨たちが、水上バスの波か、はたまた乗客のくれるパンくずを待っているのだろう。人間も鳥も、それぞれの「日曜日」を謳歌している。
そんな何気ないいつもの道の賑やかさが、歩く足取りをじんわりと軽くしてくれた。
お読みいただきありがとうございました。
第2話 では、信濃川河口ならではのダイナミックな光景と、足元に眠る壮大な歴史ロマンへと歩みを進めます。




