秋の陽だまりと、白いぬし
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
秋も深まり、肌寒い風が吹く季節になりました。
先日、お気に入りのお店で大好きな栗のケーキを食べた帰り道、私は公園の古びたベンチに腰を下ろしました。
秋を背に ベンチに座り 花もゆる
色づく木々を背にしながら、静かに流れる時間を楽しむ。そんな私の前を、近所の人たちがのんびりと通り過ぎていきます。
細い道 行き交う人の 緩む頬
道を譲り合ったり、目が合って会釈をしたり。そんな何気ない日常のやり取りを見ているだけで、こちらの心までじんわりと温かくなってくるものです。
そんな穏やかな陽だまりの中に、トコトコと小さな白い影が近づいてきました。
真っ白で毛並みのいい、ご近所のワンコです。
その子は私の足元でピタッと立ち止まると、小さな鼻をひくひくとさせ、熱烈な視線を送ってきました。クンクン、クンクン。どうやら、さっき私が食べたケーキの甘い香りが気になって仕方がないようです。
白いポチ ぬしは誰やと 言い寄られ
「おい、その美味そうな匂いの『ぬし』はあんたか?」
そう言わんばかりにグイグイと距離を詰めてくるポチの勢いに、私は思わずタジタジ。
「ごめんね、ケーキはもう私のお腹の中なのよ」と心の中で言い訳をしながら、その愛らしい「尋問」にしばらく付き合いました。
すっかり癒やされ、ポチと別れて家路につく頃には、秋の日はすっかり傾いていました。
たくさん歩いて充実した一日。けれど、我が家の前にたどり着いた瞬間、ふっと現実に戻されます。
六十路越え 玄関険し 帰り道
若い頃なら何でもなかった我が家の玄関の段差が、一日歩いた足には、まるで高い山のように険しく思えてしまう。思わず苦笑いしながら、一歩一歩、踏みしめるようにしてドアを開けました。
年齢を重ねるごとに、体のあちこちに小さな「険しさ」を感じる日々ですが、あの白いポチとの出会いのような、小さくて愛おしいときめきがあるからこそ、毎日の帰り道もまた、悪くないなと思うのです。
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




