第七十六話『最後のライブ』
夕暮れが街を染め始めた。
◆
校舎の屋上。
夏の風。
うっすら赤く染まる空。
◆
簡易アンプ。
マイクスタンド。
繋がれたケーブル。
小さなスピーカー。
◆
文化祭でもない。
正式なライブでもない。
それは、
カナタにとっての、
“最後のライブ”だった。
◆
ひまりがケーブルを押さえながら、
少しだけ笑う。
◆
「……なんか、
本当にやるんですね」
「今さらだろ」
「まぁそうなんですけど」
少しだけ空気が緩む。
◆
その少し後ろ。
遥がフェンスへ寄りかかりながら、
静かにこちらを見ていた。
◆
監視。
あるいは確認。
その瞳は、
どこか複雑だった。
◆
そして。
澪。
◆
白いワンピース。
夏風に揺れる長い髪。
少し透ける輪郭。
間違いなく、
彼女はちゃんと、
そこに立っていた。
◆
カナタはギターを握る。
深く息を吸う。
◆
怖い。
この音が、
また世界を壊すんじゃないか。
404NOTFOUNDの時みたいに。
◆
でも。
もう逃げたくなかった。
◆
「……始める」
小さく呟く。
◆
夕暮れの風が吹く。
電車の音。
遠くの街。
◆
そして。
カナタは最初のコードを鳴らした。
◆
歌と、音色が、空に吸い込まれていく。
優しくて。
少し不器用で。
そして、
真っ直ぐに。
◆
澪が小さく目を見開く。
◆
歌が始まる。
◆
誰かを書き換える為じゃない。
世界を救う為でもない。
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ただ。
“ここにいた”と、
伝える為の歌。
◆
風が揺れる。
夕暮れが滲む。
ひまりが静かに息を飲む。
◆
遥は目を閉じた。
その音を、
確かめるみたいに。
◆
404NOTFOUNDとは全く違う。
それなのに、
どこか似ていた。
◆
“存在したい”
という感情だけは、
同じだったから。
◆
曲が進む。
その瞬間。
◆
世界のノイズが揺れた。
◆
空。
校舎。
フェンス。
遠くの街。
全部が一瞬だけ、
白い砂嵐みたいに歪む。
◆
ひまりが顔を上げる。
「……っ!?」
◆
遥の表情が変わる。
「まさか……」
◆
それでも。
カナタは止まらない。
◆
祈るように歌う。
今を。
ここにいる誰かを。
失いたくない日々を。
◆
その時。
澪の輪郭が、
ふっと揺らいだ。
◆
「……澪!?」
カナタの声が止まりそうになる。
◆
夕暮れの中。
澪の身体が、
ノイズみたいに薄く揺れていた。
◆
澪は小さく笑う。
◆
「……続けて!」
音に、ノイズに負けないように、
声を振り絞る。
◆
「…カナタの歌、
ちゃんと…ちゃんと届いてるから!」
風が吹く。
白い空。
揺れる世界。
◆
小さく頷いて、
カナタはもう一度、
ギターを鳴らした。




