↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/80

第七十六話『最後のライブ』



 夕暮れが街を染め始めた。


     ◆


 校舎の屋上。


 夏の風。


 うっすら赤く染まる空。


     ◆


 簡易アンプ。


 マイクスタンド。


 繋がれたケーブル。


 小さなスピーカー。


     ◆


 文化祭でもない。


 正式なライブでもない。


 それは、


 カナタにとっての、

 “最後のライブ”だった。


     ◆


 ひまりがケーブルを押さえながら、

 少しだけ笑う。


     ◆


「……なんか、

 本当にやるんですね」


「今さらだろ」


「まぁそうなんですけど」


 少しだけ空気が緩む。


     ◆


 その少し後ろ。


 遥がフェンスへ寄りかかりながら、

 静かにこちらを見ていた。


     ◆


 監視。


 あるいは確認。


 その瞳は、

 どこか複雑だった。


     ◆


 そして。


 澪。


     ◆


 白いワンピース。


 夏風に揺れる長い髪。


 少し透ける輪郭。


 間違いなく、


 彼女はちゃんと、

 そこに立っていた。


     ◆


 カナタはギターを握る。


 深く息を吸う。


     ◆


 怖い。


 この音が、

 また世界を壊すんじゃないか。


 404NOTFOUNDの時みたいに。


     ◆


 でも。


 もう逃げたくなかった。


     ◆


「……始める」


 小さく呟く。


     ◆


 夕暮れの風が吹く。


 電車の音。


 遠くの街。


     ◆


 そして。


 カナタは最初のコードを鳴らした。


     ◆


 歌と、音色が、空に吸い込まれていく。


 優しくて。


 少し不器用で。


 そして、


 真っ直ぐに。


     ◆


 澪が小さく目を見開く。


     ◆


 歌が始まる。


     ◆


 誰かを書き換える為じゃない。


 世界を救う為でもない。


     ◆


 ただ。


 “ここにいた”と、

 伝える為の歌。


     ◆


 風が揺れる。


 夕暮れが滲む。


 ひまりが静かに息を飲む。


     ◆


 遥は目を閉じた。


 その音を、

 確かめるみたいに。


     ◆


 404NOTFOUNDとは全く違う。


 それなのに、


 どこか似ていた。


     ◆


 “存在したい”

という感情だけは、

 同じだったから。


     ◆


 曲が進む。


 その瞬間。


     ◆


 世界のノイズが揺れた。


     ◆


 空。


 校舎。


 フェンス。


 遠くの街。


 全部が一瞬だけ、

 白い砂嵐みたいに歪む。


     ◆


 ひまりが顔を上げる。


「……っ!?」


     ◆


 遥の表情が変わる。


「まさか……」


     ◆


 それでも。


 カナタは止まらない。


     ◆


 祈るように歌う。


 今を。


 ここにいる誰かを。


 失いたくない日々を。


     ◆


 その時。


 澪の輪郭が、

 ふっと揺らいだ。


     ◆


「……澪!?」


 カナタの声が止まりそうになる。


     ◆


 夕暮れの中。


 澪の身体が、

 ノイズみたいに薄く揺れていた。


     ◆


 澪は小さく笑う。


     ◆


「……続けて!」


 音に、ノイズに負けないように、


 声を振り絞る。


     ◆


「…カナタの歌、

 ちゃんと…ちゃんと届いてるから!」


 風が吹く。


 白い空。


 揺れる世界。


     ◆


 小さく頷いて、


 カナタはもう一度、

 ギターを鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。