↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/80

第七話『ERROR』



「改変の速度」


 その言葉が、

 帰宅してからも頭から離れなかった。


 シャワーを浴びても。


 ギターを弾いても。


 ベッドに横になっても。


 世界が、

 少しずつズレている感覚が消えない。


 スマホを見る。


 WAVE。


『夜を越える前に』


 再生数。


 247,000。


「……おかしいだろ」


 もう完全にバズっていた。


 知らないインフルエンサー。

 歌ってみた。

 切り抜き動画。


 全部に自分の曲が使われている。


 なのに。


 嬉しくなかった。


 コメント欄を開く。


『昨日と今日で街違わない?』


『この曲、

 危ない気がする』


『また夢見た』


『音消えた人いる?』


 スクロールする指が止まる。


『404NOTFOUNDっぽい』


「……は?」


 初めて見る名前だった。


 タップ。


 検索。


 ヒット件数は少ない。


 古い掲示板。


 削除済みリンク。


 ノイズ混じりの動画サムネ。


 まともな情報が出てこない。


 妙に胸がざわつく。


     ◆


 翌日。


 昼休み。


 窓際でスマホを眺めていると、

 澪が近づいてきた。


「……見つけたんだ」


「何を」


「404NOTFOUND」


 心臓が跳ねる。


「なんで分かるんだよ」


「カナタ、

 分かりやすいから」


「嘘だろ」


「本当」


 澪は椅子を引いて座る。


 教室の喧騒が遠い。


「……知ってるのか。

 そのバンド」


「うん」


 即答だった。


「すごく有名だった」


「だった?」


「前の世界では」


 またそれだ。


 でも、

 もう完全否定できない自分がいる。


「……何なんだよ、

 その“前の世界”って」


 澪は少しだけ黙った。


 それから。


「放課後、

 時間ある?」


     ◆


 放課後。


 夕暮れ。


 電車に揺られる。


 澪は窓の外を見たまま、

 ほとんど喋らなかった。


『次は――』


 いつものアナウンス。


 その声だけが妙に現実感を繋ぎ止めてくれる。


「……どこ行くんだよ」


「私の家」


「は?」


「見せたいものあるから」


 さらっと言う。


 心臓に悪い。


     ◆


 朝霧澪の部屋は、

 驚くほど何もなかった。


 白い壁。


 白い机。


 整いすぎた本棚。


 生活感が薄い。


 女子高生の部屋というより、

 展示室みたいだった。


 その中で、

 ひとつだけ目を引くものがある。


 机の上。


 ガラスの砂時計。


 中の砂が、

 淡く青白く光っていた。


「……綺麗だな」


 思わず呟く。


 澪は少しだけ目を細めた。


「これだけ、

 ずっと変わらないから」


「……何それ」


「ううん。

 こっちの話」


 澪はデスク横に置かれていたノートPCを開く。


 古い動画サイト。


 タイトル。


【404NOTFOUND - ERROR】


 再生ボタンの横には、

 ひどく古い日付。


「……これ」


「たぶん、

 カナタは好きだと思う」


 クリック。


 ノイズ。


 ざらついた映像。


 歓声。


 ステージライト。


 古いライブ映像だった。


 ギター。


 ピアノ。


 轟音。


 そして。


 ボーカルの女性が歌い出した瞬間。


 息が止まる。


「……っ」


 知らない。


 知らないはずなのに。


 胸の奥が痛い。


 歌声が、

 直接感情を掴んでくる。


 画面の向こう。


 ギターを弾く男。


 顔は暗くて見えない。


 でも。


 なぜか目が離せない。


 曲名。


『ERROR』


 サビ。


 ノイズ。


 観客の歓声。


 映像が一瞬だけ乱れる。


 その瞬間。


 カナタの脳裏に、

 知らない景色が流れ込んだ。


 巨大なライブ会場。


 白いライト。


 誰かの声。


 マイクノイズ。


 そして。


『――智樹!』


「……っ!」


 気づけば、

 涙が落ちていた。


「……え」


 自分でも意味が分からない。


 なんで泣いてる。


 知らないバンドだろ。


 知らない曲だろ。


 なのに。


 苦しい。


 胸の奥が、

 壊れそうなくらい痛い。


 澪はそんなカナタを、

 静かに見つめていた。


「……やっぱり」


「……何が」


 声が震える。


 澪は小さく息を吐く。


 灰青色の瞳が、

 少しだけ悲しそうだった。


「カナタ、

 ちゃんと残ってるんだね」


 その言葉の意味だけが、

 分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。