第五十二話 『404NOTFOUND』
古い映像データの解析は、
遥の協力で進められていた。
◆
放課後。
地下施設。
薄暗いモニタールーム。
複数のディスプレイへ、
ノイズ混じりの映像が並んでいる。
ライブ。
スタジオ。
リハーサル。
全部、
404NOTFOUNDの断片だった。
◆
「……よくこんなの残ってたな」
カナタが呟く。
遥はキーボードを叩いたまま、
小さく言う。
「本来は全部消えてる」
「でも、
感情同期が強すぎた記録は残る事がある」
静かな声。
「残響みたいに」
◆
モニター画面。
若い頃の404NOTFOUND。
笑っているミカ。
ギターを構える智樹。
ドラムをセッティングする直人。
見守るマネージャーの遥。
誰もが、
楽しそうだった。
◆
「……普通だな」
カナタが小さく呟く。
もっと危険で、
異常な存在だと思っていた。
少なくとも映像の中の彼らは、
ただの音楽好きなバンドにしか見えない。
◆
その時。
映像が切り替わる。
深夜のスタジオ。
缶コーヒー。
散らかった機材。
そして。
ソファへ寝転ぶ智樹。
『ミカー、
そこコード違う』
『違わないし』
『いや違うって』
『うるさいなー』
笑い声。
その瞬間。
カナタの胸の奥が、
妙に熱くなった。
◆
「……っ」
頭痛。
ノイズ。
次の瞬間。
知らないはずの感覚が流れ込む。
深夜三時。
アンプの熱。
指先の痛み。
ミカの笑い声。
『智樹、
また寝てないでしょ』
◆
「……カナタ?」
澪の声。
気づくと、
カナタは額を押さえていた。
呼吸が荒い。
◆
「……今、
何か」
掠れた声。
「思い出したの?」
遥が静かに聞く。
カナタは答えられない。
思い出した。
でも。
それは自分の記憶じゃない気もする。
◆
モニターの中。
智樹がギターを抱えながら笑う。
『絶対売れるって、
俺達』
『そしたら世界変わるぞ』
『……変わりすぎたら怖いけどね』
ミカが苦笑する。
その言葉に。
映像の向こうの遥だけ、
一瞬笑わなかった。
◆
「……この頃から、
兆候はあった」
遥が静かに言う。
「感情同期の規模が、
普通じゃなかった」
白いノイズが、
モニター端へ小さく走る。
◆
「それでも」
遥は少し黙る。
「それでも、
あの人達は音楽を止めなかった」
その声には、
複雑な感情が混ざっているようだった。
◆
カナタは画面を見る。
バンドの中心人物で作曲を手がける
ギタリストの智樹。
妖しい魅力とカリスマ性を放つ黒瀬ミカ。
知らないはずの人達。
それなのに、
どうしても、
他人に思えなかった。
◆
その時。
映像の中のミカが、
不意にカメラへ近づく。
『これ映ってる?』
『映ってる映ってる』
智樹が笑う。
ミカは少し考えてから、
カメラへ向かって小さく手を振った。
『未来の誰かへ』
その瞬間。
カナタは息を飲む。
◆
『もしこの映像残ってたら』
ミカが笑う。
『ちゃんと、
音楽続けてね』
ノイズ。
白い画面。
そして。
映像が途切れた。
◆
静寂。
誰も喋らない。
カナタの胸の奥だけは、
ずっと熱かった。
まるで。
遠い過去から、
今の自分へ届いた言葉みたいに。




