第四十五話 『残っているノイズ』
404NOTFOUNDの映像を見た翌日。
カナタは、
ほとんど眠れていなかった。
◆
UNDEFINED。
歓声。
白いノイズ。
そして。
映像の中で、
確かにこちらを見た“智樹”。
『まだ、
終われない』
その声だけが、
頭から離れない。
◆
教室。
窓際の席。
朝の光。
周囲は普通に騒いでいる。
カナタだけ、
世界から少しズレている感覚があった。
◆
「……せ、ん、ぱ、い」
ひまりが、
机へジュースを置く。
【シュワシュワサイダー】
「顔、終わってますよ」
「うるせ」
ひまりは苦笑する。
でも。
その目だけ、
少し心配そうだった。
◆
「……また、
変な夢見たんですか?」
カナタは少し黙る。
それから。
「夢っていうか」
「記憶みたいなの」
ひまりの表情が、
ほんの少し曇る。
◆
「……最近、
先輩がどんどん遠くなる感じします」
小さな声。
カナタはうまく返事ができなかった。
◆
昼休み。
屋上前。
最近、
自然と三人の場所になっていた。
カナタ。
澪。
ひまり。
でも今日は。
空気が少し重い。
◆
「……404NOTFOUND、
まだ痕跡残ってるかもしれない」
カナタが小さく言う。
澪が顔を上げる。
「探すの?」
「……知りたい」
静かな声。
「俺、
何なのか」
風が吹く。
白い空。
その言葉だけ、
妙に重かった。
◆
「……おすすめはしない」
澪が小さく言う。
「過去に近づくほど、
引っ張られるから」
「でも、
知らないままも多分無理だ」
カナタの返答は、
思ったより即答だった。
その瞬間。
澪の表情が、
少しだけ苦しそうに揺れる。
◆
放課後。
三人は古いライブハウスのある街へ来ていた。
駅から少し外れた場所。
シャッターの閉まった店。
古い看板。
薄暗い路地。
まるで。
時間から取り残されたみたいな場所だった。
◆
「……ほんとに、
こんな所にあるんですか?」
ひまりが小声で言う。
カナタはスマホ画面を見る。
404NOTFOUND。
TRACE。
断片的な投稿。
その中に。
【旧ライブハウス“VOID”】
という文字だけが残っていた。
◆
地下へ階段を下りる。
先には古い扉。
鍵は壊れていた。
ギィ、と嫌な音を立てて開く。
◆
暗い。
埃まみれの古い機材。
割れた照明。
足を踏み入れた瞬間。
カナタの頭へ、
強烈なノイズが走った。
歓声。
ギター。
笑い声。
煙草の匂い。
『智樹ー!』
「っ……!」
視界が揺れる。
◆
「先輩!?」
ひまりが慌てて支える。
でも。
カナタの視線は、
ステージ奥へ固定されていた。
壁際に一台の古いモニター。
◆
ノイズ混じりの画面。
停止している映像。
でも。
そこには確かに映っていた。
若い頃の404NOTFOUND。
マイクを持つミカ。
ギターを持つ智樹。
そして。
その後ろ。
スタッフパスを下げた、
一人の女性。
「……え」
澪が小さく息を呑む。
カナタも目を見開く。
そこに映っていたのは。
今より少し若く見える、
白石遥だった。




