第三十八話『共鳴』
白いライトが、
体育館を照らした。
◆
歓声。
拍手。
熱気。
観客の視線が、
一斉にステージへ集まる。
カナタはギターを構える。
その瞬間。
胸の奥で、
小さなノイズが鳴った。
歓声。
ドーム。
赤紫のライト。
知らないライブの記憶。
「……っ」
息を整える。
今は、
考えるな。
◆
隣。
ひまりがマイクを握っていた。
少し緊張している。
でも。
逃げる顔はしていなかった。
「……いけます?」
小さな声。
カナタは短く頷く。
「そっちこそ」
ひまりは少し笑う。
その瞬間。
体育館のざわめきが、
一気に静かになった。
◆
最初のコード。
空気を揺らすようなギターの音。
Blue Noise。
空気が変わる。
観客の呼吸が、
ゆっくり揃っていく。
◆
『揺れるライト
青い残響』
ひまりの歌声が、
体育館へ広がった。
柔らかい。
透明。
でも。
どこか危うい。
その瞬間。
客席の空気が揺れる。
「……」
誰も喋らない。
スマホを構えていた生徒すら、
いつの間にか動きを止めている。
◆
歌声。
ギター。
感情。
全部が、
空間へ溶けていく。
境界が薄くなる。
自分と他人の感情が、
混ざり始める。
◆
客席。
女子生徒が涙を流す。
知らない男子生徒が、
苦しそうに胸を押さえる。
誰かが笑う。
誰かが泣く。
感情が、
空間全体で共鳴していた。
◆
そして。
サビへ入った瞬間。
ブツッ。
体育館中の照明が、
一瞬だけ白く染まった。
歓声。
ノイズ。
ライブの残響。
そして。
知らない記憶が、
一斉に流れ込む。
◆
ドーム。
赤紫のライト。
巨大スクリーン。
404NOTFOUND。
黒瀬ミカ。
観客の涙。
智樹のギター。
『――』
「っ……!」
カナタの視界が揺れる。
でも。
今回は、
自分だけじゃなかった。
◆
「……え」
「今、
なんか見えた」
「誰……?」
客席がざわつく。
知らない景色。
知らないライブ。
でも。
全員が、
“懐かしい”
と感じてしまっていた。
◆
ステージ袖。
澪が青ざめた顔で、
体育館を見ていた。
「……始まった」
小さな声。
感情同期。
記憶共鳴。
404NOTFOUNDの残響。
全部が、
現実へ滲み出している。
◆
その時。
客席後方。
黒いスーツ姿の集団が動く。
Revision。
白石遥が、
静かに端末を見る。
【同期率:89%】
【集団記憶共鳴確認】
【危険域到達】
空気が変わる。
「……やっぱり」
遥が小さく呟く。
その瞳だけ、
少し苦しそうだった。
◆
ステージ上。
Blue Noiseは続く。
でも。
もう普通のライブじゃなかった。
歌うたび。
音を鳴らすたび。
感情が混ざる。
記憶が滲む。
世界の境界そのものが、
揺れ始めていた。
◆
その瞬間。
ブツッ。
体育館の巨大スピーカーから、
別の歌声が混ざる。
『欠けた夜を――』
TRACE。
404NOTFOUND。
黒瀬ミカの歌声。
「……っ!」
カナタの呼吸が止まる。
そして。
頭の奥で。
誰かの声が、
はっきり響いた。
『智樹』
その瞬間。
世界が、
一瞬だけ白く染まった。




