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第三十三話 『Blue Noise』



 文化祭ライブの話が出たのは、

 本当に軽い流れだった。


     ◆


「え、

 絶対やった方がいいじゃん!」


 昼休み。


 教室。


 ひまりが机を叩きながら言う。


「Kとして出るんですよ!」


「嫌だよ面倒くさい」


「もったいない!」


 最近、

 ひまりは少し元気を取り戻していた。


 でも。


 時々、

 急に遠くを見る。


 何かを思い出しかけるみたいに。


     ◆


「文化祭ライブ……」


 カナタは小さく呟く。


 その瞬間。


 頭の奥で、

 小さなノイズが鳴った。


 歓声。


 ライト。


 知らないステージ。


「……っ」


 最近、

 ライブという言葉だけで胸がざわつく。


     ◆


「やめた方がいい」


 窓際。


 澪が静かに言った。


 白いカーディガン。


 灰青色の瞳。


「またそれか」


「今回は本当に危ない」


 静かな声。


 でも。


 かなり真剣だった。


「今、

 感情同期が広がりすぎてる」


「でもライブくらい普通だろ」


「普通じゃない」


 澪は小さく目を伏せる。


「カナタの音、

 もう街に影響してるから」


 その言葉が、

 少し重く落ちる。


     ◆


「でも」


 ひまりが小さく言う。


「先輩の曲を歌いたいんです」


 空気が止まる。


 ひまりは少しだけ照れたみたいに笑う。


「なんか、

 最近分かるんです」


「歌わないと、

 苦しくなる感じ」


 その言葉に、

 澪の表情がわずかに曇る。


     ◆


 放課後。


 音楽室。


 静かな夕焼け。


 PCの音源に合わせて


 カナタはギターを鳴らす。


 心地よいカッティングプレイ。


 そこへひまりの声が重なる。


『揺れるライト

 青い残響』


 Blue Noise。


 まだ未完成の新曲。


 でも。


 その瞬間。


 空気が変わった。


     ◆


「……っ」


 カナタが顔を上げる。


 ひまりの歌声。


 爽やか。


 でも。


 どこか儚い。


 胸の奥へ、

 直接触れてくるみたいな声。


 澪も静かに目を見開いていた。


「……似てる」


 小さな呟き。


「え?」


 ひまりが振り向く。


 澪はすぐ首を横へ振る。


「……なんでもない」


 でも。


 その瞳だけ、

 少しだけ不安そうだった。


     ◆


 Blue Noiseのメロディが続く。


 浮遊感。


 夜の空気。


 揺れる感情。


 そして。


 サビへ入った瞬間。


 ブツッ。


 音楽室のスピーカーが、

 一瞬だけ白いノイズを鳴らした。


 歓声。


 ライブ。


 青白いライト。


 大量の観客。


「……っ」


 カナタの視界が揺れる。


 知らない景色。


 でも。


 懐かしい。


 その瞬間。


 ひまりの歌声と、

 別の女性の声が重なった。


『Blue Noise――』


 ノイズ。


 頭痛。


 次の瞬間、

 全部消える。


 静かな音楽室。


 夕焼け。


 でも。


 澪だけが、

 青ざめた顔で立ち尽くしていた。


     ◆


「……朝霧?」


 カナタが声をかける。


 澪は数秒黙ったまま、

 ひまりを見る。


 そして。


 小さく呟いた。


「……だめ」


「え?」


「その曲、

 ライブでやっちゃだめ」


 静かな声。


 でも。


 今までで一番、

 恐怖が混ざっていた。


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