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第三十一話『同じ歌詞』



 最初は、

 ただの都市伝説みたいな扱いだった。


     ◆


【存在しないバンド】


【404NOTFOUND】


【ライブ映像だけ残ってる】


 そんな投稿が、

 数日前からSNSへ増え始めていた。


 しかも。


 全部断片的だった。


 白黒のライブ写真。


 数秒だけの映像。


 消えたアカウント。


 誰も全体を知らない。


 でも。


 なぜかみんな、

 “見たことがある気がする”。


 そんな気味の悪い広がり方をしていた。


     ◆


 昼休み。


 教室。


「先輩これ見ました?」


 ひまりがスマホを差し出す。


【404NOTFOUND / TRACE】


 投稿されたばかりの動画。


 再生数は異常な速度で伸びている。


「……また404か」


 最近、

 その名前を見ない日の方が少ない。


「しかもこれ、

 Patchと歌詞似てるって話題になってて」


 ひまりがコメント欄をスクロールする。


『Patchと繋がってる?』


『同じフレーズある』


『Kって404知ってる?』


『偶然じゃなくね?』


 胸の奥がざわつく。


     ◆


 再生。


 ノイズ。


 白黒のライブ映像。


 歓声。


 そして。


 女性の歌声。


『静かな夜に

 欠けた名前を探してる』


「……っ」


 息が止まる。


 そのまま、

 サビへ入る。


『欠けた夜を

 君の声で繋いで』


 頭の奥が揺れる。


 Patch。


『欠けた夜を

 繋ぎ合わせるように』


 似ている。


 偶然とは思えないくらい。


     ◆


「……なんで」


 小さく呟く。


 その時。


 後ろから、

 静かな声が落ちた。


「……残ってたんだ」


 振り向く。


 天音レイ。


 灰色のパーカー。


 長い黒髪。


 白い肌。


 そして。


 その瞳だけが、

 ほんの少し揺れていた。


     ◆


 レイはスマホ画面を見る。


【404NOTFOUND / TRACE】


 白黒のライブ。


 歓声。


 ノイズ。


 黒瀬ミカの歌声。


 その瞬間。


 レイの指先が、

 ほんの少し震えた。


「……知ってるのか」


 カナタが聞く。


 レイは数秒黙る。


 それから。


「404NOTFOUNDの曲」


 静かな声。


「本来、

 消えてるはずだった」


 空気が止まる。


「……消えてる?」


「全部、

 書き換わったから」


 その言葉だけ、

 妙に重かった。


     ◆


 動画の中。


 TRACEの歌声が続く。


『もしこの歌が

 世界を書き換えても』


 その瞬間。


 レイの表情が、

 ほんの少しだけ苦しそうに歪む。


「……やめて」


 小さな声。


「それ以上、

 聴かないで」


「なんでだよ」


 カナタが言う。


 レイはゆっくり、

 カナタを見る。


「その言葉が、

 世界を壊したから」


 ブツッ。


 その瞬間。


 スマホ画面が、

 一瞬だけ白いノイズへ染まった。


 歓声。


 ドーム。


 赤紫の照明。


 知らないライブの残響。


『――智樹』


「っ……!」


 頭痛。


 視界が揺れる。


 知らない記憶。


 でも。


 胸だけが、

 痛いほど懐かしい。


     ◆


 その時。


 教室の入口から、

 澪が静かにこちらを見ていた。


 白いカーディガン。


 灰青色の瞳。


 そして。


 レイを見た瞬間。


 その表情が、

 わずかに強張る。


「……やっぱり」


 小さな声。


 まるで。


 最悪の予感が、

 現実になったみたいに。


     ◆


 澪はゆっくり、

 レイを見る。


 面識はない。


 話したこともない。


 でも。


 レイの歌を初めて聴いた時から、

 ずっと違和感があった。


 音が似ている。


 感情の揺らし方が似ている。


 まるで。


 “存在しないはずの誰か”

の残響みたいに。


「……この人」


 澪の声が小さく揺れる。


「黒瀬ミカに、

 近すぎる」


 その瞬間。


 レイの瞳が、

 初めてわずかに揺れた。

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