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第二十四話『同期率』



 最近、

 視線を感じることが増えた。


     ◆


 朝。


 登校途中。


 駅前の交差点。


 信号待ちでふと視線を上げる。


 向かい側。


 黒いスーツの男が立っていた。


 耳にはイヤホン型の端末。


 無表情。


 目が合ったその瞬間。


 男は何も言わず、

 人混みの中へ消えた。


「……なんだよ」


 胸の奥がざわつく。


 最近、

 ああいう人間を時々見る。


 気のせいじゃない。


     ◆


 教室。


「永瀬ー、

 今日の課題写させて」


「自分でやれ」


「冷た」


 いつもの会話。


 その間もずっと、


 カナタの意識は、

 ずっと窓の外へ向いていた。


 校門前。


 黒い車。


 スモークガラス。


 誰も気にしていない。


 カナタだけは、

 嫌な予感がしていた。


     ◆


 昼休み。


 屋上前。


 最近の定位置だ。


 カナタは階段へ座っていた。


 炭酸の缶。


 プシュッ。


 静かな音。


「……やっぱここいた」


 澪。


 白いカーディガン。


 静かな足音。


「最近、

 ここ好きだね」


「静かだから」


 澪は隣へ座る。


 少しだけ風が強い。


「……見られてる」


 澪が小さく言った。


「……やっぱお前も思うか」


「うん」


 その返答が早すぎて、

 逆に怖い。


「Revision」


 小さな声。


 でも。


 今回は、

 澪がはっきりその名前を口にした。


「……何なんだよ、

 そいつら」


 澪は少しだけ黙る。


 風が吹く。


 遠くで運動部の声。


「世界を、

 壊れないようにしてる人たち」


「……それ正義の味方じゃねえの」


「たぶん」


「たぶん?」


 澪は目を伏せる。


「でも、

 カナタみたいなのは嫌う」


 胸の奥が冷える。


「……俺が、

 何したってんだよ」


 澪は静かにカナタを見る。


「何もしてない」


 そして。


「だから危ない」


     ◆


 放課後。


 音楽室。


 『Patch』の制作は進んでいた。


 静かな音。


 少ない音。


 でも。


 感情だけが、

 妙に深い。


 コードを鳴らす。


 その瞬間。


 ブツッ。


 小さなノイズ。


 PC画面が一瞬だけ乱れる。


「……っ」


 画面中央。


 見慣れない文字列。


【同期率:31%】


「……は?」


 次の瞬間、

 消える。


 普通の画面へ戻る。


 カナタは立ち上がる。


「なんだよ今の……」


 その時。


 スマホが震えた。


 非通知。


 嫌な予感しかしない。


 出る。


「……誰」


『永瀬カナタさん』


 低い男の声。


 機械みたいに感情がない。


『あなたへの観測値が、

 基準を超えています』


 息が止まる。


「……何だよお前」


『これ以上、

 楽曲公開を続けないでください』


 ノイズ。


 ブツッ。


 通話終了。


 静寂。


 音楽室の空気だけが、

 異様に冷えていた。


     ◆


 夜。


 帰り道。


 駅前。


 巨大ビジョンでは、

 藤崎クロがまた配信していた。


『Kってさ、

 マジで“何か”起こしてね?』


 コメント欄。


『分かる』


『最近夢変』


『感情バグる』


『でも曲は好き』


 その空気が、

 気持ち悪いほど熱を帯びている。


 カナタは足を止める。


 その瞬間。


 ビジョンが一瞬だけノイズを走らせた。


 白い砂嵐。


 そして。


 画面の奥。


 黒いスーツの男たち。


 その中央に、

 一人の少女が立っていた。


 長い黒髪。


 白い肌。


 灰色のパーカー。


 伏せた瞳。


 一瞬だけ。


 その少女が、

 こちらを見た気がした。


 ブツッ。


 映像は戻る。


 もう誰も気にしていない。


 それでもカナタは、

 ビジョンから目を逸らせなかった。

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