第十六話 『暴走』
世界が、
少しだけ壊れた音がした。
駅前の巨大ビジョン。
ざわめく人々。
「今の何!?」
「また同期障害!?」
「音、
本当に消えたよな!?」
不安が一気に広がっていく。
スマホ。
SNS。
動画撮影。
怒号。
全部が混ざる。
カナタはその場に立ち尽くしていた。
「……っ」
耳鳴りと頭痛。
周囲の感情が、
直接流れ込んでくるみたいだった。
怖い。
不安。
怒り。
混乱。
「カナタ!」
腕を掴まれる。
澪。
灰青色の瞳。
「ここ離れよう」
「……なんだよ、
これ」
「共鳴が暴走してる」
澪の声も、
少しだけ焦っていた。
◆
帰宅後。
SNSは完全に荒れていた。
【#同期障害】
【#K】
【#音消失】
トレンド上位。
動画投稿。
検証配信。
陰謀論。
全部が一気に増殖している。
その中心に。
藤崎クロ。
『ほら見ろって!
絶対【K】の曲おかしいんだよ!』
煽る声。
コメント欄の怒り。
『説明しろ』
『怖い』
『K出てこい』
『マジで危険じゃん』
呼吸が浅くなる。
「……俺のせいなのかよ」
誰もいない部屋で呟く。
その時。
ブツッ。
照明が一瞬だけ落ちた。
ノイズ。
白い砂嵐。
そして。
部屋の壁に、
一瞬だけ知らないライブ映像が映る。
歓声。
ライト。
ギター。
『智樹!!』
「っ……!」
頭痛。
膝をつく。
視界が揺れる。
知らない記憶が、
少しずつ流れ込んでくる。
◆
翌日。
学校。
空気が最悪だった。
「昨日マジでやばかったよな」
「音消えるとか普通に怖い」
「Kってほんと何なんだ?」
教室のざわめき。
みんな少し苛立っている。
感情が荒れていた。
その時。
「だから言ったじゃん」
教室後方。
男子生徒が机を叩く。
「あの曲危ねえって」
「いや、
でも証拠ないだろ」
「実際おかしくなってんじゃん!」
空気が張る。
些細な会話なのに、
妙に攻撃的だった。
カナタは息苦しさを覚える。
まるで教室全体が、
感情のノイズで満たされているみたいだった。
◆
昼休み。
屋上。
風が強い。
「……悪化してる」
澪が呟く。
「昨日から、
みんな変だ」
「感情が同期し始めてるから」
「そんなので、
ここまでなるのか?」
澪は静かに頷く。
「不安って、
一番広がりやすいから」
フェンス越しの空。
灰色。
重い雲。
「今、
世界中で小さいノイズが起きてる」
「……世界中?」
「うん」
その規模感に、
背筋が冷える。
「Revisionも、
もう止められなくなってるのかも」
澪の声が少しだけ沈む。
「……カナタの音、
広がりすぎた」
胸が痛い。
でも。
同時に、
曲を消したくない自分もいた。
◆
放課後。
音楽室。
ひまりが珍しく静かだった。
「……先輩」
「ん?」
「最近、
怖いんです」
その声が小さい。
「夢も変だし、
街も変だし」
ひまりはギュッと缶ジュースを握る。
「でも、
先輩の曲聴くと安心するんです」
澪が目を伏せる。
カナタは言葉を失った。
「……変ですよね」
ひまりは少し笑う。
でも、
その笑顔は震えていた。
その瞬間。
ブツッ。
音楽室の空気が歪む。
「っ……!」
耳鳴り。
ノイズ。
窓ガラスがビリビリ震える。
そして。
カナタのギターから、
勝手に音が鳴った。
「……は?」
誰も触っていない。
なのに。
コード。
『ERROR』の旋律。
静かなアルペジオ。
音楽室の空気が凍る。
ひまりが息を呑む。
澪の顔が青ざめる。
「……まずい」
次の瞬間。
窓の外の景色が、
一瞬だけ完全に別の世界へ変わった。
巨大なライブ会場。
白いライト。
歓声。
ノイズ。
そして。
ステージ中央。
マイクを握る、
長い黒髪の女性。
歌声。
『――ERROR』
その瞬間。
世界が、
悲鳴みたいなノイズを上げた。




