↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/80

第十五話『藤崎クロ』



 黒いスーツ姿の男。


 ノイズ混じりの画面。


 一瞬だけこちらを見ていた視線が、

 頭から離れなかった。


「……また?」


 ひまりが不安そうに聞く。


 スマホ画面は、

 もう普通に戻っている。


 胸の奥が、

 妙に冷たかった。


 澪は静かにスマホを見つめる。


「……監視強くなってる」


「Revisionか」


「うん」


 ひまりが首を傾げる。


「りびじょん?」


「あー……

 いや、なんでも」


 誤魔化す。


 最近、

 普通の会話が難しくなっていた。


     ◆


 翌日。


 昼休み。


 教室が妙に騒がしかった。


「見た!?」


「やばくない?」


「【K】の動画使ってるやつ!」


 嫌な予感がする。


 スマホを開く。


 おすすめ欄。


 派手なサムネイル。


 赤文字。


【暴露】

【Kの曲は危険】

【同期障害の真相】


 投稿者名。


 “藤崎クロ”


「……誰だよ」


 タップ。


 動画再生。


 派手な編集。


 ノイズ。


 煽るような声。


『最近流行ってる“K”の曲、

 絶対おかしいんだよね』


『聴いた人間、

 記憶バグってるし』


『しかも同期障害って、

 マジで広がってる』


 コメント欄が高速で流れる。


『怖』


『でも分かる』


『Kって何者?』


『消されたりしないよな?』


 頭が痛くなる。


     ◆


 屋上。


 風が強い。


「最悪」


 澪が珍しく、

 はっきり嫌そうな顔をしていた。


「そんなヤバいやつなのか」


「藤崎クロって、

 感情を煽るの上手いから」


「感情……」


「怒りとか不安って、

 共鳴しやすいんだよ」


 澪はフェンスを見つめる。


「今の状態で、

 ああいう人が触ると危ない」


「何が起きる」


「広がる」


 その言い方が怖かった。


「感情も、

 改変も」


     ◆


 その日の夜。


 WAVE。


 コメント欄の空気が変わっていた。


『Kって危険なの?』


『怖くなってきた』


『でも聴いちゃう』


『なんかイライラする』


『誰か説明しろよ』


 昨日までの“共感”が、

 少しずつ“不安”へ変わっている。


 カナタはスマホを閉じる。


 胸の奥が重い。


 その時。


 通知。


 DM。


 差出人。


 “藤崎クロ”


「……は?」


 開く。


【話しません?】


【あんた、

 絶対何か知ってるでしょ】


 嫌な汗が滲む。


     ◆


 翌日。


 放課後。


 音楽室。


 雨。


 窓を叩く水音。


 カナタはギターを鳴らす。


 でも今日は、

 うまく音がまとまらなかった。


 頭の中がざわついている。


 怒り。


 不安。


 焦り。


 コメント欄の空気が、

 そのまま流れ込んできているみたいだった。


「……影響受けてる」


 窓際。


 澪が小さく呟く。


「何に」


「共鳴」


 またその言葉。


 でも今日は、

 少しだけ理解できてしまう。


「……なんか、

 落ち着かねえ」


「みんな同じだと思う」


 澪は静かに言う。


「今、

 世界中の感情が少しずつ混ざってるから」


 その瞬間。


 ブツッ。


 音楽室の電気が点滅する。


 ノイズ。


 耳鳴り。


 視界が揺れる。


「っ……!」


 窓の外。


 校庭にいた生徒たちの姿が、

 一瞬だけ別人に見えた。


 知らない制服。


 違う顔。


 すぐ戻る。


「……まただ」


 カナタが息を呑む。


 澪は窓の外を見つめたまま、

 静かに言った。


「感情が暴れ始めてる」


     ◆


 帰宅途中。


 駅前の巨大ビジョン。


 藤崎クロの配信切り抜きが流れていた。


『Kの曲ってさ、

 人の感情壊してるんじゃね?』


 通行人たちが足を止める。


 コメント。


 拡散。


 怒り。


 不安。


 その瞬間。


 ――ブツッ。


 駅前の音が、

 一瞬だけ消えた。


「……!」


 全員が顔を上げる。


 静寂。


 完全な無音。


 そして。


 誰かが叫ぶ。


「……今、

 音消えた!?」


 ざわめき。


 混乱。


 スマホを取り出す人たち。


 世界が、

 少しだけ壊れたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。