↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/80

第十二話『Revision』



「私、

 本当はもう、

 ちゃんと存在できないんだと思う」


 夜のホーム。


 電車の走行音。


 白い蛍光灯。


 全部が遠かった。


「……何言ってんだよ」


 やっとそれだけ言う。


 澪は少しだけ目を伏せた。


「そのままの意味」


「意味分かんねえよ」


「うん。

 普通はそう」


 またそれだ。


 でも今日は、

 妙に笑えなかった。


「……お前、

 最近消えるみたいになってたよな」


「見えちゃったんだ」


「見えるだろ普通!」


「普通は見えない」


 静かな声。


 でも、

 少しだけ寂しそうだった。


 カナタは言葉を失う。


 ホームへ電車が入ってくる。


 風。


 アナウンス。


 その音だけが、

 やけに現実感を繋ぎ止めていた。


     ◆


 帰宅後。


 部屋の電気をつける。


 静かすぎた。


 ギターケース。


 ノート。


 机の上の譜面。


『ERROR』


 その文字を見るだけで、

 胸の奥がざわつく。


 スマホが震えた。


 通知。


 WAVE。


【警告】


【感情同期率:危険域】


【投稿活動の停止を推奨します】


「……またかよ」


 差出人。


 Revision_00


 開く。


【あなたの音は、

 世界へ異常な共鳴を発生させています】


【このまま投稿を続けた場合、

 大規模改変が発生する可能性があります】


【速やかに活動停止を】


「意味分かんねえって……」


 その時。


 画面が一瞬だけ乱れた。


 ノイズ。


 白い砂嵐。


 そして。


 一瞬だけ、

 カメラ映像みたいなものが映る。


 黒い部屋。


 モニター。


 誰かの影。


 すぐ消える。


「……っ」


 心臓が跳ねる。


 今の。


 向こうから見られてたのか?


     ◆


 翌日。


 学校。


 教室の空気が妙だった。


「昨日さ、

 一瞬停電しなかった?」


「分かる!

 しかも変な耳鳴りして」


「最近多くね?」


 同期障害。


 その単語が、

 もう普通に使われ始めている。


 でも、

 誰も本気では捉えていない。


 都市伝説。


 ネットミーム。


 その程度。


 窓際。


 澪は静かに外を見ていた。


 カナタが近づく。


「……なあ」


「うん」


「Revisionって、

 何なんだ」


 澪は少しだけ黙る。


 それから、

 静かに答えた。


「世界を、

 壊れないようにしてる人たち」


「じゃあ悪いやつじゃないのか」


「……難しい」


 澪は窓ガラスへ視線を落とす。


「昔は、

 もっと違った気がするけど」


「昔?」


「ごめん。

 今の忘れて」


 またそれだ。


 でも、

 最近少し分かってきた。


 澪は、

 本当に“全部”は覚えていない。


 何かを知っているのに、

 同時に失っている。


 そんな感じだった。


     ◆


 昼休み。


 突然。


 校内の電気が一瞬だけ落ちた。


 ブツッ。


 暗転。


 悲鳴。


 すぐ戻る。


「うわっ!?」


「なに今!」


 教室がざわつく。


 その瞬間。


 カナタのスマホが震える。


 知らない通知。


【対象確認】


【同期率上昇中】


【監視継続】


 息が止まる。


「……っ」


 その時だった。


 教室の外。


 廊下。


 黒いスーツ姿の男が立っていた。


 視線。


 まっすぐこちらを見ている。


 目が合った瞬間。


 ノイズ。


 耳鳴り。


 世界が歪む。


「カナタ!」


 澪が腕を掴む。


 冷たい手。


 次の瞬間。


 男の姿は消えていた。


「……今の、

 見たか?」


「うん」


 澪の顔が、

 少しだけ青い。


「……早い」


「何が」


 澪は小さく息を吐く。


「Revision、

 本格的に動き始めてる」


     ◆


 放課後。


 音楽室。


 窓の外は雨だった。


 静かな雨音。


 ギターを抱えたまま、

 カナタは譜面を見つめていた。


『ERROR』


 そのタイトルが、

 やけに重い。


「……やめた方がいいのかな」


 ぽつりと呟く。


「曲」


 澪は少し驚いた顔をした。


「初めて言ったね」


「何が」


「怖いって顔」


 澪は静かにピアノへ触れる。


 柔らかい音。


「でも、

 止まれないんでしょ」


 図星だった。


 曲を作るたび、

 何かがおかしくなる。


 なのに。


 やめようと思うほど、

 音が頭の中へ流れ込んでくる。


「……なんなんだよ、

 これ」


 澪は少しだけ目を伏せる。


 雨音。


 静かなピアノ。


 そして。


「音って、

 感情の記録だから」


 澪のその言葉は、

 妙にカナタの胸に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。