↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/80

第十話『残響』



 ――まだ、

 思い出さない方がいい。


 澪の言葉が、

 頭の奥に残り続けていた。


 思い出す。


 何を?


 “智樹”って誰だ?


 なんで、

 その名前を聞くたび胸が痛くなる?


     ◆


 翌日。


 放課後。


 久しぶりに、

 カナタは学校裏の階段へ向かっていた。


 夕焼け。


 古びた踊り場。


 そこに。


「お、

 来た」


 ギターケースを抱えた男子生徒がいた。


 少し長めの黒髪。


 ラフな制服。


 気の抜けた笑い方。


「……悠真」


 柊悠真。


 クラスメイトで親友だ。


 数少ない、

 自然に話せる相手。


「最近ずっと音楽室じゃん。

 軽音入るの?」


「入んねえよ」


「えー、

 もったいね」


 悠真は笑いながら、

 ギターケースを開く。


 赤いテレキャスター。


「で?

 最近なんかあった?」


「なんで」


「顔」


 図星だった。


「死にそうな顔してる」


「失礼だな」


「いやマジで」


 悠真は缶コーヒーを投げてくる。


 危うく落としかけた。


「サンキュ」


「で?」


 カナタは少し迷ってから、

 空を見る。


「……世界って、

 急に変わると思う?」


「は?」


「いや、なんか……

 昨日まで普通だったものが、

 急に違って見えるみたいな」


 悠真は数秒黙る。


 それから。


「恋じゃね?ラヴじゃね?」


「そんな訳あるか」


「じゃあ病院直行だな」


「お前がな」


 くだらないやりとりに、

 少しだけ笑ってしまった。


 この緊張感の無い空気感は


 妙に安心する。


     ◆


 階段に座り込み、

 二人でギターを鳴らす。


 軽いセッション。


 コード進行。


 夕焼け。


 静かな風。


 この時間だけは、

 世界がおかしくない気がした。


「……そのフレーズいいな」


 悠真が言う。


「なんか懐かしい」


 心臓がざわつく。


「懐かしい?」


「うん。

 前も弾いてなかった?」


「いや」


「そっか」


 悠真は首を傾げる。


「なんか、

 知ってる感じしたんだけどな」


 まただ。


 最近、

 こういう“ズレ”が増えている。


 知らないはずなのに、

 知ってる感覚。


 忘れてるのに、

 残ってる感じ。


     ◆


 その時。


 スマホが震える。


 WAVE通知。


【新規コメント:12,481件】


「……多すぎだろ」


 開く。


『次の曲まだ?』


『【K】の曲しか最近聴けなくなった』


『また音消えた』


『この曲、

 世界変わる感じする』


 スクロールする指が止まる。


『404NOTFOUNDの再来』


 そのコメントだけ、

 妙に冷たかった。


「……404?」


 悠真が画面を覗く。


「懐かし」


 息が止まる。


「……知ってんのか?」


「え?」


「404NOTFOUND」


 悠真は少しだけ考える。


「……いや」


 その瞬間。


 表情が曇る。


「……なんだろ。

 聞いたことある気が」


 風が止む。


 カナタの背筋を、

 嫌な感覚が走った。


     ◆


 帰り道。


 駅前。


 夜。


 コンビニの光。


 シュワシュワサイダーを手に取る。


「またそれ」


 声を掛けてくる。


 澪だ。


 最近、

 本当に突然現れる。


「お前な……

 もう少し気配出せ」


「努力します」


 絶対しない顔だった。


 澪はカナタの顔を見る。


「少し、戻ったね」


「何が」


「顔色」


 その言い方が、

 少しだけ優しかった。


「……今日、

 悠真といた」


「うん」


「なんで知ってんだよ」


「音、

 静かだったから」


 もうツッコむ気力もない。


 澪は炭酸コーナーを見つめたまま言う。


「彼の存在、

 大事にした方がいいよ」


「……は?」


「ちゃんと、

 覚えてるうちに」


 空気が止まる。


「……何それ」


 澪は少しだけ黙る。


 そして。


「ごめん」


 珍しく、

 少しだけ後悔した顔をした。


     ◆


 夜。


 自室。


 ギターを抱え、

 新しいメロディを探す。


 でも今日は、

 うまくまとまらなかった。


 悠真の言葉。


 澪の言葉。


 404NOTFOUND。


 頭の中で全部混ざる。


 その時。


 不意に。


 知らないメロディが、

 頭の中へ流れ込んできた。


「……っ」


 思わず手が勝手に動く。


 コード。


 旋律。


 指が覚えているみたいに。


 ノートへ書き殴る。


 自分で作ってる感覚じゃない。


 なのに、

 懐かしい。


 怖い。


 でも止まらない。


 数分後。


 カナタはペンを止めた。


 譜面の端。


 無意識に書かれていたタイトル。


 ――『ERROR』


「……なんだよ、

 これ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。