表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/147

37. 誤算

 奥に行けば行くほど、空気が重く澱んでいく。


(――これは瘴気のせいね)


 エリーゼは直ぐに気付き、チラリとアルの様子を確認する。

 デールとの魔獣の訓練で耐性がついているエリーゼとは違い、アルは息苦しいのか呼吸が乱れていた。


(スピード落とした方がいいかしら……)


 けれど、一人で戦っている父ガスパルを思うと、エリーゼは足を止められなかった。悩みつつも、先を急ぐ。


 すると、視界が悪くボヤ〜ッとしたその奥から、魔物の咆哮が。次いで、ズシンッと何かが倒れるような鈍い音がした。


 声を掛けなくとも、アルは反射的にエリーゼに視線を向ける。

 どちらともなく左右に分かれ、それぞれ大木の後ろに隠れた。太い幹に身を潜め、目を凝らし覗くように先を見る。

 

 薄暗い濃霧の中、二人が見たのはガスパルが何頭もの魔物を倒している姿だった。

 エリーゼはアルと目配せをし、地を蹴って飛び出した。――と同時に、エリーゼはガスパルの背後に飛び掛かろうとしていた魔物を斬る。


「――お、お前達っ!!?」


 振り返ったガスパルは、驚きに目を見張る。


「私たちも手伝います!」

「ダメと言われても、もう後戻りはできませんから」


 互いの背を向き合わせるように剣を構えつつ、エリーゼとアルはガスパルに言う。

 

「……っ。仕方ない説教はあとだ! 先ずは、アレをどうにかしないと」

 

 ガスパルが顎で指した方向には、地に湧き出した沼ような黒く渦を巻く円があった。そこから瘴気が出ているようだ。


「……あれは!?」

「どうやら、あそこから魔物が出てくる」

「あっ!」


 まるで、ガスパルの言葉が具現化するように、その中から狼の魔物が飛び出してきた。

 

「たぶんだが、あの円より大きな魔物は出て来られないようだ。それに……。さっきより円は小さくなっている」

「え?」


 ガスパルが最初に対峙したのは、狼よりも更に大きな魔物だったそうだ。

 確かに落ちている魔石もサイズが違う。

 

「今は(こいつら)ばかりだが、キリがない」


 片っ端から斬り倒すが、次々と湧くように出てくる。こんな現れ方は、ガスパルでも初めての経験らしい。

 アルもエリーゼに負けじと、魔物に向かって剣を振った。閃光が走り、スパッと真っ二つになる魔物。


(口頭で説明しただけなのに、もう出来るなんて……)


 ――ぶっつけ本番の賭けだった。


 エリーゼは走りながらも、アルも自分の身を守れるように、マナソードのやり方を説明した。

 魔力の源とよべる自然界のマナ。自分の魔力を込めるように、マナを意識し剣に集めるのだ。


 これはガスパルから訓練を受けたもの。

 

 さほど魔法は使えなくとも、剣に特化したガスパルだからこそ到達した域。

 デールの力を使う時とやり方は大差がなかったため、エリーゼも難なく出来た。デールとの秘密の特訓には必要無かったため、滅多に使わなかったが。


(だからこそ……)


 剣の腕は確かなアル。金の瞳を持つ王子のアルならば、コツさえ掴めば扱えると踏んだ。

 どうしてエリーゼが、マナソードの扱い方を知っているのか……そんな野暮な質問はされなかった。今が、一刻を争う状況であることで、その時間を与えずに済んだのだ。


 ただ、慣れないとマナの制御が難しい。持っている全てを注いでしまえば、魔力の枯渇に繋がる。下手したら意識が飛んでしまうだろう。

 けれど、そんなリスクを承知でエリーゼは教えた。


(たぶん、アルの魔力量は並ではないはず)


 万が一、またアルが怪我するようなことがあれば、魔物が更に増える気がした。ただの勘でしかないが、嫌な予感は当たるのだ。


(最悪、このブレスレットをアルに使えばいいわ。ひとまず、アレをどうにかしないと)

 


 

 ◇◇◇◇◇




 時間がどれほど経っただろうか。


(こんな時にデールはどこへ――)


 倒しても倒しても出てくる魔物に、三人の疲労は溜まる。

 それでも、デールには何か打開策があると、信じて待つほかなかった。


 アルのマナソードの光が弱くなっていく。


「マズイな」


 そう言ったのはガスパルだった。

 慣れない力の使い方で、限界を迎えているのかアルの足元が危うい。


(どうにかあの穴を埋めないと……その前に)


 アルに向かってブレスレットを投げようと手にかけたが――エリーゼの判断は遅かった。

 閃光が消えると同時に、瀕死の狼の最後の足掻きだったのか、牙がアルを掠める。

 狼は息絶えたが、アルは剣を地に刺し膝をつく。


(しまった!)


 エリーゼはアルに駆け寄り治癒するが――。

 穴から狼が出てくるのがピタリと止まった。嵐の前の静けさのような、沈黙の時間。三人は息を呑む。

 次の瞬間、穴から瘴気が吹き出した。


「何が起こった!?」

「あれは……」


 狼の魔物は飛び出すのをやめたのではない。出てきていた穴を塞がれたから、通れなかったのだ。

 真っ赤な溶岩で出来たような、大きな大きな手が穴から出てきていた。

 狭い穴さえも、溶かし広げようとするように。

 

 ガスパルは言葉を失い、アルは唇を噛んだ。

 エリーゼがブレスレットを引きちぎり、発動させようとすると


『エリーゼ! その手を切り落とすんだ! ブレスレットを投げいれて、オレを呼べ!』


 デールの声が頭に響いた。


「父さま、アルをお願い!」

「お、おいっ! エリーゼ!」


 エリーゼはガスパルにそう言い残し、穴へと走る!

 

 身を低くすると、黒いモヤを纏わせた剣を地に這わすかのように横から振って、赤い手を切り落とした。

 

 ――ドサッ。


 落ちた手は、形を失い溶けるように流れ出し、劫火(ごうか)のごとく大地を焼き……消えた。


 そのままエリーゼは、躊躇なくブレスレットを穴に投げ入れる。


 刹那。

 穴の中が金色に光り、瘴気が蒸発するように消えいく。それが引き金になったのか、大地が穴を塞ごうと勢いよく縮んで行く。


「デールーーー……!!」


 エリーゼは、叫ぶように急いでデールを呼んだ。




 呆然と成り行きを見守るしかなかったアルは、晴れていく霧とは裏腹に、夜の闇に呑まれていくような感覚だった。

 デールを呼んだエリーゼの声が耳に残る。

 エリーゼが危機的状況で、最も頼りにしていたのは、アルではなくデールなのだと――。

 絶望的な気分のまま、意識を失った。




 後日――エリーゼは、ブレスレットの魔石に付与され、たアンジェリーヌの保護魔法について、アルに伝えていなかっかたことを激しく後悔することになるが……。

 この時はまだ知る由もなかった。

 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ