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33. 両親がやって来た

「全員集合ー!!」


 訓練場に、三年生の剣術担当の教師の声が響いた。


 号令を出した教師のもとへ一斉に生徒達は集まる。

 その中には、エリーゼ、アル、デールの姿もあった。実践練習に先立って、三人は上の学年に混じって訓練を始めていた。


 三人の噂は他の学年にも流れていたせいか、意外と好意的に受け入れられた。

 特にアルとデールの打ち合った件は、相当興味を引いていたらしく、初日から挨拶もそこそこに手合わせ希望者が殺到したのだ。

 もちろん、教師により止められ、授業が脱線するようなことにはならなかったが。

 エリーゼに関しては、いつもの如く自然と馴染んでいた。


 それから数日が過ぎ、外部講師がやって来る日になったのだ――。

 教師は、生徒よりも緊張しているのか、普段よりも表情は硬く空気がピリッとしていた。


「これから、外部から特別に来ていただいた講師を紹介する!」


 その一言で、生徒の顔も引き締まる。エリーゼも、ドキドキしながら登場を待つ。

 すると、学校長に連れられて、がたいのいい外部講師はやって来た。


『ぶはっ!』とデールは声を殺して失笑する。

 エリーゼはデールを肘で突くも、目の前の光景に仕方ないかと思わずにはいられない。


(いくら、青い髪のイメージを持たせない為と言ってもねぇ)

 

 金色の髪をオールバックに撫でつけ、髭を蓄えた威圧感満載の、父親ガスパルの姿はどうにも違和感がある。


「なんか、凄そうだな」


 その醸し出された圧倒的な雰囲気に、感心した様子でアルは呟く。

 どうやら、以前会ったエリーゼの父親だとは、気付かれてはいないようだった。


(うん、まあ確かにカッコいいわ)


 他の教師と同じ制服を着ていたが、本物の騎士にしか見えない。

 そんなガスパルの指に視線をやると、姿を変える魔道具がキラリと光を反射した。



 ◇◇◇◇◇



 ――その前日のこと。


 エリーゼとデールは、学校長からの呼び出しという名目で、ユリウスの特別室へやって来ていた。


「失礼します」と声をかけ、中に入ると――

 

「エリーゼ!」

「エリーちゃん!」


 ダッと駆け寄って来た両親に、いきなり抱きしめられた。力強い抱擁に押しつぶされそうになりつつ、空気を求めプハッと顔を上げる。


「……父さま、母さま、お久しぶりです!」 

「エリーちゃん、元気そうで良かったわ」


 アンジェリーヌは、瞳を潤ませそっとエリーゼの頬を撫でる。


「デールも元気そうだな!」


 ガスパルは大きな手で、デールの頭をワシャワシャと撫で回す。

『相変わらずだな』と嫌そうな声がエリーゼに届くが、髪をくちゃくちゃにされたデールは、心なしか嬉しそうだ。


「感動の再会に水を差したくはないが、そろそろいいだろうか?」


 しばらく、家族の再会に盛り上がるエリーゼたちを眺めていたユリウスは声をかけた。

 その隣では、学校長がハンカチで目頭を押さえている。


「ああ、すまない」とガスパルは、デレッとした顔を引き締め、ユリウスの方に顔を向けた。


 アンジェリーヌはその横で、エリーゼの手を優しく握ったまま、微笑みを崩さない。

 ほんの一瞬、ユリウスはアンジェリーヌに視線を向けたが、直ぐに逸らした。


(今の……)


 エリーゼは少し気になったが――

 ユリウスから渡された、資料らしき物に目を落としたガスパルの表情に打ち消される。


「これはっ……どういうことだ!?」

 

 信じられないとばかりに、ガスパルは資料を凝視しページを捲っていく。ユリウスは、ちらりとエリーゼとデール見てから、ガスパルに話し出した。


「見ての通りだ。魔物の発生率が尋常じゃない。生徒の前で話すことではないが、時間がないことと……どうせお前は、子供にも話すだろうからな」


「話さねばいけない状況ならば、だ」


 ユリウスは、フッと笑みを漏らす。


「その状況だと思うがな。このまま増えれば、この国だけの問題ではない」


「ああ。だから、俺を呼んだってわけか」


「そうだ。お前との契約は、エリーゼが入学するまでの臨時の外部講師だったが……。優秀な者の指導は成長のスピードを上げる。それにこの状況下で、実践練習中の娘が危険な魔物と遭遇するのは心配だろう?」


 ガスパルの片眉がピクリと上がる。


(あ……。だから、去年は父さまを見かけなかったのね)


 ガスパルが外部講師として来ていたのなら、担当する学年が違っても、気付いたのではないかと思った。

 ましてや、デールが言わない筈がない。


「俺の代わりが出来る外部講師は、討伐隊に引っ張られたわけだな」


「はっ、馬鹿な。お前に代わる腕の者がそう居るわけないだろう。むしろ」


 ――ガスパルが討伐に向かってくれたら、どんなにいいか。


 ユリウスはそんな言葉を呑み込んだ。

 繋いだアンジェリーヌの手に少し力が入る。エリーゼは、そんな母をそっと見上げた。


「私は忙しいから、付き添うことも出来ない。実践で娘の成長を見守れる機会は、そうそう無いぞ」


「まあ、それも悪くない。アンジェもエリーゼとデールに会いたがっていたからな」


「ええ。できれば、エリーちゃんのお部屋に私は泊まりたいわ」


 その場の空気を変えるように、アンジェリーヌはふふっと笑った。


「「えっ?」」ガスパルとユリウスは同時に声を上げる。


「アンジェリーヌ様のお部屋は、邸の方にご用意してございますが」と執事らしさ全開の学校長が言うが、アンジェリーヌは首を振った。


「だって、ガスパルは訓練でエリーちゃんと一緒に居られるのでしょう? 夜は女同士、楽しく過ごしたいわ」

「じ、じゃあ、俺も!」

「え、ダメよガスパル。エリーちゃんの部屋は男子禁制だもの」


「ねぇ〜」とアンジェリーヌはエリーゼに微笑んだ。


『おっさんども、フラれたな』


 エリーゼの背後で、デールは笑いを堪え肩を震わせている。


『デールも、母さまが居る間は入室禁止よ』

『げっ! ……まあ、いいさ。オレも忙しいからなっ』


 負け惜しみなのか、デールはそう言った。

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