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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第三章,軌道
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期待

無事中立組織本部に戻り、いつも通りの日常に戻りつつあった。

アオイはウィッグを被りメイクをして変装し、俺の部屋で知り合いとして暮らしている。


人間側の幹部に動きが見られた為、俺とノエルの仲間で向かう事になった。

ステファニーとはまだ仲直りができていないのか、移動中もどこか気まずい空気が流れていた。

聞き込みの結果場所と時間を割り出す事に成功し、人通りの少なくなった23時半。

高い建物が立ち並ぶ街中で、気配を消し幹部が現れるのをじっと待つ。


「来たぞ」


人間側の幹部───長い銀髪を(なび)かせながらその女、確か名はヒガン──は浮いていた。

いや、よく見れば月明かりに照らされた細い糸の上に立っている。


「糸を早く切るぞ」


「もう遅い」


「……っ!」


どこからか糸が現れ、亜人の様々な死体が吊るされていた。

全身残っているものもあれば一部しかないものまで。


「あっという間に殺したよ。

さっき通ってる人を一瞬で仕留めちゃった」


カナヤ、ハンナ、イアが魔法陣を展開、それ以外で糸を切り、ノエルが幹部に向かって剣を振り上げる。


「だから遅いってば」


倒れるように糸から落ち、新たな糸を出してその上に乗る。


「はい、そこの通行人───」


「させるかっ」


糸が通行人へ伸びるのを防ぎ、すぐさま逃げるように声をかける。


「早く逃げろ!」


「……っ、は、はい!」


「キミは雛菊の。

この中で一番強いのかな。

厄介」


軽々と魔法攻撃を次々に避け、更に同時にノエル達の攻撃もいなす。

並の人間じゃない。流石は幹部といった所か。


「私達を舐めてもらっちゃ困るなぁ」


クレナそしてイアが空中で挟み撃ちをする。


「貴方達飛べるんだ。

けど、私より弱い」


簡単にすっと避け、クレナとイアの攻撃が互いにぶつかり爆発する。


「驚いた。

てか、やっぱり避けられるかー」


「だね。

まるで遊ばれてるみたいだ」


「実際遊びみたいなものでしょ。

この程度の攻撃なんて」


隙を作ってくれたおかげで、俺とノエルが幹部に迫る事が出来た。


「気をつけた方がいいよ」


「それはこっちのセリフじゃない?」


「貴方の仲間達の事を思って言ってるのに」


ノエルの剣を身体を少し反らす事で躱し、後ろから来た俺の刀は服を掠める事に成功した。


「……はぁ、ほんとに厄介」


糸が伸び、的確に俺を含めた亜人のみを狙っている。


「いくら中立組織(エイレネ)に協力してるとしても人間は殺さない。

捕らえさせてはもらうけど」


「これだけの人数の攻撃を避けるなんて」


ノエルはすかさず剣を振るが、糸によって伏せがれてしまう。


「これ以上は時間の無駄」


幹部の腕を掴むも、糸が俺の腕を切ろうと伸びる。

すぐさま手を離す。そのままなら切り落とされていただろう。


「ちっ、やっぱり糸をどうにかしねぇといけねぇか」


「私に触れるなんてすごいよ。

中々居ないから。

じゃ」


「待て……くそ」


ヒガンはなんといっても速さが尋常ではない。

攻撃にしろ移動にしろ殺しにしても迅速にこなし、去っていく。


「皆で戦ったのに、簡単に逃げられちゃった」


「あいつは速いからな。

……けど、触れられたという事は奴にも何か弱点があるはず」


「……私にもっと力があれば捕まえる事出来たのかな」


「別にノエルのせいじゃ」


「うん……でもちょっと考えちゃって」


「………」


2月も終わりに近づき、寒さが少し和らいだ頃。

人間側の動きを何件か阻止する日々が少し続いた。



夜中。

目が覚めてしまった俺はふぅと白い息を吐きながら外に立っていた。

辺りは雪が積もっており、冷たい空気がコート越しに伝わってきた。

歩いて辿り着いたのは見知らぬ道だった。

道の両側には木々が並んでいる。

なんとなくそこを通って歩いていた。


大人になったらもっと強くなって、ありふれているけれど俺にとっては憧れていた普通の生活を送って。

それが理想だった。

けど実際はどうだ。

人間と亜人の関係を守る中立組織(エイレネ)に入って、毎日悩みながら訳の分からない事に巻き込まれて、生きて。


「……こんなはずじゃ、なかったのにな」


「分かりますよ。

人生って思い通りにいかないものですよね」


「……っ、誰だ!?」


「そう警戒なさらないで下さい」


「お前は……」


「はい、お察しの通りテウダやカノと同じ存在です。

私の名はレヴィ。

貴方に問う為に来ました」


オレンジの肩まである髪に、ドレスを着ている。


「……その前にいいか。

お前達はなんなんだ?

いきなり現れて訳分かんねぇ事言ってきて、答えたら跪いて真の名を言って去っていく。

何故俺にそんな事を聞く?

なんで、俺に跪くんだ?」


「………どこまで答えていいのやら。

……私達は貴方達の力を借りていました。

それがきっかけ、といいましょうか。

私達と貴方達は切っても切れない縁のようなものがあるんです。

今はそうとだけ言っておきます」


「……やっぱり訳分かんねぇよ」


少なくともレヴィ達に力を貸した覚えは無い。


「貴方はこの先、『栄光』を掴み取る事は出来ると思いますか?」


「栄光?

俺が?

何の冗談だか。

俺はただの……周りと違う亜人なだけで、何者でも無い」


「こんなはずじゃなかった、とさっき言ってましたよね。

どんなはずだったんですか?」


「……それをお前に言う必要性はねぇだろ」


「……えぇ、そうですね。

確かに私に言う必要はありません。

でも、たまにはどこの誰とも知らない誰かに愚痴るのもありだと思うけどな」


「…………」


「……嫌ならいいんです。

貴方の答えがそうと言うのなら───」


「本当は………本当はこんなはずじゃなかったんだ。

俺は昔から欲しかった普通の幸せを手に入れて、自分の好きな事を突き詰めて……。

それが出来たらどれだけ良かったか。

今の俺は……理想から程遠い。

自分でもどうしたらいいのかずっと分からないまま、ただ生きてる」


「……今からでもそれを享受する事が出来る。

私と契約をすれば」


「今更そんな言葉を信じろと?

散々この世界は俺から色々と奪っておいて」


「それでも、まだ手遅れじゃない。

全てに意味があるから」


レヴィが手を差し伸べる。

俺はその手をじっと見て、次にレヴィの()を見た。

真っ直ぐで、もう一つ別に本当の意味で俺が憧れた人達と同じ瞳をしていた。

どうせ起きないって思ってる。

なら、期待せずその手に乗ればいいんじゃないか。

手を取る時点で期待してる、なんて思われそうだけど。


「いいよ。

ま、どーせそんな事起きないだろうけど」


手を握ったままレヴィが跪く。


「それを裏切る事が出来る日を私は楽しみに待っています。

私の真の名は───」


***


「リーダーどこ行くの?」


声をかけてきたのはオレンジ髪の狐の亜人───亜人側幹部ラコだった。


「そろそろ頃合いかと思ってね。

それより僕に何か用かな?」


「あ、いやぁ現状の報告をしようかと。

最近人間側がやけに活発でしょ?

おまけに殺そうにも中立組織が居て邪魔なんだよねぇ」


「そうだね。

人間を殺そうにも人間側や中立組織が守ってたりして厄介だ。

だからこそ、もっと力をつけなくちゃ。

育成の方どう?

上手くいってる?」


育成とは、子供や最近加わった者、戦力が弱い者を強くする為に行っているプログラムのようなものだ。


「ん〜、気持ちはね皆殺意マシマシでいいんだよ?

けど実力がなぁ。

教え甲斐はあるけど、まだまだって感じかなぁ」


「そっか。

数が多くても実力が伴わなければ意味が無い。

言ってる意味、分かるよね?」


「……精進しまーす」


「じゃ、僕はもう行くから」


拠点を出て、考えを巡らせながら早足で歩く。

どこか焦りにも似た感情。

このままじゃキリがない。

絶対に僕の代で人間を滅ぼしてみせるって決めたんだ。


「もういいだろ。

どっかで僕の事見てるんじゃないの?」


「あっははー、当たりぃ。

君、勘いいねぇ」


常に目を見開いたような、全身黒の服を身に纏った女が路地から出てきた。


「こぉんな閑静な住宅街で声を出したら近所迷惑になりますよー」


「住宅街も何もここはほとんど誰も住んでいない廃墟ばかりじゃないか」


「あ、それもそっか。

あはははは」


「で、どうやったらお前と契約できる?」


「ん〜その『貪欲』な姿勢いいねぇ。

うん、気に入った。

あは、あははー」


「はぁ……その頭おかしいのどうにかなんないの?」


「……は?

急に何様?

あたしの力欲しいんでしょ?

なら態度とかどうでも良くない?」


相変わらず目を見開いたまま、真顔でじーっとこちらを見ながら話しかけてくる。


「いや、別に。

ただちょっと気になっただけ」


「ふーん…………ま、いっかぁ!

じゃあ、貴方は代償に何をくれるの?」


「代償……代償ねぇ。

人間を滅ぼすのが僕の望みであり、生きる意味なんだ。

だから───その望みを代償に捧げるよ」


「貴方が敗北した時点で復讐への執念が永遠に失われる事になるけど、構わなぁい?」


「ああ、構わない」


「ふふ………ふふふふ、あっははははははは」


女はお腹を抱えるように笑った後、天を見ながら笑った。


「望みの為に自分の感情を差し出すなんて……そこまでして貴方は叶えたいのね。

理由を聞いても?」


「理由?

そんなの人間が憎いからに決まってる。

僕の大切な家族を、目の前で奪ったんだ。

あの光景は今でも嫌という程目に焼き付いている。

忘れられない。いや、絶対一生忘れない。

既に家族を殺した奴らは殺したけど……それじゃダメだ。

それじゃあ僕の気が済まない。

もっともっと殺さないと。

そう、人間を殺す度に思うんだ。

まるで悪魔の囁きのように死んだ仲間達が言ってくる、というのもあるかな」


「うんうん、いい……貴方すごくいい!

あぁ……こんな存在に会えるなんて。

初めて神様というものに感謝してしまうかも───ま、絶対にしないけど。

それより……貴方仲間を大事にしてるようには見えないけど?」


僕は冷たい目で女を見た。


「そ?

これでも僕、思いやりがある方だと思うけど」


「本当に?」


「……いや、どっかの誰かさんには劣るかな。

まぁ、あいつは“優しすぎる”と思うけどね」


「んんー……とてもいいお話が聞けてあたしは満足です。

では、今後ともよろしく……ね?」


女はまるで舞台で挨拶するかのような動きで礼をして消えていった。



「…………………」

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