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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第三章,軌道
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青い華

「アオト!?

アオト!嘘……どこに行って……」


風が晴れると、何事も無かったように静けさが漂うだけだった。


「こんな事って……」


何が起きたのかさっぱり分からない。

アオトは一体何処へ消えてしまったのだろうか。

私は冷静さを失っていた。


『ごめん』


「───っ、誰?」


声に振り返ると、目元を隠した赤い髪の少年が立っていた。

その姿は透けており、声も頭に響くように聞こえてくる。


「ごめんって……アオトを何処にやったの!?」


『安心して、彼は無事だよ。

ただし、自分の力で戻って来れるかは彼次第だけど……』


「質問の答えになってない」


『……彼は文字通りこの地に封印されてる。

土よりも奥深くの海の中に』


「そ、そんな……封印って……なんで?」


その場にへたり込む。


『……こうしないといけないんだ。詳細は今は話せない。

ノエル、僕は君に用があって会いに来たんだよ』


「……私、に?」


***


───冷たい。

まず最初に感じたのはそれだった。

身体が落ちていく中、無意識に伸ばした手は遠ざかる光に触れる事は出来ず、ただただ落ちていた。

段々と寒くなり、海の中に入ったかと思うとそこで意識は途切れた。



「───っ、こ、ここは……いったい」


青い砂の地面から起き上がり、周りを見る。

空は真っ黒で、巨大な氷の壁がいたる所にある。


『待っていました』


「誰だ」


振り返ると、こちらに歩いて来たのは銀髪に紫色の瞳をした綺麗な少女だった。


『そう、警戒しないでください。

私は貴方に用があって来たのです』


「俺に用?

……ここはどこだ?」


確か俺は急に現れた魔法陣によって封印された……のか?


『私はマノン。

”創造主“の血を引く者。

ここは貴方の精神世界……と似たようなものです』


「俺の精神世界……?」


こんなに冷たく寒い場所が……。


「創造主の血を引くって、あの“世界を創った”とされる?」


『えぇ、そうです』


この世界はある少女によって創られたという御伽噺がある。

望まぬ結婚を約束された少女は家を飛び出し、湖へと身を投げる。

その少女は沈む中、こう思う。

世界を嘆き、平和であれ皆幸せになれと願いを込めて涙を流す。

涙の泡はやがて大きくなり、この世界が出来たと。


『あの話には続きがあるのを知ってますか?』


「続きがあるって事しか知らない」


『少女は平和であれ幸せになれと願う反面、こうも思っていました。

皆だけ幸せになってずるいと。

だから、世界を創る際にその感情も反映されてしまった。

才能が無いものは努力という代償を、元から才能があるものにはそれ相応の代償を』


「そうして代償が生まれたって訳か。

そんな話を何故俺にする?」


『貴方には知っておいて欲しかったのです。

神をも超える創造主のお話を』


「……どうして俺は封印された?

どうなるんだ?」


『貴方が封印されたのには意味があります。

それは貴方自身、持っている力を自覚する事』


「俺が持ってる力?」


『青い点が視えると言っていたでしょう。

その力と今後向き合って欲しいのです』


ノエルも同様に赤い点があった。

今頃ノエルは大丈夫なのだろうか。


「ノエルは無事なのか?」


『えぇ。

私の想い人であるエイデンが会って話をしている事でしょう』


「……その名前聞いた事があると思ったら“化け物の再来”だな。

御伽噺の主人公にもなってる」


『はい。

かつて悪魔に身を堕とした存在を打ち倒した英雄。

私も彼と同じ仲間でした』


「そんな存在がなんでまた俺に……」


『……やはり貴方は自身の力を自覚するべきですね。

ここを真っ直ぐ行った所に“青い華”があります。

そこに行ってください』


「最後に聞いていいか。

お前は死んだ後もこうして幽霊として存在し続けている。

あの話から300年程経った今でも。

それはどうしてなんだ?」


『……そうですね。

私達の使命、のようなものですかね。

悪魔に身を堕とした存在を倒しても、平和は訪れなかった。

亜人が増え、差別するような世界になってしまった。

だから、それを止められるような存在を探していたのです。

ようやく見つけたのが貴方達という訳ですよ』


「……悪いけど俺には無理だ。

誰かを救う余裕なんて無い。

いつも自分の事でいっぱいいっぱいで、そんな感情なんか持ち合わせちゃいねぇよ。

……じゃあな」


『貴方に世界の祝福があらん事を』


振り返る事なく立ち去り、俺は言われた通りに進む。

息が白く、上着を着ているのにも関わらず寒い。

ここが自分の精神世界と似たようなものと言っていた。

それを聞いた時、俺の心はこんなにも寂しく凍ったままなのかと思うのと同時に納得していた。

あぁ、確かに俺の心に似ているって。

ずっと何か欠けていて、あの頃から時が止まっているような。

けれどちゃんと通る道があって、実際何も無い道を歩くかのように必死にここまで生きてきた。

花なんて一輪も咲いちゃいない。何かを綺麗だとか、そんな感情を抱くことさえ久しくしていないように感じる。

遠くに青く輝くものが見えた。

歩く速さを上げ、近づく。

そこには見た事も無い、青い華が一輪だけ咲いていた。

花弁が5つあり、小さいが上に向かって懸命に生きている。

俺は吸い込まれるように優しく触れた。


───はいつまでもキミの───いるよ。


誰かの声。

聞いた事無いはずなのに、何故か懐かしく温かい気持ちになる。


「お前は一人で寂しくないのか」


華に語りかけるなんて。

俺の問いに答えるようにいつかの感情が流れ込む。


「………寂しくない訳、ないよな」


せめてこの華に水をあげたい。

俺は手を華の上に(かざ)し、魔法で水をあげた。

少しずつではあるが、魔法を使えるようになってきた。


「なぁ、お前は……誰なんだ?

どこかで会った事があるような……いや、もっと身近にあったような………」


視界が白くなる。


「ま、待って───」


身体が持ち上がり視界が水に覆われる中、ただ咲き続ける華を見えなくなるまで見つめていた。

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