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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第三章,軌道
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約束──ねがい──

部屋に戻ると、アオイは椅子に座り一冊の本を読んでいた。

それは俺が子供の頃に読んでいた本。

主人公が仲間と共に世界を救うお話。

昔はそれを何度も何度も読み返して、憧れていた。

今は思い出す事なんて無く、本棚で眠っていたはずの本だった。


「それ読んでるのか?」


「勝手にお借りしてすみません。

少し気になったものですから」


「別にいいよ、それくらい。

……ていうか敬語やめないか?」


「……それは無理な相談かと。

もう身に染み付いてしまってるので。

貴方の今の話し方も同じでしょ?」


「………」


俺はベッドに腰掛ける。


「明日から別の国に行く。

だから一緒に行くぞ」


「……え?」


「安心しろ。正体バレないように変装してもらう。

俺の知り合いでどうしても離れられないって伝えればどうにかなるはずだ」


「……そこまでして、私をあの男の元へ連れて行きたくないのですね」


「お前もよっぽどあいつの事がお気に入りらしいな」


───翌日。

ノエルの仲間達と雛菊からは、紺の長い髪に制服を着たモリンと、エンゲが一緒に行くことになった。


「それが言ってた知り合いか?」


エンゲの問いに、ああと返事をする。


「アオイと申します。

よろしくお願いしますね」


黒の外套(がいとう)を着て、フードを被っている。顔にはマスクを。

気配を消す薬を飲ませてるため、俺と同じとは気づかないはず。


「アオイは俺の知り合いで、諸事情で離れられないんだ」


「よろしくね、アオイさん。

私はノエル」


ノエルが笑顔で手を差し出す。

驚いたように、あるいはどこか眩しそうにした後ぎゅっと手を握り返した。


「よろしく、ノエル……さん」


「呼び捨てでいいよ」


「……はい」


島の受付に着き、島から水が出るのを待つ。

俺達が行く国の首都は海の中の島の為、水の流れに乗って行かなくてはならない。

この世界の海は不思議と息が出来るが、島の中の湖などは呼吸が出来ない。

モリンは海の島出身の為俺達に同行しているのだ。


「行きますよ!」


モリンの掛け声と共に島から滝のように溢れ出る水へ飛び込む。

勢いよく流れる水に身を任せ、しばらく流される。

その間俺はアオイとノエルと手を繋いでいた。

やがて抑まると目を開ける。

綺麗な青い海の中、どんどん下へ沈み暗くなっていく。

暗い海の中を進み、大きな島が見えてきた。

島を覆うように膜が張られ、中は地上と同じく水の無い空間だ。

島に着くと服はすぐに乾き、俺達を出迎えるかのように何人かの兵士が待っていた。


「貴方達が中立組織(エイレネ)の方達と協力組織の方達ですね。

どうぞこちらへ」


全体的に青く照らされた道を歩き、大きな門をくぐる。

広い敷地には何人かの従者の姿やいくつかの建物があった。

道を左に曲がり真っ直ぐ行くと、氷で出来たような豪奢で見上げる程巨大な椅子に女王は座っていた。


「兵達よ下がって良いぞ」


「は!」


「皆の者よ、よくぞ来てくれた。

私はこの国の女王ソフィアだ。

早速だがここに呼んだ理由なんだが………2、3週間程前禁忌の幻獣が契約された。

そして禁忌の使用が確認されたんだ。

それに君達が関わっている……というより巻き込まれたと言った方が適切だろうか。

その事について詳しく聞きたい。

何せあの幻獣達は私達の管轄でもあるからな」


ノエルはあの日起こった出来事を完結に話した。


「やはり人間側のリーダーか。

ありがとう。

……そこの青い髪の子と隣にいる子、そしてノエルさんは残っていて欲しい」


「分かりました」


「他の皆様達はゆっくりお休み下さい」


残された俺達は女王が話すのをただ待っていた。


「単刀直入に言おう。

君ら代償の影響を強く受けているね?」


「……はい」


「……そう、ですね」


ノエルの方を見る。


「大丈夫なのか?」


「う、うん……心配しなくて大丈夫だよ。

ちょっとした事、だから」


「………」


「言いにくい事なのは察した。

すまないがこちらに来て詳細を教えてくれないだろうか」


「構いませんよ」


「そういう事なら私も」


俺が先に女王に告げ、次にノエルが話した。


「なるほど……。

教えてくれて感謝する。

思ったより厄介だな。

……アリシア、この方達を頼む」


「はい、分かりました。

(わたくし)は王女のアリシアと申します。

以後お見知りおきを」


丁寧に挨拶するアリシアに礼をする。


「では、こちらへどうぞ」


連れて来られたのは王女の部屋だった。


「どうぞお座りになって」


「失礼します」


部屋の中央に置かれた椅子に座る。

外から差し込む青い光が室内を照らしていた。

テーブルに執事が紅茶とクッキーを用意する。


「どうぞ召し上がりになって」


「では……」


俺は紅茶を飲み、ノエルはクッキーを手に取った。

アオイもそれに続いて紅茶を飲む。


「実は折り入って貴方達に話があるのです。

その為にここに呼びました」


「話って何ですか?」


「……今すぐここを離れてください」


「離れてって……どういう事だ?」


「詳しくは私にもよく分からないんですが……視えたのです。

貴方達に何かが迫っている、と」


「何かってのは分からないんですか?」


「はい……抽象的になってしまい申し訳ありません」


「だけど離れるって言ったって何処へ……」


「それについてはご安心を。

当てがありますので」


「……どうする?」


「………」


考え込むノエル。

正直俺としてはどうしていいのか分からなかった。


「……出来れば私の指示に従って欲しいのです。

貴方達の為にも」


「分かりました。

アオトもアオイさんもそれでいい?」


「ノエルがそう言うのなら」


「……分かりました」


「なら、すぐに出発しましょう」


アリシアの後に続き部屋を出る、すると───


「……っ!」


それは一瞬の出来事だった。

瞬きをすると俺は、見知らぬ場所に立っていた。

青白い花畑が広がる場所。

遠くにこの場所を取り囲むように青い木が生えている。


「……痛っ…………なん、だ……これ」


急な頭痛に思わず顔をしかめる。

何か……とても大事なことを忘れているような。


「………」


思い……出したくない。

けど……これは、この思い出だけは───



『一目見た時から思ってた』



「アオト!」


「……ノエル?」


「どうしたの!大丈夫?」


心配そうに駆け寄ってくる。


「なんで……ここが分かって……」


「アオイさんが教えてくれたの。

それより、どうしたの!?」


「なんか……頭が痛くて」


その場にしゃがみ込む。

ノエルに身を任せるまま、目を瞑ると昔の光景が蘇ってきた。



───あれは俺が13歳の頃。

まだ修行の身で、師匠と行動を共にしていた時の事。

ある大きな市場に連れて来られた事があった。

そこで俺は近くの小屋に待つように言われ、師匠の帰りを待っていた。

俺は恐る恐る大きな窓を開け、外の様子を見ていた。

俺のような不思議な気配のする亜人は売られたり、飼われたりして危険だから身を隠せと言われていたのにも関わらず、好奇心が勝ってしまった。


「わぁ……お兄ちゃん、綺麗」


「……っ、だ、誰?

……て、なんだ女の子か」


手を振り、窓を閉めようとした時、手を女の子に掴まれた。

というより、握られた方に近かった。


「お兄ちゃんって、ひょっとしてあじんって種族?」


「そう……だけど」


「お耳ふさふさ〜。

ねぇ、触ってもいい?」


「え、だ、ダメだよ。

って、えぇ!?」


女の子はよじ登ると部屋の中に入ってきた。


「ど、ど、ど、どうしよ……師匠に怒られちゃうし……うぅ……ねぇ、そこの子、ゴメンだけど───」


「わぁ〜」


キラキラとした目で俺の両手を握る。


「ねぇねぇ、一緒に遊ぼ!」


「へ!?

い、いやぁ……でも師匠が……」


「ダメ?」


女の子はしょんぼりとした顔をする。


「そ、それよりお母さんとお父さんは?」


「多分大丈夫!

見つかる気がするから!

だから、それまで遊ぼ!」


「………ま、まぁ、ちょっとだけなら」


「やったー!」


半ば強引に遊ぶ事になった。

けれど、不思議と嫌な気持ちは無かった。

誰かと遊ぶ、なんて経験した事も無かったから。


女の子と遊ぶのは楽しかった。

一緒に絵本を読んで、小さな部屋でかけっこをして、クッションを投げあったりして。

こんなにはしゃいで遊んだのは初めてだった。

普段の嫌な事を忘れられたのも、初めてだった。

何より、自分を差別する事無く遊んでくれた事が嬉しかった。


「聞いてもいい?」


「なぁに?」


「なんで、僕と遊びたかったの?」


「なんでって……あのね、お兄ちゃんを見た時思ったんだ。

綺麗だって。

それでお兄ちゃんの心に触れたくなったの」


そう言って俺の胸に手を当てる。


「僕の……心?」


「そう。

なんでか分からないけど、惹かれたんだお兄ちゃんに」


「……アオト」


「あっ!

え、えと、これは違くて!」


帰ってきた師匠に言い訳をしようとするも、師匠は怒る事無く笑った。


「一緒に遊んでいたのか?」


「うん!

お兄ちゃん、アオトっていうの?」


「キミは?」


「私はね───」


それから一週間程女の子と毎日遊んだ。

毎日楽しくて、夜も眠れなくなるぐらいワクワクして、こんなにも明日が楽しみに思えるなんて。



「実はね……もう帰らなきゃいけなんだ」


そんな日が来るとどこかで分かっていた。

こんな毎日が続くなんて無いと思っていたし。


「そっか。

……じゃあね」


女の子の頭を撫でる。


「最後にね、御伽噺にあるおまじないを一緒にして欲しくて」


「おまじない?」


「そう。

……お兄ちゃんが寂しくないように。

また、会えるようにって」


女の子が俺の右手を女の子の胸に当てる。

女の子の右手は俺の胸に。


「私の鼓動聞こえる?伝わってる?」


「う、うん……」


緊張しているのか、少し速い鼓動が振動が伝わってくる。

俺の鼓動も伝わっているのかと思うとちょっと恥ずかしかった。


「それでね、目を閉じてお願い事をするの」


言われた通り目を閉じる。

彼女の鼓動の音が、窓から吹き込む優しい春風の音が聞こえる。



───また会えますように───



互いの想いさえ聞こえたような気がした。


「まだ、目を瞑っててね」


胸から手を離し、女の子が俺の両肩を掴む。

そして、柔らかいものが唇に触れる。

びっくりして、目を開けると女の子の顔がそこにあった。


「……これでおまじないは終わりだよ」


「…………!」


顔が真っ赤になっていくのが分かった。

女の子はそのまま俺に抱きつき、ぎゅっと抱きしめられる。

俺もその女の子の背中に手を回し、抱きしめる。


「最後に聞いてもいい?」


「なぁに?」


「なんで、僕にここまでしてくれるの?」


女の子は俺を見つめ、頬を染めながら愛おしそうに表情を緩める。


「ふふ、内緒」



「─────ト………アオト!」


揺り起こされ、目を開けるとノエルがいた。

右手をノエルの頬に伸ばし、親指でそっと撫でる。


「……そうか、あの時の女の子だったんだなノエル」


「………え、思い出してくれ、たの?」


「あぁ……思い出した。

あの時の質問の答え聞いてもいいか?」


「……いいよ。

初めて貴方を見た時ね、こんな綺麗な生き物見た事ないって思ったんだ。

それに引き寄せられるように貴方に近づいて。

言葉では上手く表せられないんだけどね、貴方の魂に引き寄せられたというか……心を……アオトの事を知りたいって」


ノエルに右腕で背を支えられ、左手は俺の頬に添えられていた。


「知っていくうちにね、優しいなぁって。

遊ぶ時も常に私に気を遣ってくれて、転びそうになったら支えてくれて、クッションを投げる時も優しくぽんって当てるだけだったし。

そんな貴方が愛おしくてたまらなかった」


ノエルの親指がそっと頬を撫でる。


「その時から私は貴方の事ずっと想っていたよ。

5年前出会った時、確信した。

あの頃より素直じゃなくなったけど、アオトはアオトだって」


「その時から気づいてたのかよ。

なら、言ってくれればあんな態度取らなかったのに」


「アオトには自分で思い出して欲しかったの。

……それに、アオトの事だから『俺があの時の亜人だから優しくしてるんだろ』って言われると思ったから」


「……あの時の俺なら言いかねないな」


「でしょ?」


ノエルを押し倒すような形で抱きしめる。

肩に顔をうずめ、ノエルの匂いと温かさを感じたかった。


「今日は積極的だね」


「……別にいいだろ」


「うん、いいよ」


頭を優しく撫でられる。

俺がノエルとの出会いを忘れていたのは、きっとその後に起きた事件のせいだろう。

言い訳にしかならないけど、その恐ろしい事件をきっかけに13歳の頃の記憶は曖昧だ。

それ程思い出したく無い出来事だったから。


起き上がると、ノエルは辺りをキョロキョロと見回す。


「どうしたんだ?」


「さっき、気がついたらアオトが居なくなってたの。

なんでだろうって」


「俺も気がついたらここに居たな。

なんで───」


「きゃっ」


「ノエ───っ!」


名前を最後まで呼ぶ前に凄まじい風が俺の周りを囲むように吹いていた。


「アオト!!

大丈夫なの!」


「あぁ!

ノエルは?」


「私、さっき誰かに引っ張られて」


「誰か?」


風が止んだと思ったら、無数の魔法陣が俺に向けて展開されていた。


「なっ」


「アオト!!」


俺の周りには大きな筒状のバリアが張られ、ノエルは近づけないようになっていた。


「なんだこれ……どうなって」


手に違和感を覚えた俺は、両手を見ると手首に魔法で作られた手錠がされており、鎖は地面に固定されていた。

そして地面には巨大な魔法陣が。


「嫌だ!アオト!!」


叫ぶノエルを安心させようと微笑む。

風がより一層強く吹き、ノエルの姿は見えなくなった。

地面が無くなり、俺はその中へと落ちていった。

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