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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第三章,軌道
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化け物

依頼をこなしていき、2日程経った頃。

本部へと戻り次の依頼へ。


「アオトはステファニーとシャーロットと組んで」


ノエルからそう告げられ頷く。

よろしくな、と軽い挨拶を済ませ依頼先である南街へと向かった。


「今日からお世話になるステファニーです。

よろしくお願いします」


ステファニーの挨拶に合わせ、頭を下げる。

髪をポニーテールにし、水干(すいかん)に着替えたのはお寺に2泊3日するためだ。


「はいよ。

ん、そこの子あんた顔が良いね。

下働きじゃなく、表出てくれても構わないんだけどねぇ」


「……遠慮しときます」


なるべく表情に出ないためにも、顔を逸らして答える。


「あら、残念。勿体ない。

けど、依頼したのはこっちだからね。

気が変わったらいつでも言っておくれね」


「はは……そりゃどうも」


このお寺の主である老婆が去っていく。


「すごいじゃん。

あの人厳しいって評判なんだよ。

そんな人から褒められるなんて」


「俺は何もしてないけどな……」


「アオトさん綺麗ですからねー」


「お、いたいた。

おーい、こっちこっち」


10代ぐらいの髪の短い少女が手招きをする。

その子の元へ行くと、慌ただしく働いている少年少女達がいた。


「あたしが案内役を頼まれたベルっていうんだ。

よろしくっと。

さて、早速頼みたいのが……」


ここは10代の子供達が住まうお寺で、大人は数えるくらいしかいないらしい。

親から修行のために出された子や、孤児や様々な理由で来た子供達がいる。

俺達がやるのは所謂(いわゆる)裏の仕事で、雑巾がけなどの掃除を主にやる事となっている。

(ちな)みに表の仕事というのは、お寺の近くでやっている喫茶店の事だ。

ノエル達などの協力組織や日である烏丸などはこういった依頼が来る事が多いらしく、俺達が普段やっている仕事とは温度差があって、なんだか初心に戻ったような心地になる。


「ほら、ぼーっとしてないで仕事仕事」


「あぁ、悪い」


雑巾をしぼり、床にしゃがみ込むと廊下を拭いていく。

それを繰り返していくうちに、慣れない体勢のせいか足や腰に徐々に負荷がかかってくる。


「思ったよりしんどいな……」


「おや、雛菊とあろうお方がもうそんな弱音を?」


そう言うステファニーはまだまだいけるといった様子だ。


「戦闘とは違ったしんどさがあるな」


「まぁ、あたしらの普段の仕事はこういうの多いからね」


「2人共ーお喋りはそこまでにして、早う仕事終わらせましょ」


シャーロットに止められ、掃除を再開する。

一通り綺麗になり、お昼ご飯を食べる。

出されたのはおにぎりやウインナーといった素朴ながらも温かみを感じる物だった。


「美味いな」


「どんどん食べて午後からも頑張って働きましょうね!」


ベルが、いい食べっぷりを見せながら言った。


昼ご飯を食べ終わり、本棚を整理していると小さな少女が手を止めて何かを読んでいた。


「お前は……烏丸のサナエか?」


「ん?

お兄さんは……誰だっけ?」


烏丸とは同じ中立組織(エイレネ)とはいえ、所属してる人数や仕事内容的にも面識がない人がほとんどだ。

当然として知らなくてもおかしくはない。


「俺は雛菊のアオト」


「あぁ、なるほど。

キミが……ね。

ていうかお兄さん、なんで私の事知ってるの?」


「そりゃ、史上最年少でこの組織に入った天才児だからな。

噂程度には知ってたってだけだ」


ボブヘアに大人しそうな顔をした、まだ4歳の女の子だ。


「ふーん、そうだったんだ。

ねぇお兄さん、知ってる?

このお話」


見せてきた本は有名な御伽噺だった。

俺はその場に座った。


「あぁ知ってるぞ。

最初は何もできなかった魔法使いが、仲間と出会っていき、最終的にはすごい魔法使いになって悪魔と契約した人間を倒し『英雄』と呼ばれるようになった。

って話だろ?」


「うん!

それでね、お兄さん。

───『化け物』になる条件って知ってる?」


サナエの雰囲気が変わったような気がした。


「え?

化け物って、英雄の事……だよな?」


「そ。

まぁ、詳しく言うならば『化け物の再来』だけど。

『化け物』になる条件はまず一つ火属性である事。幻獣、精霊、亜人、天使───そして神と契約している事」


「幻獣……精霊」


「でもそれじゃ、この世界の理を覆す事は出来なかった。

ならば、あとどんな力を手に入れればいいと思う?」


「え……創造主、とかか?

“もう一つの御伽噺”にあっただろ」


創造主がこの世界を創り、神や理など全ての物を創ったと言われている。


「化け物と創造主は対なる存在。

つまり相性が悪い」


本当に4歳なのかと疑う程の知性。

だからこその天才児なのだろう。

この世界の核心に近い何かを知ろうとしているような。


「私には知性はあっても、力は無い。

もちろんそこらの人間や亜人なんかに負けはしないけどね。

何かが足りないんだよねぇ……」


視線を本へと戻し、黙るサナエ。

俺はそっと立ち上がると、本棚を後にした。


掃除を終えて、晩御飯を食べ、お風呂に入り、後は寝るだけとなった。

子供達はまだ起きてるのかわいわいとはしゃぐ声が聞こえる。


俺は明かりを消し、布団に入ると目を瞑った。


───眠れない。

皆はもう寝たのかすっかり静まり返っている。

起き上がると、散歩しようと外に出た。


ぽつぽつと、俺の頭の中に色んな思いが駆け巡る。

この世界の『英雄』のお話。

小さい頃から大好きで何度も読み返したお話だった。

そして、最初の憧れだったんだ。

眩しくて、どこまでも優しく強かった。

あくまで御伽噺で本当の事はどうだったのか分からない。

最初は力も無く魔法すら全然使いこなせなかった。

そんなただの少年が、やがて世界で最も凶悪とされた存在を討ち滅ぼす。

俺も何の才能も無く、無力だったからこそ強く憧れたんだ。

だから、俺もって……ずっとずっと何度も夢を見続けてきた。

現実はそんな優しい『英雄』なんかになれず、結局俺は俺だったけど。


冷たい風が吹き、寒さに震える。

もう帰って寝ようと、部屋に戻った。

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