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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第三章,軌道
63/83

禁忌

「さて、自己紹介から始めようか」


俺は人間と亜人の女性に囲まれていた。

彼女らはノエルの仲間達。


「あたしはステファニー。

一応この組織の副リーダーをやってるんだ。

よろしく」


「あぁ、よろしく」


長い黒髪を結んだ人間の女性、ステファニーと握手をする。


「私はカナヤと申します。

しばらくよろしくっす」


ロリータ衣装に身を包んだ、薄茶髪の狐の亜人カナヤがスカートの端を持って挨拶した。


(わたくし)はシャーロットと申しますー。

ノエちゃんからはよく話を聞いてて。

短い間ですが仲間となれて光栄ですー」


ひらひらとした袖の服を着た、黄緑色の髪の人間、シャーロットが手を合わせてにこっと笑う。


「はいはーい!

あたしはクロエ!

これから仲良くしようね!」


元気よく手を挙げ何回かジャンプしながら自己紹介をした、オレンジ色の短い髪の猫と兎の亜人にハイタッチされた。


「ハンナと申します。

よろしくです」


短く淡々と挨拶したのは、紫色の髪を二つに結び、グレーのワンピースに黒の上着を着た犬と狼の亜人ハンナだ。


「最後に〜あたし達!

クレナちゃんと〜」


「イアだ。よろしく」


赤紫色のウェーブがかったボブヘアの人間のクレナと、藍色のロングヘアの鳥の亜人のイアが2人寄り添って自己紹介した。


「以上私の仲間でした〜。

皆いい子達ばっかりだから」


「ノエルの見る目を疑ってねぇよ。

俺はアオトだ。よろしくな」



こうなったのは少し前の事───


「アオト、ノエルの組織からの頼みなんだけど、しばらくあっちの組織に協力してくれない?」


「いいけど、なんでまた?」


「いや、この前ノエルをしばらくうちの組織に協力してたからそのお礼の代わりにって。

僕としては期間は2、3週間だし、理にかなってるからね。

それにいい経験になると思うから」


「分かったけど、それいつからだ?」


「出来れば今日からでもだってさ」


───という訳で、ノエルの組織に協力する事になったのだ。


「早速だけど依頼が入ってて。

私とカナヤとアオトでこの街の依頼。

で───」


チーム分けしていき、それぞれ荷物を持って目的地へと向かう。


「今回の依頼は北の方で、人間側との動きがあったらしくて。

実力でいえば一番アオトが強いと思うけど、今日は私達と初めてだから一緒ね」


にこっと満面の笑みを浮かべるノエル。


「そういって、ただアオト君と組みたかっただけじゃないんすか?」


「ち、違うってば!今回は本当にそういう気持ちはなくて!」


「あはは、冗談だよ。

でも、そういうアオト君もノエちゃんと一緒で嬉しいっしょ?」


「……っ、えと、まぁ……」


どういう返しと反応をしていいのか分からず、頬を軽くかいて目を逸らす。


「ははーん嬉しいんだ。

あたしアオト君とは会ったばかりだけど、2人ともすっごくお似合いだと思うなぁ」


「ちょ、ちょっとやめてよ……恥ずかしい。

今は仕事中だよ」


「まだ向かってる途中だから微妙じゃない?」


「向かってる時から帰って報告するまでが依頼っていつも言ってるでしょ?」


「もぉー真面目なんだから。ねぇ?」


ねぇ、と微笑みかけられても困る。


「まぁ、ノエルの言ってることは最もだし、カナヤの言いたい事も分かるけど」


「私の味方してくれてもいいじゃん」


ぷぅっと頬を膨らませるノエル。


「ノエルも俺と同じポジションなら困ると思うぞ」


「え、カナヤもしかして困らせちゃってた?

なぁんて、何度も困らせてごめんなちゃい!」


「謝る気ないだろ……」


そんなこんなで馬車乗り場に着き、馬車に乗った。

ノエル達の話し声を聞きながら、いつしか俺は揺れる馬車に心地良さを感じ眠ってしまった。


「───きて……ト、もう………」


「ん……んん?」


「もう着いたよ」


「………」


目の前にあるのは大きな双丘、そしてこちらを見下ろすノエルの顔だった。


「……うぇっ、い、いつの間に……えっ!?」


「ふふふ、アオトったら珍しく狼狽えてる」


そう、いつの間にかノエルに膝枕されていたのだ。

胸に当たらないようにそっと起き上がる。


「その……嫌、じゃなかったか」


するとノエルがじとっと見てくる。


「私が嫌って言うと思う?」


「……言わない、と思う」


「だったら行くよ」


馬車を降り、街を見回す。

のどかな亜人の街で、どこもかしこも賑わっている。


「まずは支部に向かおうか」


支部───中立組織北支部。

確か干支、もとい地平線の丑がここを担当していたはず。


「あら、いらっしゃい」


手を振って出迎えたのは、黒い髪を後ろで結びゆったりとしたワンピースを着た人間の女性だった。

この人こそがそう、丑担当のミツさん。

俺より3つ年上で、上司にあたる人だ。


「依頼の事聞いてるよ〜。

はい、これ」


ミツさんがノエルに紙を渡す。


「よろしくねぇ〜」


受付から離れ、3人で見る。

人間側が現れる場所と時間、被害内容が書かれていた。


「夕方から夜にかけて、か。

ならそれまで聞き込みとかしよっか」


ノエルの判断は早く、手慣れているなと思った。

そんなの当然なのだが、何せ5年前までは考えられない光景に変わったんだなと実感させられる。


「聞いてる、アオト?」


「あぁ、まずは聞き込みだろ?」


「聞いてるのならいいけど、どうしたの?

何かあった?」


「いいや、なんでも」


「ほーんとお似合いですねぇ」


支部の外に出て、被害があった地区へ。

そこで話を聞けそうな人と接触することが出来た。


「……あいつら亜人だからって見下して。

暴走すれば────」


女性は最後の方は聞き取れない程小さな声で呟いていた。


「何されたかって、聞いても?」


「あぁ、構わないよ。

ちょうど日が沈んだ頃だった───」


歩いていると、後ろから気配と足音がして。

振り向くと、1人の女性が居たんだ。

髪は白く、20代ぐらいだった。

私を見つけると、2人の部下に何か指示を出して襲ってきたんだ。

私は必死に走って逃げた。

無抵抗の人になんの躊躇も無く、まるで感情が無い人形のようだった。

もうダメだって時に、薙刀(なぎなた)を持った中立組織支部のミツさんが守ってくれて。


「───それで助かったって訳さ。

同じような被害が私の知り合いも被害に遭ってる。

どうか、早くなんとかしておくれ」


女性と分かれ、また別の人に話を聞く。

それを繰り返し、日が傾き始めた頃。

道の端に寄って聞いた話をまとめていた。


「大体2、3人ぐらいで襲ってきて、殺された人は幸いにもいないと。

時間帯はバラバラだけど、1人で居る所を狙ってるってのは共通点だね。

確実に殺したがってるみたい」


「そこは人間側も亜人側も同じだな。

殺して成果を上げるイカれた集団だから。

けど、殺し方は全く違う。

亜人側は惨く、残酷に。

人間側は素早く、的確に」


「ほんと、仲良くできないもんすかねぇ。

まぁ、できないからこうなってるんですけど。

どうする、ノエちゃん」


「………」


ノエルは考えた仕草を見せ、ふと一瞬だけ目が合った。


「私が囮になる、ってのはダメかな?」


「……っ、それはダメ!

そうですよね、アオトさん!」


「……ノエルの強さなら、心配は無いだろう。

気づいてると思うが、現人間側のリーダーも関わってる可能性が高い。

そんな奴がノエルを見て、強者と気づかない訳がねぇ。

カナヤも同様に、戦いに優れた者と気づかれるだろう」


「なら、他にどうやって」


「俺が囮になる。

相手は必ずやって来るはずだ」


「ちょ、ちょっと待ってください。

相手が必ず来るという根拠は?」


「現リーダーとは5年前にちょっとした因縁みたいなものがあってな。

これは俺からの提案なんだが───」


夜。

俺はフードを被り、誰も居ない月明かりの下の道を歩いていた。

立ち止まると、声を上げる。


「……そろそろ出てきたらどうだ?」


街の公園に誘い出す事に成功した俺は、フードを取ると振り返った。


「お久しぶりですね。

……5年ぶりぐらいでしょうか。

まさかまた出会うとは。

てっきり誰かに殺されたのかと」


「そう簡単に死ぬかよ。

お前こそ、現リーダーにまで上り詰めるとはな。

───アンリ」


人間側リーダー、アンリ。

5年前、俺とノエルの元に訪れた───当時は人間側の幹部ですら無く、俺よりも弱かった。

ノエルを人間側に誘うも、価値観の違いで一旦断念した。


「覚えていますでしょうか?

今度会ったら殺すと言った事をっ!!」


「あぁ、覚えてるよっ!」


刃と刃がぶつかり合う。

せめぎ合う中で感じたのは、相手の力量そして憎しみの強さだった。

弾くも、すぐさま刀を振り下ろされる。


「ここで、お前を殺し……首を持ち帰ってやる」


「おぉ、怖っ。

人間側はそんな残酷な殺し方はしないんじゃ?」


さっきよりも強く弾き、足で刀を蹴る。


「そんなので体勢を崩したつもり───っ!?」


そこに現れたのは、今まで気配を消していたノエルだった。

思わぬ存在に目を見開く。

が、すぐにキッとした表情になる。


「久しぶりだね、アンリ」


「お前は……ノエルか。

はは、まさか本当に争いを止めるために中立組織に協力したのか?

本物の大馬鹿者だな。

そんな事をしていなければ、今頃幸せにお嫁にでもなれたものを」


「私のもしもの話を勝手に想像しないでくれる?

そんなのは存在しない!

今の私が全てだ。

……貴方、あれからたくさんの人を殺したでしょ。

今の私ならそれが分かる」


「だからどうした?

私が憎いか?

私を殺したいか!?」


「そんな事ない!

貴方がした事は許せないけど、絶対私の手で止めてみせるから」


「……はぁ?

まだそんな戯言を……あぁ、ムカつく。

本当にこんなに苛立つ人間はお前ぐらいだ。

いいだろう、そこの亜人と仲良く殺してやるよ!」


刀と剣が交錯する後ろで、杖を持ったカナヤが魔法陣を展開する。


「小癪な真似を」


一旦引いた所に、俺は杖をかざし拘束する。


「な、お前のその力は……!」


髪を下ろし、目には黒い布、全身白と黒の衣装に変わった俺の手には刀が杖へと姿を変えていた。


「『美』の負の力───お前で試してやろうと思ってな」


いつも使っている別世界の力は、『美』の正の力だ。

これに対して、負の力はあまり使う事は無い。

理由は様々だが、この場合は試す半分捕まえるためだ。


「試す?

亜人風情が、抜かした事を!」


拘束が解かれ、俺に向かって襲い来る。


「防御魔法展開」


魔力で出来た大きな盾で防ぐ。


「こんな状況になっても、部下は呼び寄せないんだな」


「……貴様!

お前こそ、その姿になるという事は自分が不利な状況なのだと理解しているんだろ?」


「お喋りはそこまでっすよ!」


カナヤの魔法弾が炸裂し、辺りが煙で見えなくなる。


「雑魚が、邪魔なんだよ!」


カナヤの元へ跳ぶも、ノエルが攻撃を防いだ。


「───はいはい、そこまでねぇ。

この子達がどうなってもいいのかな?」


「……っ、お前達」


そこには部下を捕まえたミツさんが立っていた。

気が動転した隙をつき、ノエルが刀を遠くへ飛ばし、俺とカナヤの魔法で何重にも拘束する。

普通なら、解けないはず。


「はっ、どうなってもいいと言うが、そんな事は出来ないだろ?

甘っちょろの中立組織様は」


「確かにこの子達を裁くのは私達じゃない。

けどね、この子達は今まで人を殺してきたっていう確かな『実績』があるの。

この意味分かるかな?」


「………」


「つまり、私が許可を下せば死なない程度の拷問は可能なのよ」


軽々と2人を拘束し、縄で縛り上げているのを見て流石と言わざるを得ない。


「私にはそれが“脅し”にしか聞こえないな。

本気で言えば騙せるとでも思っているのか?」


「姐さん、私達の事はいいから」


「そうです、逃げてください」


「そんな事を言うな!

私の腕前なら、お前達を救ってこの場から逃げる事など容易(たやす)───」


「姐さんの事は信じています。

ですが、ここは私達を置いて逃げてください!」


「なっ……そんな、そんな事出来る訳がないだろっ!」


亜人側と違って、人間側は情に厚い。

亜人側は自分が不利となると味方を捨てる場合が多い。

理由は散っていった味方の分も、生き残った自分が背負い繋げていくと。

だが、人間側は全員を家族のように考えている。

だから、どんな状況であろうと必ず味方を助けようとするのだ。


自分の中で負の感情が溢れ出しそうになるのを抑える。

正の力よりも負担が大きく、『代償』が大きい。

だからこそ手短に終わらせたい。


拘束を打ち破り、ミツさんへ我先に向かうアンリとの間に割って入る。

咄嗟に魔力を込めた杖と、刀がぶつかり合う。


「邪魔をするな、化け物が!!」


「……っ、さっきからワーワーうるせぇな。

ミツさん、今のうちに」


「えぇ、分かってるわ」


ミツさんは転移魔法を使うと、この場から去っていった。


「クソ、クソが……」


目に涙をためてはいるものの、目は血ばしり歯を剥き出しにして表情(かお)を歪めていた。


「逃がすかよ!」


飛んで逃げようとするアンリの足をノエルと共に掴み、カナヤが拘束魔法そして攻撃魔法を上空に散りばめる。


「観念しなさい!」


「────」


アンリが何か呟いたのと同時に、その姿が消えた。

そのまま俺とノエルは地面に倒れ、カナヤが駆け寄ってくる。


「え……今のどういうこと」


「2人共大丈夫!?」


「あぁ、何とも無いが……」


アンリの気配は全く無かったが、念の為街を見回りミツさんが待つ支部へ。


「……そう、逃げたのね。

突然消えた……ね」


「何か心当たりあるんですか!?」


「アオト君は、分かるよね?」


「はい。

……多分『禁忌の幻獣』の力だと思います」


「ここは誰も居ないから続けて」


「その中でも『幻獣ファルファッラ』は『平行世界』を司る。

その力を使ったのではないかと」


「『禁忌の幻獣』……『平行世界』?」


「本来平行世界なんてものは存在しないの。

今居る私達の現状のみが全て。

けどね、この世界には三大禁忌を司る幻獣がいるの。

『時の幻獣』、『存在の幻獣』、そして『平行世界の幻獣』」


一つ、時を戻したり止めたり勝手に進めてはならない。


「『平行世界』っていうのは、簡単に言えばもしもの世界の事ね。

アンリはその力を使って、“捕まっていない世界”の可能性を引き出したと言えばいいかしら」


「それなら、仲間を救う事なんて簡単じゃ」


「カナヤちゃん、いい着眼点ね。

禁忌なだけあって『代償』が大きいのよ。

本来ならあそこで捕まってた、あるいは怪我をしていた可能性が高かった訳だけど、何か都合が悪いのかしら。

無傷で帰りたかったみたいね。

で、話を戻すけれど禁忌の『代償』は全人類に及ぶ。

今回の場合、特に触れていたアオト君やノエルちゃんに大きく『代償』が降りかかるでしょうね。

最も大きく降りかかるのは当然アンリでしょうけど」


二つ、死者を蘇らせてはならない。また、生きた人間を“存在しなかった事”にしてはならない。


「そ、そんな……ど、どうすればいいんすか!」


カナヤが心配そうにノエルの手を握り、ミツに問いかける。


「『平行世界』の代償は……この場合だとアンリと戦った記憶だけが抜け落ちるでしょう。

カナヤ、貴方も例外じゃないわ。

間接的にとはいえ、魔法で繋がっていた訳だしね。

話を詳しく聞いた私も、時期に忘れるでしょう」


「報告書に残しているから、記憶は無くても記録に残るんじゃ……」


三つ、平行世界を存在させてはいけない。


「それも無理だな。

綺麗さっぱり消える」


「そ、そんな事が……あ、有り得ないよねノエちゃん」


「……私は有り得る、と思う」


「………」


「あと禁忌の話、『平行世界』の事だけ忘れる可能性が高い。

他の2つについてだけど誰にも口外しないでね。

この世界でもその存在を知っているのは、正式な中立組織の面々だけだから」


重々しい空気の中、宿へと帰る事にした。


翌日。

起き上がり、カーテンを開く。

そういえば昨日から、ノエル達が泊まっている一室を借りたのだった。

窓から差し込む光に目を細めながら、顔を洗い歯磨きをする。

服を着替えて、髪を結ぶ。

いつものルーティン。


今の所記憶に変化は無い。

昨日アンリと戦った事はまだ覚えている。


「おはよう、アオト」


「あぁ、おはよう。

カナヤは?」


「……昨日の事でちょっと考え事してるみたい。

今日は休ませてあげて」


「俺達はどうする。

まだいくつか依頼残ってるだろ」


「そうだね。

カナヤの分も頑張らなくちゃ」


そう言って笑ってみせるも、いつもの元気は無くどこか弱々しさを滲ませている。

そんなノエルの頭に手を乗せ、優しく撫でる。


「無理しなくていいんだぞ」


「……やっぱりアオトには隠し事できないね。

ねぇ、午前中私に付き合ってくれない?」


「いいけど、何処に行くんだ?」


「ちょっと散歩」


やって来たのは街の端の方。

人通りは少なく、暖かな日差しが降り注ぐ。


「昨日の話、なんだけどね。

私もアオトも多分、アンリと戦ったこと忘れない可能性があるなって」


「……どうしてそう思うんだ?

禁忌や代償はこの世の理で、絶対なんだぞ?」


「分かってる。

けどね、なんとなくそんな気がするの。

もしくは、忘れたとしてもふと何かの拍子で思い出すとか」


「意味分かんねぇ……大体俺達みたいなちっぽけな存在にんな特別な事起こる訳ないだろ」


「私の予想が間違った事ある?

アオトには分かんないかもしれないけど、私には分かるの。

なんでかは自分にも分からないけど。

こう、根拠の無い確信めいたものがあるっていうか」


「なんだよそれ、説明にもなってない」


ノエルはたまにこういった事を言う事がよくある。


「……今のアオトは私の意見に反対してるようで、本質はそうじゃない。

違う?」


「何が言いたいんだよ」


「貴方は自分の事ちっぽけで特別な存在じゃないって、思ってるでしょ」


「当たり前だろ。

俺みたいなのが……俺みたいなのが主人公の訳がねぇ。

中心に居るのはいつだって……」


「リツさんみたいな人?」


「………」


心の中を覗き見られたような。

それにしてもノエルが何が言いたいのか全く持って分からない。


「私はね、アオトが中心だと思ってる」


「は?……俺が?

なんで、だよ……」


「アストライアで言われた事覚えてる?」


───キミの星は太陽。

ただ真ん中で回転しているだけの、宇宙から見ればありふれた恒星に過ぎない。

けれどこの太陽系にとってキミは、太陽は無くてはならない存在だ。

そしてこうともとれる。

キミの力で世界を回していると。

今はただ自分が回っているので精一杯だとしてもね。


「だからなんだよ。

俺は……俺はいつだって主人公にはなれなかった!

どれだけ手を伸ばしても、走っても届かなかった!

いつも、いつもそうだ……」


ノエルが無言で近づき、俺の胸の中心を人差し指で触れる。


「私には分かるよ、アオト。

たまにね、アオトの中に青い点が見えることがあるの。

5年前の時より大きくなってる」


「───っ、青い……点?」


それは先日アストライアで見た、ノエルの胸の中心にあった赤い点を彷彿とさせるものだった。


「世界にとっても私にとってもね、貴方以外が世界の中心だなんてありえないの。

アオトじゃなきゃダメなんだよ」


「それと禁忌と何の関係があるんだよ……」


「特別な存在だから、絶対に覚えてるって事」


ふふ、とノエルは笑うと俺の頬に手を添える。


「一目見た時から思ってた。

綺麗だなって」


「急になんだよ……」


「本当に綺麗な人。

見た目も、心も。

初めて見た時から美を体現した姿だって、思ってたよ」


「……そんな綺麗な人じゃねえよ。

(よご)れてて、素直じゃなくて……」


更にもう片方の手を頬に添える。


「貴方が認めなくても私が認めてあげる。

アオトはすごいよ。偉いよ、頑張ってるよ」


「……っ」


垂れ下がった耳を優しく撫でられる。


「主人公じゃないって言うけど、そんな事ない。

この世は誰もが主人公って言うでしょ?

……私にとっては、私の人生の主人公もアオトなんだけどね」


「……なっ」


あまりにも恥ずかしい言葉に思わず視線が泳ぐ。

ノエルは両腕を降ろし、俺の首に絡めぎゅっと寄り添うような形になる。


「………」


うっとりとしたような表情に戸惑う。

潤んだ瞳、赤く色付いた頬、美しく微笑む口元。

こんなにも愛らしい存在を、俺はノエルしか知らない。


今度は自分からノエルの背と頭に手を回し、ぎゅっと抱き寄せた。

言葉なんていらなかった。

例え想いを告げることを世界が許さないとしても、心の中では伝わっていた。

これ以上踏み込む事は許されないけど、今この時間が愛おしかった。

彼女の……ノエルの傍に居れて、こうして存在を、温もりを、匂いを感じられる事がとても喜ばしかった。

心が満たされていく。


しばらくそうしていて、離れると互いにふっと笑った。

今はこれでいいんだって。

そして、手を繋いでへ帰路へついた。

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