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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第二章,星団
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こいつのせいで

とある館の前に、俺とヨミとエンゲとリツの4人が立っていた。


「中には2人で入ってもいい?」


ヨミがそう告げるとリツは頷き、「気をつけて」と一言告げる。

重い扉を開くと、むわっとむせ返るような空気が出迎える。

玄関で靴を脱ぐことなく、ヨミと2人土足で立ち入った。


無言のせいか館の造りのせいか、足音がいつになく響いて聞こえる。

廊下には血が飛び散った跡が其処彼処(そこかしこ)にあり、メイド服を着た女性の死体が1人、2人と転がっている。


「…………」


ヨミの手を握る力が強くなるのが見て分かった。

俺はヨミの過去を知ってる数少ない人物だ。

彼女の身に何があって、今があるか。

彼女の受けた屈辱を、仲間の中で唯一共感できるのも俺だ。

だからこそ、今彼女が何を思いどんな感情を抱いているのか分かってしまう。

本当の意味で理解など、できはしないけれど。

だって同じような屈辱を受けたという共通点はあるものの、受けた苦痛はその人本人のモノだから。


やがて廊下の突き当たりに着くと、扉の前でヨミが止まる。

ドアノブに手をかけ、固まること数秒。

意を決し、ドアを開く。


「………」


そこにあったのは、首が跳ねられた大柄の男の死体が一つ。


「………」


言葉を発することさえ憚られるような張り詰めた空気。

ヨミの呼吸がだんだんと荒くなっていく。


「………よ」


俺はヨミの方を見ることしかできない。


「……こいつで………間違いない……わ」


「…………そうか」


「こいつが………こいつの……せいで……なんで……よりにもよって!」


今にも飛びかかりそうなヨミの両腕を掴み、短剣を遠くへ投げた。


「アオト止めないで!

こいつを殺せないならせめて体中を刺すぐらい許されるでしょ!!

どーせ死んでるんだから!!!」


今まで聞いたこともないような怒声を上げ、暴れるヨミ。


「落ち着け……落ち着けって!」


必死になって、死体に近づこうとするヨミを押さえる。


「こいつの……こいつ………こいつっ!!」


足で死体を蹴ろうと足をジタバタさせる。


「やめろ……いいから落ち着け……っ!」


「うぐっ……なんで……なんで止めるの!!

あんたなら気持ち分かるでしょ!!

それなのに……なんで!!!」


座り込んでも尚泣き叫び暴れている。


「あぁ分かるよ……俺だってあの時今のヨミみたいな気持ちだったさ。

けど……けどな、今冷静な俺だから言うけど……それはやっちゃいけねぇ事なんだ」


「どうして!?

あいつあたしに何をしたか知ってるでしょ!!?

それも一度や二度って話じゃ……」


「ヨミの怒りは当然なもので、そいつを滅多刺しにしたい気持ちだって分かる。

けれど、けれどだ。

やってしまったら、もうやる前には戻れねぇんだ」


「それが何よ!

あたしがずっと望んでた事よ?

リツはやめろって言ったけど、あたしはこの機会をずーーっと待ってた!

なのに、あいつが殺しやがって!!」


後ろから抱きめしるように体を押えても、ヨミの怒りは暴れる体は収まらない。


「お願いだから止めないでよ……!!」


「俺が、嫌なんだ!!

綺麗事だって分かってる。

蹴ったり刺したりする権利は十分あるって理解してる。

けど、俺はヨミにそんなことしてほしくねぇんだ……。

これは俺の勝手で迷惑なエゴなんだよ」


「何よそれ……ほんっっと迷惑!

なんで……なんで………なんで…………。

そんな……こと、優しい事……言うのよ」


そこでようやく力の抜けたヨミが俺の方を向く。

俺はヨミの体を強く抱きしめた。

同じ痛みが分かる者として。


「うぅ……ねぇ………ねぇ、どうしたらいい?

あたしどうしたらいいの?

ねぇ………答えてよ……。

……あたしのこの気持ちはどうしたらいいの!?

この感情は」


堰を切ったように泣き叫ぶヨミをただ抱きしめる事しか出来ず、ヨミの問いに答えることは出来なかった。


***


館を出るとリツとエンゲが心配そうに立っていた。


「それでどうだったの?」


「あいつで間違いなかったわ」


「そう……もうちょっとで点睛(てんせい)が到着するけど」


「あたしもう帰る。

3人とも着いてきてくれてありがとね」


「俺も一緒について行くよ」


「大丈夫。

ちょっと一人になりたいだけ」


エンゲの誘いを断り、横を通り過ぎていく。


「それで犯行は?」


「あぁ、あいつ(・・・)で間違いない」


「亜人側のリーダー直々とはね。

嫌がらせかな?」


「いや……あいつなりの慈悲なんだと思う。

こんなの間違ってるけど」


「慈悲……ね」


「全部知ってた上でやったって事かよ」


「うん、そうだろうね」


「意味……分かんね」


俺にももう分からない。

だってあいつと過ごした日々は遠い昔なのだから。

届かないぐらい遠くて、眩しく直視することすら出来ぬ程に。

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