ただ純粋に、迷いながらも
「……………ん、ここ……は?」
また目覚めると知らない場所に居た。
起きて真っ先に見えたのは木の天井。
今俺はふかふかベッドの上で寝かせられているようだ。
起き上がり周囲を確認する。
どうやら小屋のようで、キッチンやら机や椅子など生活に必要なものは見た限りでは全て揃っている。
机の上に紙が数枚程散乱していたり、棚にはたくさん本があったりと誰かがここで住んでいたようにも思える。
窓の外は薄暗く、はらはらと雪が降っているのが見えた。
どうりで布団が分厚く、暖炉のおかげか部屋が暖かい。
おまけに玄関近くには、これまた暖かそうなコートが掛けられている。
「……これは外に出ろって事か?」
1人そう呟いて、立ち上がる。
一応小屋の中を調べるも使えそうな物は無く、コートを羽織り扉を開け外に出た。
時折冷たい風が頬を撫でる。
雪は相変わらず降っていて、地面一帯を白く染め上げている。
ざくざくと自身の足が雪を踏む音を聞きながら、寒さに凍えながらも先へ先へと歩いていく。
空は暗く分厚い雲に覆われ、あの小屋以外にも同じような小屋がいくつかあった。
ここもあの建物の中にある擬似的な空間なのか、そもそも全く別の空間なのかさえも分からない。
道無き道を歩いて行き、ただ先へ進まなければという一心で歩いていた。
考えたくないのに、考えないようにすれぱする程思い浮かんでくる過去の景色。
抵抗できなくて、したくても恐ろしくて身体が動かなくて。
目の前で母さんが酷い目に遭っているというのに、必死で助けようにも力が弱いせいで助けられなかった日々。
“暴走”すれば助けられた可能性はあったかもしれない。
けれどそうすれば最悪、助けたいはずの母さんを傷つけてしまうかもしれなかった。
結局俺は何も出来ずに、ただただされるがまま。
俺は……俺はあの時どうすれぱよかったのだろうか。
自身の危険を顧みずに母さんを助けれた事はあった。
だけど毎回そういう訳にもいかない。助けれた方が圧倒的に少なかった。
暴走して、なんとかコントロールして……という僅かな希望に縋って、リスクを背負いながら賭けに出ればよかったのだろうか。
分からない。
未だに答えの出ない疑問の一つだ。
もしも……もしも、この世界に神という存在がいるのならば問いたい。
俺の行いは正しかったのか?最善を尽くす事が出来たのか?
俺なりに……俺なりにやったんだよ!俺なりに全力を掛けて自分を……誰かを……何より母さんを………守りたかった。
それでも……それでも……………。
───雪が本格的に降り注ぎ、辺りの空気がより一層冷えてくる。
だからこそ………だからこそ、俺は力を求めた。
師匠に助けられたこの命。
師匠は強くて、そこらの人間や亜人、強力な魔物すら敵わない程に強かった。
俺はその姿を見て思ったんだ。
……俺も、いつかはあんな風にって。
だから必死で努力した。
もうあんな思いをしたくなかったから。
せめて自分を守るぐらいの力を……いつか、行方不明の母さんを助け出せると信じて。
俺は母さんや父さんと同じく、元々戦闘に不向きな亜人だった。
属性はあっても、どの武器を試してもどれも合わなくて。
やっと合う───刀という武器と出会い、一日中ほぼ毎日構えから練習して。
師匠から教わって、いつか……いつかでいいから、と願いながら。
……あぁ、そうだ。
俺は誰かを……誰かを守る力が欲しかったんだ。
ずっと……ずっとそれを欲していた。
綺麗事と言われるかもしれない。言うのは簡単だと、強くなったところで全てを守りきる事なんて不可能なのに。
けれど、どうしても“それ”が欲しかったんだ……!
それが、俺の欲しかったもので……俺の原点のようなものだから───
普段なら閉じ込めていたはずの、心の奥にし舞い込んで、いつの間にか忘れさられてしまったはずの感情が、溢れだしていた。
気がつけば吹雪は強くなり、寒さのせいか頬に当たる風が痛く感じる。
それでも先に進むために歩いた。
歩いて歩いて歩いて……ふと、眩い光が見えた。
吹雪をなるべく防ぐために上げていた両腕を下ろし、小さな光をしばし見つめる。
俺はそれに引かれるように、だんだん早足になり……走り出した。
寒さとか吹雪とか関係なく雪に足が取られて、たまに転びそうになっても、俺はその光を見つめながら走り続けた。
徐々に体力が奪われ、息が苦しくなっても、疲れが出てき始めても走ることを止めなかった。
いや……止める気などさらさらなかったのだ。
始めから、例え転んだとしてもまた立ち上がりその光を目指して走るのだろう。
───あと少し、あと少しで届く。
あの光に行った所で俺の願いが叶う訳じゃない。
あの先に行った所で何かが変わる訳じゃない。
今俺が何に突き動かされてこんなにも必死に走っているのかも、分からない。
ただ、純粋にあの眩い光に導かれるように───
瞬間、辺りが真っ白に染まり眩しさのあまり瞼を閉じた。
それでも白く、輝いているのが伝わってくる。
徐々に身体の力が抜けていく感覚がし、それと同時に意識も遠ざかっていった。




