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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第二章,星団
50/83

貴方に必要な事

ずっとどこかで死ぬ事を夢見ていた。

ずっと辛くて悲しくて、寂しいような事ばかりだから。

誰かが傍に居ても心の傷が埋まることは無く、また孤独感が消える事も無かった


────彼女に出会うまでは。



温もりを探して探して探し回って、たまたま運命的に出会った少女。

最初ははっきり言うと嫌い、に近かったと思う。

しつこくて性格が自分の好みとは大はずれしてるって。

それに、第一人間だから、そういう感情とは無縁で全く考えもしなかった事だから。


けれど、そのしつこさが俺を救った。

どれだけ引き離そうとしても離れない。

キツく当たっても、それが本心では無いと見抜いてくれた。

どれだけ離れようとしても離れなかったからこそ、彼女の想いが本物だと信じられた。

何度も疑った。

結局何かしらが原因で途中で離れてしまうんじゃないかって。

……結局運命の手によって引き離されてしまった。

嗚呼、なんと世界の無情な事か。

いつもどうしてやっと手にしたと思った途端、その全てを俺の手から奪うのでしょうか。

だからこそ、俺はこの世界が心底嫌いだ。


もう二度と彼女の会えない以上、これから先果たして生きる意味があるのか。

彼女の国は亜人の立ち入りが禁止され、入る事も出来ない。

まして世界のどこかで会おうとしても、連絡手段はおろか偶然に出会うにしては世界は広すぎる。


だとすれば………俺はもう何も未練なんてこれっぽっちも無いんだ。

不思議と怖くもなく、むしろ死が輝いて見える。


未練があるとすれば、最後に彼女を一目見たい。

……いや、それだと彼女から生きる理由や活力を貰ってしまいそうだ。


会いたい。

ただ、それだけ。



ただ、それだけ……なんだ。




***




………ト。

………ア……ト……きて

───アオト、起きて!



「……………」


うっすらとぼやけていた視界が段々とはっきりしてくる。

俺の顔を覗き込んでいたのは、よく知った2人だった。


「アオト、大丈夫!?」


俺の手を繋ぎ心配そうな顔で見つめるヨミ。


「よかった。目が覚めて」


どうやらリツに膝枕されているようで、安心した様子のリツの顔が正面にあった。


「お、俺……どうなって」


「リツがアオトの居場所分かったからって、私たち2人で探してここまでやって来たのよ。

そしたらアオトが子供の姿で倒れてるから……。

ねぇ、本当に何ともない?」


「そういう事だったんだな……。

あぁ、なんともないよ」


「よかった……」


覆い被さるように抱きしめられる。

右手でヨミの頭を安心させるように撫でる。


「それで、なんでここだって分かったんだよ」


「それを話すのは長くなるけどいい?」


うん、と頷くとリツは話し始めた。



簡潔に言うと、リツは幻獣である獏とは知り合いであり、一目見ただけで大体何があったか分かったらしい。

場所はというと、俺の気配はこの島の中の異常な空間にあるという事も分かった。

あとは探り探り勘と知識を絞り出してようやく見つけたという事だった。


「獏と知り合り、ねぇ……」


そう言いながらそっと起き上がる。


「決して悪い()では無いんだよ?

この国の幻獣は他の幻獣と違って強さが亜人並みなんだ。

だから能力も干渉する事ができた。

彼女も頭はいい方だから、何か考えあっての行動だと思うけど」


「だからって連れ去るなんてやり方、どうかと思うけど!」


ヨミは怒った様子で、頬を膨らませる。


「俺としては連れ去られた事よりこの姿にされた事の方が不愉快だけどな」


「……あたしは可愛いと思うけど?

身長もきっと一緒ぐらいだし、声変わりしてないし。

変な言い方だけど、昔のアオトに出会えたみたいな」


そう言ってまたぎゅっと抱きしめられる。


「……で、この場所は?」


「うーんとね……『別世界』って言ったら信じてくれる?」


「べ、別世界ぃ?」


あまりにも常識離れしすぎて理解が追いつかなかったが、今までの事を振り返るとそう言われれば納得がいくのかもしれないが……。


「そう、この世界と別にある世界の間の世界。

その世界の事を『狭間』って呼んでるんだけど」


「はざま……?」


「狭間は本来存在するはずの無い隙間から生まれた歪な存在で、隣合ってるし歪なせいで干渉しやすい不安定な空間なんだ。

入った人の精神に影響されやすくもあるし……。

つまり、この島に不安定な空間があってそこに僕たちは居るって事」


「は、はぁ……」


言葉は理解は出来ても、真の意味までは理解できた自信は無い。

確かにこの世界には「七大怪狂(かいき)」なんていう、常識を超越した存在があるくらいだ。

その存在を信じてる……というより身を持って知ったからこそ、知識と経験として頭に入っている。

が、今度は「狭間」なんていうまた訳の分からないものが存在していたなんて。

本当にこの世界には、普通に生きていたら知らないであろう謎が多いものだ。


「あたしも正直信じらなんないけど……実際訳分かんないし、別世界って言われて少し納得がいくっていうか」


「まぁ正確には、この世界と狭間が混ざり合った不安定な空間、なんだけどね。

難しいしややこしいから、別世界って認識でいいよ」


「ほんとお前は物知りだな」


「そうかもね」


立ち上がるとリツが不思議そうな目で俺を見る。


「なんだ?」


「いや、アオトが僕より身長が低い事がなんだか不思議で」


「普段は俺の方が高いもんな」


改めて見回すと、上は空なのか天井なのか分からないぐらい高く黒い。

周りは開けた黒い壁と床の空間が広がっていた。

少し離れた所にはキラキラと紫色に光り輝くクリスタルのようなものが回っている。


「あれ、なんだ……?」


「僕たちが来た時からあったけど、触ろうとしたらビリってなって触れなかったんだ」


「………」


近くの窓に行き、下を見る。

高すぎるせいか下はオレンジ色の光が見えるだけだった。

どうやらここが最上階のようだ。


「……そういえば、お前たちどうやって来た?」


「そうだねぇ……気配を頼りに探し出して、この空間に入って。

この建物に入ったら正面に扉があって、開けたらここに居たけど」


つまり俺が通ってきた道とは違う方から来た、という事だろう。


「……アオト、あれに触ってみて」


「は?

危険なものなんだろ?なんで俺が……」


「アオト、僕はね多分これはアオトのために作られた……アオトに干渉した空間だと思うんだ」


「………」


思い当たる事はいくつもある。

過去の事をやたらと夢に見て、景色と関係ないはずなのに色々頭に浮かんできた。


「僕たちが着いて、10分程して目が覚めた。

それまで何があったのかは知らないけど、思い当たる事はありそうだね」


「ねぇ、本当に大丈夫なの?

あたしにはここの事も、アオトに何があったかも全然分からないけど……」


ヨミが心配そうな顔でこちらを見る。

俺はそっとヨミの頭を撫でた。


「多分大丈夫だから安心しろ。

だよな、リツ」


「うん。

僕たちが触れないだけで、危険なものじゃないはずだから」



俺は紫に光るクリスタルに近づき、意を決してそれに触れた。



***



「…………あれ?ここは」


眩しい光に包まれ、目を開けると元の場所──連れていかれたあの崖に居た。


「戻ってこれたみたいだね」


「はぁ……もう、結局なんだったのよあの場所」


「……意味はあったと思うよ。ね?獏」


リツが目を向けた方を見ると、木の影から獏が出てきた。


「…………」


俺はつい獏の事を睨んでしまい、獏は申し訳なさそうにしゅんとした。


「もう一度、ちゃんと説明すべきだよ」


「うん………。

あの、ね……これは貴方に必要な事なの。

何か大切なこと、思い出せたりしなかった?」


「は?何言って───」


そう言いかけて、ある事が思い浮かぶ。

思い出したくもない中に、俺が強くなりたいと思った根源。

いつの間にかしまい込んで、忘れてしまっていた大切な事。


「………だとしても、これはやりすぎなんじゃないのか?」


「貴方が思い当たったのは1つだろうけど、全部必要な事だから。

無駄なんて1つも無い」


「………はぁ。

もうなんでもいいから元の姿に戻してくれ」


獏の方へ歩みを進め、獏は俺の方に右手を差し出すと眩い光に包まれた。

それが収まり、俺は自分の手や身体を見る。


「やっと元に戻れた………」


約半日ぐらい居たのだろうが、体感的にはもっと居たように思える。


「さてアオトも戻ったし、この島で起きてた事も片付けられたからタナトスに帰るのよね?」


「そうだね」



獏はいつの間にか姿を消し、俺達は無事他の仲間とも合流出来て、不可解な事件は終わったのだった。

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