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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第二章,星団
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もう一つの能力

先程気配がした場所に戻るも、やはりそこに幻獣や人間は居なかった。


「クソ……やっぱ居ねぇか」


エンゲが悔しそうな顔で辺りを見回しながら言った。


「ま、そう簡単に見つかる訳ないわよね」


「だな」


「で、アオト君どうするの?」


「全員で散って、微かな気配便りに探すしかねぇ」


「わかった」


ジュイが返事し、それぞれ違う方に走り出した。



***



「………」


無言で森の中を走る。

同じような景色が繰り返される中、構わずひたすら気配を求めて彷徨った。



───見つけた。


俺はその方を見ると、そこに向かって一直線に飛んだ。

木々の間を飛び、森を抜けた崖にそれは居た。


「お前だな……この島の幻獣は」


「………」


無言で見つめ返す、まるで妖精のような雰囲気を纏う少女。

見た目は人間と変わりないが、実際は人間でなく幻獣だ。

普通の人間なら気づくことの出来ない、幻獣特有の気配。


茶髪の長い髪に黄緑色の愛らしい目を瞬かせて、きょとんとした表情で俺を見つめる。


「何か言ったらどうだ」


「獏」


「は?」


「私の名前」


「……そういうことじゃなくてだな」


「あなたは?」


「俺の名前なんていいだろ」


「教えて。

でないと話さない」


無表情で声にも感情が出ていないながらも、確固たる意志を感じ諦めて名乗った。


「アオトだ」


「そう。あなたが」


「……俺の事を知っているのか?」


「うん。ちょっとね」


「どこで知った?」


「それは教えられない」


「何故だ?」


「……しまった。

あなたを知ってるようなことを言ってしまったばかりに……」


そう言って口を押さえる。


「答える気は無さそうだな。

……で、お前はなんで人間に協力した?」


「………?」


意味が分からない、といった表情。


「協力したつもりは無い」


「……っ、ならなんで近くに人間が」


「………」


無表情のまま、黙ってしまう。


「埒が明かねえ……仕方ねぇが、今からお前には───」


「ごめんね」


「───え?」


気がつけば目の前に獏が居て、右手を握られ、獏のもう片方の手が俺の胸に当てられた。

おでこがくっつきそうな程顔が近く、彼女は目を瞑っており、そして開くと辺りが白い煙に包まれる。


「げほっ……げほっ………」


酷く咳き込み、尻もちをつく。

煙が晴れ、涙目で彼女を見上げると違和感が襲った。

咳き込んでる時の声………なんか、おかしくなかったか?


身体を、腕や腹……脚と確かめるように触り、恐る恐る自分の身体を見ると思考が停止した。

え………なんなんだよ、これ。



「私の“もう一つ"の能力」


「……は?」


「実は私ね、大人を小さくする……つまり、子供の姿にすることができるの」


「い、いや……どういう意味だよ」


「言った通りの意味よ」


「………」


自分の声も、まだ声変わりする前の……あの忌まわしき声。

鏡を見なくとも、自分の身体を見ればこいつが言っていることが間違いで無いことが嫌という程理解できてしまう。


「お前………なんでこんな」


自然と声に怒りの感情が混じる。

どうしてこんなにも惨いことが出来るのか、俺には理解出来なかった。


「なぁ……なんで俺をこんな姿にした?」


「………」


「また無言かよ。

さっきまでのはまだいい……自分たちで調べれば時間がかかれど被害は今のまま、どうせ人間側と繋がっていたことやお前の力で村の人達がああなっていたことが明るみになる。

でも……でもなぁ、これはいくらなんでも…………酷すぎる……」


こんな姿に戻りたくなかった。

こんな声、もう聞きたくなかったのに。

こいつのせいで……!!


「そんなに睨まないで。

これはあなたにとって必要なことなの」


「何が必要なんだよ……」


どこか申し訳なさそうな顔で俺を見つめる。

そんな顔するならこんなこと……。


「……道が変わった」


「……道?」


「私たちはそう呼んでいる。

……何かイレギュラーなことが起きて、このまま進んでいけば行き止まりになるから」


「お前はいったい……何を言ってるんだ?」


「この世界の道って言うのは、当たり前だけど一つしか存在しないの。だからすごく大事。

あなたをこの姿に変えたのも、行き止まりにならないため。

……それだけのためじゃないんだけど」


「だから、俺にも分かるように───」


「今のあなたには絶対理解出来ない。

だってあなた内側の人、でしょ?

それに比べ私は外側の者」


「内側だか外側だか訳の分からねぇこと言いやがって……俺は!

んなことどうでもいいから……お願い………戻して」


情けない声が出る。

ずっと身体が震えそうになるのを抑えて、声も………頑張って話してたのに。

そんな誤魔化しが長続きすることも無く、ただただ無力で。

こんな自分が許せなかった。嫌いで、憎い。


「……………」


息を吸って、吐くのだけで精一杯。

早く元の身体に戻りたい。声に、姿に───


「私から話せるのはこれだけ。

……本当にごめんなさい。そして、さよなら───」


「待て!!」


そう叫んだのと同時に、身体が浮かんだ。

上を見ると、巨大な鳥が服の襟元を掴み空へと飛び立った。


「クソ……話はまだ終わってねーぞ!

さっさと姿を戻しやがれ!!」


声の限り叫ぶも、悲しげともとれる表情のまま彼女は無言で俺の姿が見えなくなるまで見つめていた。


急激に眠気が襲い、そこで意識は途切れた。



***



「アオトが行方不明ってどういうことよ!」


「俺だってよく分かんねーよ。

でも、明らかおかしいし」


「呼びかけにも応じないってことは、意識を失ってるか。あるいは───」


あたしは、思わずジュイの言葉を遮った。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと探し出すわよ!」


「……うん、そうだね」


幻獣を分かれて探してから30分。

アオトだけ連絡───亜人はテレパシーのような感じで、一定の距離内かつ親しい知り合いならば、直接合わずとも会話することが可能───がつかず、こうして3人で集まって森の中を走り、飛びながら探しているのだ。


「幻獣が何か知ってるはず……!」


「あの人間は何も知らなかったみたいだからね」


「ったく、次から次ヘと何なんだよ……いったい」


分かれた後、ジュイは幻獣の近くに居たという人間を見つけたそうだ。

その人間と戦闘になり、当然ながら勝利。話を聞くと、色々おかしな点が浮かび上がったという。


幻獣が近くに居ることすら気づかなかった、と。


最初は嘘かと疑ったものの、嘘を言ってる様子は絶対無いとジュイは言った。

捕らえた人間の主張によると、住民が眠りにつく事件を聞きつけ、ほぼ全員が眠ったタイミングで殺すつもりだったと。

けれど、あたしたちが居たせいで出来なくなった。


「ここに来た人間の数は5人。

それは私たちでやっつけて、引き渡したのはいいんだけど……。

この森意外と広い……というか、迷いやすい?」


「……幻獣の気配、微かにする。

こっちよ!」


地面を思いっきり蹴り、2人の前を飛ぶ。

一刻も早く幻獣の元へ行きたい。そして、何か知ってるのか口を割らせてやる。


「居た!」


森から抜け、少し開けた崖に出た。

そこにあたし達を待っていたかのように立ち尽くしている、幻獣の胸ぐらを掴んだ。


「あんた、アオトに何したのよ!!」


「………」


「黙ってるってことは、何かしたって認めるってことよね?

白状なさい!さもないと……!」


「おい、落ち着けって!」


「ちょっと……離しなさいよ!」


エンゲに両腕を掴まれ、幻獣から引き剥がされる。


「エンゲ君の言う通り、だよ」


「…………」


「それで、アオト君は何処にいるのかな?」


「それは言えない。

探さないで」


「……探さないで?」


「そう。そっとしておいてあげて。

これは必要なことだから」


「君は……何を知ってるんだい?」


「………」


「また無言か……。

ならせめて、安否だけでも教えてくれないかな。

大切な仲間、だから」


「分かった。それだけなら、言える。

彼には何も危害を加えていない。これは誓って、そう」


「……なるほど、分かった。

今のリーダーは君だ。君がどうするか決めてくれ」


ジュイとエンゲがあたしを見る。

あたしは……あたしは…………。


「…………ひとまずリツに報告。

この村に他に人間側が居ないかの調査……アオトを探すのはそれから……」


「………妥当な判断、だな」


「………調査は私たちでやるから、君はアオト君を探してきたらどうだい?」


「……いや、それは………そうしたいのは山々だけど」


「逆にアオト君の事が気になって、見逃しでもあったら困るしね」


片目を閉じて笑みを浮かべるジュイと、任せろと頷くエンゲ。


「……2人なら、任せても大丈夫って思うから。

あたしは、アオトを探し出すことに専念する」


「よし、決まりだな」


幻獣の方を一瞬睨むと、二手に分かれる。


「邪魔しちゃダメだよ」


最後に発した言葉を無視して、振り返ることも無く走り去った。



***



生まれた時からあの場所に居た。

気がつけば、あの場所に居たんだ。

幸いにも母さんとは一緒に……居れて。父さんは、俺が生まれる前に亡くなった。


物心ついた時にあの場所について感じたのは、なんとも言えない不気味さ。

そして、母さんが俺の傍を離れてしまうことの孤独さだ。

母さんの意志で離れるんじゃない。あいつらが母さんを連れて、どこか俺の居ない場所へと連れていくんだ。


最初は母さんが言ってたことを純粋に信じてた。幼かったこともあるし、何より母さんは俺の事を傷つけないために……嘘を。



母さんが連れていかれて、何をされてるのか知るまで───




意識が身体へと戻り、真っ暗な視界からゆっくりと瞼を開く。

なんだか……すごく嫌な夢を見ていた気がする。

幼い頃の、あの忌まわしい記憶の夢。

夢の内容をほとんど覚えていないことだけが救いである。

……あんなの、覚えていたらとても……………。


「───っ、そうだ俺……子供の姿に………」


身体が子供の姿に変えられた、というのは無慈悲にも夢では無かったらしい。

腕が今より細く鍛えられてなくて……弱々しい。脚も同じくだった。

服はそのまま縮んでいて、武器のサイズはそのまま。

不思議と気分は落ち着いていて、さっきまでの怒りなどといった感情は消え失せていた。


「ちゃんと振るえるのかな……」


声まで弱々しいと来た。

俺は何歳ぐらいの姿に変えられたのだろうか。

というより、ここは───


「………」


俺は薄い桃色の大きなお花の上に寝かされていたようだ。

空が明るいことから、一晩ここで眠っていたと考えられる。

そして辺り一面に広がるのは薄い桃色と淡い緑色。

どうやらこの謎の植物が咲き乱れる花畑に俺は居るらしい。

遠くには森が見える。

ヒュプノス島の中なのか、外なのかも分からない。


「───とりあえずヨミかリツに伝えねぇと」


心の中でヨミに呼びかけようとする。


「……妨害された?

というより……そもそも呼びかけが出来ねぇなんて」


ますますここが何処か分からなくなってしまった。

呼びかけが単に通じなければ、ヒュプノスの外ということになる。逆に繋がれば中だと分かるのだが、通じる通じないの問題ではなくそもそも“できない”となれば話は別だ。


「…………」


思わず言葉を失う。

誰にも安否を伝えることも出来ず、ここが何処かも分からず、戦えるかも分からない子供の姿でただ一人。

俺はこれからどうすればいいというのだろうか。


ゆっくりと、立ち上がってみる。

やはり子どもの姿のせいか視界が低く見えたが、思ったよりも低くはない。

となれば推定12、3ぐらいになっているのだろうか。

だとすれば、戦える可能性があるかもしれない。

俺が師匠に戦い方を教わったのは10歳から。

それに姿が変わっただけで何も戦い方を忘れた訳では無い……と信じたい。


「……まずはここが何処かを知る必要があるな」


ごめんよ、と小さく呟きながら少しばかり硬い花びらを折り曲げる。

これで迷う心配は僅かながらに大丈夫だろう。

ここは見晴らしが良く、立っている花びらを見ればここが俺が目覚めた場所だと遠くからでも分かるはずだ。


俺は向かって右にある森へと歩き出した。

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