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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第二章,星団
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メモに導かれて

森へ向かって歩く。

が、歩いても歩いても進んでいるような気がしない。

身長が低くなったことと、俺が居た場所から森が離れているせいで余計にだろう。


やっとのことで着いたのはあれから3、40分程歩いた頃だった。


「………や、やっと」


残念なことに俺が着いたのは入口であって、今からがスタートのようなものである。

意を決して森の中に入り、迷わないように真っ直ぐ歩いていく。

すると、入って間もなく道を見つけた。

右を見ると花畑の方に繋がっていることから、恐らくここを歩いている限り迷うことは無いだろう。

左方向へ、森の奥深くへと進んでいく。

奥になるに連れて、暗くなってきた。

いったいこの道は何処へ繋がっているというのだろうか。

敵対存在の気配は無く、というより動物や魔物の気配すら無い事に逆に不気味さを感じずにはいられなかった。


道なりに進み、やがて明るくなってきた。

そこは小さな街のようだった。

何年も誰も住んでいないのか、家は所々ボロボロになっていたり、落ち葉が無造作に散らばっていた。

風がひゅーっと鳴り、相変わらず人や動物の気配は無い。


木の柵を開けて街の中へ。

屋根は少しくすんだオレンジ色、家の壁の色は白で大体二階建て。

同じような家が間隔を空けて並んでいた。

そんな家と家の間のレンガの道を通ると、今度は横に長い白い塀があった。

左と右の分かれ道を右側の壁に沿って歩き、やがて左に曲がった。


まるで迷路のようにも思えてくるこの街。


ある店は扉が開かれたままになり、枯れ葉が中にまで入ってきていた。

商品の期限はどれも切れており、棚から落ちて散らばっている所もあった。

街のことを知ろうにも、看板の文字が掠れていて読めないものがほとんどで、街の名前すら分からなかった。


ここを調べても何も収穫が無さそうだ、と判断した俺は村の出口へ。

一歩踏み出したその時だった───


「っ、急に周りが暗く……!?」


早送りにしたように日が傾き、あっという間に夕方になってしまった。

明らかな異常。

はっと振り返るが、そこに道は無くただ壁があるだけだった。

後戻りも出来ない状況。

先に進めと言わんばかりに目の前にある一本の道。

そこは先程までとは違う、けれどどこかメルヘンチックな家が立ち並ぶ不思議な空間が広がっていた。

ふと、少し離れた先にメモのような紙が落ちていることに気づく。

歩いて、手に取り中を見てみる事にした。


「……鍵を3つ見つけて公園に置け。

……なんだこれ?」


よく分からない指示に首を傾げる他ない。

が、よく分からない場所だからこそ従った方がいいのか?

とりあえず辺りをキョロキョロ見渡すもそんな都合よく落ちてる訳もなく、俺は先に進むことを決心した。


家はどこも御伽噺に出てきそうなものばかりで、明かりは付いているようだが人の気配はまるでしない。

道はポツポツと一定間隔に街灯があるものの、そこまで明るくはなく全体的に薄暗い。

視線を落とした先に、小さな壺のような物が置いてあるのが目に入る。

家の外に飾ってあるようで、特に違和感など無いようにも思うのだが、妙に気になって仕方がない。

俺はそれを手に取り、中に手を入れてみた。


「お、なんかある。

……鍵だ。あのメモに書いてあった鍵ってのは恐らくこれの事か」


立ち上がり、ポケットに鍵をしまう。

たまたま気になって手を突っ込んだから見つかったものの、普通ならこんなの一生かかっても見つけられない自信しかない。

どのくらい大きい街なのかはまだ分からないが、それを一から細かくしらみ潰しに見ていくなんて、それこそ本当に一生かかってしまいそうだ。


「とりあえず、ざっと街の大きさとか何処に何があるぐらいでも把握するか」


仕事柄か元からなのか、空間把握能力には自信がある方だ。

だから基本的に道に迷うことは無いし、来たことの無い土地でもわりとすぐに道を覚えられる。

まさかこんな形で役立つとは思わなかったが……。


街を歩いても、一向に人一人見かけない。

あの街を出た途端、こんな訳の分からない所にいつの間にか居たんだ。

いや、もしかしたら今見てるのは幻想なのかもしれない。

ここを歩いているとまるで御伽噺の、物語の中に自分が入ってしまったみたいで。現実感が失われて、夢を見てるみたいと錯覚してしまうからだ。

つまり夢か現実かも分からない摩訶不思議すぎる空間に人が居ないことなど、何もおかしな事ではないような気がしてきた。


───そんな事を考えながら歩いていると、道の真ん中に何か落ちているように見え近寄ってみる。


「こんな分かりやすくあるなんて……罠、じゃないよな?」


何が起きても良いように、警戒しながら鍵を拾う。

………特に何も起きてはいないが、油断はならない。


「これで2つ目……か」


俺の予想では街はそんなに大きくないように思える。

全体の形は……恐らく正方形で、道も入り組んでいる所や行き止まりはあるものの分かりずらいということは無い。

歩ける範囲の小さな街、といったところか。

今見た限りでは家しか無く、店らしき建物は見ていない。


「あと少しで大体見回れるかな」


俺の予想通り、街の形は正方形。

端から端までの距離は約2kmぐらい。

家以外の建物は無く、街の中心に公園があるのみ。

ちなみに鍵は途中でポスト受けの中───これも先程と同じくなんとなく目に入り、気になったので調べた───から回収済みだ。


「後はこれを……どこに置けばいいんだ?」


公園に着き試しに地面に置くも反応無し。

そんなに大きくないため、すぐ見つかると思うが……。

片側は時計と街灯とグラウンド。もう片方はすべり台やブランコなどの遊具が何個かある。

俺はグラウンドの方へ歩き出し、時計と街灯へと向かう。

こちらの方から調べるのが楽そうという単純な理由だ。


時計の下は立方体の台になっており、これまた分かりやすく鍵の形に凹んでいた。

鍵を3つ置くと、側面からふっと吐き出されるようにメモが飛び出た。

地面に落ちたメモを拾う。


『0時までにこの街を脱出しろ』


「シンプルだけど……いったいどうやって」


もう一枚メモが落ちているのに気づき、手に取る。


『公園から出て右に行き、3番目の角を曲がった家にある牛乳を飲め。

(時計がある方を北とする)』


「……は?

牛乳を飲め、だって?

なんでそんな事を……大体安全って確証も。

そもそも人が居ないとは言え、勝手に入って飲むとか……」


けれど、従う他ないだろう。

単純な推測に過ぎないが、0時までにメモの指示をこなせば出れるはず。

今の時刻は8時。

期限までは4時間あるが、街の広さや複数の指示をこなす可能性を考えると余裕があると思わない方がいいだろう。


「なら、早速行動あるのみ……だな」


指示通り公園を出て、1つ2つと数えていく。


「3つ目の角を曲がった家……だから、ちょうどここ……でいいのか?」


扉を軽く引っ張ると開いた。

中を見るも静かで、人の気配も無い。

けれど、玄関に靴が並べられてあった。

土足で入るのも……と、不用心かもしれないが靴を脱ぎ家に上がった。


明かりが付いていたり、廊下の壁に絵が飾ってあったり家具があったりと随分と生活感のある家だ。

魔力供給が行き渡っているのか、明かりは全てスイッチを押すだけで付くような便利なもののようだ。

と言っても、都会では火で付けるよりもこちらの方が一般的ではあるし、俺達の家もこちらのタイプだ。

人だけが忽然と姿を消して、そのまま保存されたような。

埃などの目立った汚れは無く、普通に住めるぐらいに綺麗だ。

他の家の中もこんな感じなのだろうか?


思考を巡らせながらリビングに着き、冷蔵庫を開くと色々食材や飲み物が入っていた。

牛乳を取ると、蓋を開けた。

匂い……は特に問題ない。


「………」


従うと決めたものの、やはり得体の知れない空間の、得体の知れない家にある得体の知れない牛乳を飲むのには躊躇ってしまう。

というか普通は躊躇うし、そもそも飲まないものだ。

状況が状況だから従う他無いし、躊躇ってると余計に時間がかかってしまう。

ここは、自分を信じて飲むしか………。


…………味にも異常は無く、ごく普通の牛乳。

とりあえずは大丈夫そうだ。


「ふぅ………」


視線を机に移すと、いつの間にやらメモが置かれていた。


『公園から出て真っ直ぐ北へ歩き、突き当たりにある家の中の人形が手に持っているハンバーガーを食え』


そういえば巨大な鳥に連れてこられた時から何も食べていないことに気づく。

お腹はすごくは減ってはいないが、多少空いてるし何か食べておきたい。

ここを出るためにこなす指示なのだから、毒が入ってるという可能性は低いだろうが、引き続き警戒を解かずに行動するのみ。


それから、いくつのもの指示をこなした。

ベンチに5分座れとか、ボールを拾ってゴールの中へ投げろなどどれも意味の無いような指示ばかり。

飲み物や食べ物、休憩など有難いものではあるがこれに一体何の意味があるのか。

……いや、意味なんて無くて考えるだけ無駄なのかもしれない。


そして、ついに最後の指示。


『気に入った家に入り、ベッドで寝ろ』


「最後だからとびきり難しいのが来るのかと思いきや……結局何のための指示だったか分かんないままだったな」


今の時間は22時40分。

のんびり歩いて、気になる家に入り眠ればいい。

至って簡単でシンプルな指示だ。

一つ気がかりな事と言えば、眠れるかどうか。

警戒してなかなか寝付けないかもしれない。

眠れないまま0時を過ぎ、この街から出られなくなるなんて(もっ)ての(ほか)だ。

だからといって焦れば余計に眠れなくなる。

……あまり深く考えず、力を抜いて探すことにしよう。


ぼーっと歩いて、どれくらい経ったのか。

たまたま見上げて目に入った家。

明かりが付いて温かい感じがする。

他の家と変わりないはずなのに、妙に気になった。


「ここにしよ」


扉を開け、玄関で靴を脱ぐ。

寝室を探し部屋の扉をいくつか開けた。

見つけたのは子供の部屋。

おもちゃが床に散乱し、机には書きかけのノート。

壁にはカレンダーやポスターが貼られている。

布団を捲って、ベッドに横になる。

ベッドも布団もふかふかで、驚く程に寝心地が良い。

警戒しながら寝ないといけないのに、だんだんと意識がぼーっとしてきて。


「………」


天井を見る。

その次に扉の方を見た。


……もしも、もしも俺が普通の暮らしをしていたら………今頃どうなっていたのだろうか。

こんな想像したって意味も無い。

過去は変えられないし、飽きる程想像し尽くしたのに……。

あいつらが居なくて、父さんと母さんが居て。

3人で仲良く暮らして。

普通に学校に通って。嫌な奴が居ても庇ってくれたり、味方になってくれる人が居て。

成長して将来を考える歳になって。

俺は……この道を選んでなかったら………そうだな、演技……そう、役者になりたいなって。

頑張ってその職について、そこで気になる人と出会って……。


なんて、都合のいい……都合の良すぎる未来。想像。

そんな事もう……起こる訳が無いのに。


でももし……この道じゃなく普通の暮らしをしていたら



ノエルやリツ達と出会えて無かったのかもしれない。



「それ……だけ………は…………い……………」


意識が遠く……遠くなっていく。

視界がぼやけ、耳が遠く、意識がどんどん落ちていく。






───ずっとあの場所が嫌いだった。

嫌い、なんて生ぬるい言葉じゃ足りない。

誰も味方は居なくて、人の心を弄んだような地獄。

母さんと2人きりでずっと耐えて、耐えて、耐えて。

耐えて……いつまで耐えればいいのだろうと、何度この地獄が早く終われと……どれほど切に願った事か。

早くこんな場所から解放されたかった。

もっと俺に力があって、強かったら……母さんを守れるくらい強かったなら………どれほど良かった事か。

それが出来なかったからこそ、誰かが助けくれることを……心から願った。

願って願い続けて…………それが来ることは無く。

いつだって助けてくれると言う奴は善良なふりをしていて、騙されての繰り返し。

抵抗なんてしたら倍以上の苦しみが待っている。

もう……何年も耐えて…………心がいっそ壊れてくれたなら、楽になれたのか。

既に壊れてしまっていて、その後に形成された自我なのか。

自分でも分からなかった。

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