眠りつく人々
ヒュプノス島に着いたのはちょうど昼前だった。
「じゃあこれからいくつかグループに分かれて、担当の地域まで移動してもらうから」
俺はヨミとエンゲとジュイでグループを組み、島の南西側を担当することになった。
「この四人でグループとはな」
どこか不満そうに口を漏らしたのは八月担当のエンゲ。
水色の少し長い髪をかき上げたライオンの亜人の男性。
ちなみに普段なら前髪をかき上げているが、今は下ろしている為、普段と印象が違って見える。
まあ、俺は寝る前など家でよくその姿を見ているのでなんとも思わないが。
不満そうにしている理由について察しがつく。
何故ならばその原因は俺、なのだから。
俺が何かをしてしまったのか、何が気に入らないのか分からないが何かとツンとした態度を取られるのだ。
別に好かれたいなどと思ってる訳ではないが、当然いい気がするばすもない。
「もぉ〜、君たちが原因で私がここに居るんだからねぇ〜?
本当なら私、コハル達と組んでたんだから」
「ならそっちに行くか、俺達の誰かがコハル達のグループに入ればよかっただろ?」
「アオト君、簡単に言うけどねそう簡単じゃないからこうなったんだからね!
そ・れ・に───」
ずいっとジュイが近づき、小声で言葉の続きを言った。
「最近エンゲ君とは組んでなかったでしょ?
やっぱり仲良い方がいいじゃん。ね?」
「……俺に言われても、向こうが向こうだし。
ていうか、完全にそのつもりでお前がここにいるんじゃねーか」
「うんうん、そうだね。
よーし、みんなぁ担当の街をよく知る所から始めようかあ!」
「おい……」
俺の話は完全にスルーされ、ジュイを先頭に歩き出す。
ちなみに服装は私服、髪型も変えれる人は変えている。顔は当然相手に知れ渡ってるが、敵にバレるリスクを極力減らすためにこんなことをしている。
担当区域は着いた所からすぐ西に行った場所の為、受付から出てすぐの道を真っ直ぐ歩く。
この狭い道には商店などが並んでいるが、どこを見ても閉まっている店ばかりでとても活気があるようには見えない。
所々開いてはいるものの、といった感じだ。
「休みの日がほとんどの店同士被ってる……なんて事ないよな」
「そんな訳ないでしょ」
「だよな……」
道を歩くこと5分、抜けた先にあったのは田や畑。
左右の道にはまた店が立ち並び、こちらは先程の道と違って普通に開いていてお客さんが買い物をしている。
「んーと、ここら辺は田舎って感じだね。
見たところ亜人の村かな」
「だろうな」
「時間も時間だし、良さそうな店あったらそこで何か食べよっか?」
「賛成。あたしお腹ぺっこぺこ」
「俺もだ……」
「それでいいんじゃねぇの?」
「全員の意見が一致したので、早速お店探しだぁ〜」
左へ行った所にうどん屋があったため、その中に入り昼食を済ませた。
「はぁ〜食った食った」
「なかなかだったわね」
「だね☆
アオト君はどうだった?」
「ん?
まぁ、美味かったけど……」
「まさか話しかけられるとはって顔だね」
「……うるさい」
「そんなむっとしないの。
よーし、たっくさん見て回るぞ〜」
「おー!」
ジュイの呼びかけにエンゲが元気よく応える。
これ、一応仕事なんだよな……と疑ってしまう程呑気すぎる光景に半ば呆れながらも、皆の後を続いた。
店はどれも小さく、昔を感じるような建物ばかりだ。
服屋に行ったり、雑貨を見て回り何か買ったりと満喫しているようだった。
俺は特に話すことなく、見て回る皆の後ろを着いていき、なんとなく商品を眺めたりしていた。
「───へぇ、そうなんですね!
このお菓子にそんな歴史があったとは」
「そうなのよ……って、長話しちゃってごめんなさいね」
「いえいえ!
私たち、そういう貴重な話を聞いたりするの好きなので全然気にしないでください」
それにしてもジュイは人付き合いが上手いと思う。
皆に対して笑顔で接して、純粋に会話を楽しんでいる。
「みんなどれがいいか一つ選んで?」
「じゃあ俺は───」
エンゲは葡萄、ジュイはみかん、ヨミは苺、そして俺はメロンのフルーツ大福を買った。
「もぐもぐ……美味しい☆
食べながらだけど、次どうする?」
「そうね……もう店は結構回ったし、住宅地とか他の所にでも行きましょ」
「なら、そうしよっか☆」
人が沢山いる商店街から離れ、見渡す限り田や畑の道へ。
たまに人が横を通り過ぎるぐらいで、それ以外に出会うものは特にない。
虫が鳴く音や、風で葉が揺れる音。
夕暮れに、オレンジに染まりつつある空。
この島の気候は比較的暖かく、一年中春のような心地だった。
夕方の今は風が涼しい。
「良かったじゃない、あんたが来たかった田舎に来れて」
ヨミが俺と歩幅を合わせ、視線は前に向けたまま。
「…………」
「何よ、無視?」
「違う。
……ただ」
「………」
ヨミが無言でこちらをじっと見つめる。
その表情は落ち着いていて、大人びていて、何かを察してるようで。
「あっそ。
………まだ、付けてるんだそれ」
ヨミが俺の右手首を指して言う。
「……これか」
左手首には昔から使ってる黒のリストバンド、右手首には……彼女が別れ際に俺の髪に結んだ、いつも彼女が身につけていたピンクのリボン。
「お前には関係ないだろ」
「それ言われたら何も言えない。
切ったり離す言葉だからあんま使わないでよ」
「それは悪いと思ってるが……俺にだって聞かれたくないことだってある」
「……。
ま、そうよね。そこはあたしも悪かったわ」
日が傾き始め、家に明かりが灯る。
歩いていく俺たちを追い越して、子供たちが走って行く。
とても平和で在り来りな光景。
だけど、一つだけ大きな違和感があった。
「幻獣がこっそり俺達のこと監視してるな」
「えぇ、そうみたいね」
「俺には気のせいかもってレベルだったけど、気のせいじゃなかったんだな」
「なーんか違和感あるって思ってたけど、やっぱりそうだったかぁ。
で、どうする?一応この中ではアオト君がリーダーみたいなものでしょ?」
俺がリーダーみたいなものの理由は単純なもので、この中で一番強いからだ。
「幻獣だけじゃなく……別の場所にも1人居る気がするんだ。
幻獣よりも分かりにくい、極限まで気配を消した。恐らく人間だろうな」
「……ほんとね、何かいるわ」
「あまり長く立ち止まるのは良くねぇし、歩きながら話すぞ」
立ち止まっていたのは1分も満たない時間だが、こちらが気づいたとバレた可能性は高い。
「今刺激するのは辞めておいた方がいい気がする。
だから、他にも何かないか今までと同じく見回りを───」
「きゃああ、またよ!」
話を遮るように商店街の方から叫び声がした。
全員顔を見合せ頷くと、走って現場へと向かった。
「どうしたんですか!」
ジュイが声をかけ、エンゲと共に倒れている人に真っ先に駆けつける。
俺とヨミは周辺を見るが、怪しい存在は見かけない。
「急に倒れた……というか眠ってしまって」
「ね、眠った?」
エンゲが驚いた顔で眠っている男性と、説明している女性を交互に見る。
「その……なんていうか、説明しにくいんですけど。
最近、この辺りでこういう事件?か分かりませんが急に人が眠ってしまう現象が起こっていまして。
最初は誰もあまり気にしてなかったのですが、日に日に数が増えてきてまして……」
「眠らされてる……のか」
「恐らくね」
「でも誰がやったっていうのよ。
睡眠薬でも盛ったって言うの?」
すると説明していた女性が首を横に振る。
「それが魔法で調べてもそんな痕跡が出なくて。
原因……不明…………な───」
「お、おい!」
女性はぱたりと意識を失ってしまった。
エンゲが抱き留め呼びかけるも返事は無く、どれだけ起こそうとも眠ったままだった。
そして波紋が広がるが如く、他の人達もぱたりぱたりと眠りについてしまう。
「───もしかして、幻獣か?」
「幻獣、ね」
俺の言葉にヨミが何か考える素振りをする。
「この島は眠りの島、って呼ばれてるだろ?
あくまで本で得た知識だが、この国には確か幻獣が存在している。それがさっき気配を感じた幻獣だろうな。
それも島と契約している。だから島民を眠らす事なんて容易いんじゃねぇの?」
「でも島と契約してる幻獣が島民に危害を及ぼすってことは普通無いだろ?
それに幻獣が亜人に感化するなんて……いくら一般人の亜人とはいえ、この程度に負けるはずがねぇ」
「普通は、な。
近くに居た人間の仕業だろうな」
「あぁ、なるほどね……」
「余程力に自信があるみたいだね」
「罪の無い人たちを巻き込みやがって。
俺がぶっ潰してやる」
「とりあえず村の人達の安全を確認したら、気配がした場所まで戻るぞ」
「分かったわ」
「りょーかい!」
「おう!!」
返事が終わると散らばり、隅から隅までさっと確実に確認した後、気配がした方へと急いで向かった。




