ささやかな時間
月の本部──現在の拠点に戻った。
するとソファに座っていたリツがこちらに気づく。
あった事を報告しようと、近くに座った。
もうあの時のように、いちいちめんどくさい報告書を書かなくてもいいのだ。
「あ、おかえりアオト。
どうだった?」
「倉庫はいつも通り酷い有様だったよ。
問題なのはそれをやったのが幹部だったってことだ」
「……っ、まさか幹部が直接手を出していたなんてね。
この件に関しては絶対無いって思ってたんだけど。
重要な情報ありがとう」
「俺はなんにもできなかったけどな」
「そうかな?
実際見てた訳じゃないけど、アオトはいつも頑張ってるよ」
「な、なんだよ急に……」
「ふふ、アオトって褒められるとわかりやすいよね」
「なっ……お前なぁ!」
「じゃあ僕は先に。
おやすみ〜」
そう言うとリツは部屋に戻っていった。
この質素で大きな家が俺たちの拠点であり、住む場所だ。
キッチンや風呂などは共用で、当たり前だがちゃんと一人一人自分の部屋が用意されている。
「はぁ……俺もさっさと寝よ」
仕事が終わる時間帯は日によってバラバラだ。
適当にある物を簡単に調理して食べ、風呂に入り寝る。
それをいつも通りに済まし、また一日が終わった。
* * *
─────
「ねぇ、今日は何しよっか」
何気ない会話。
「そうだな……て、いっても特にやる事ねぇけど。
というか、仕事をだな……」
「もぉ〜、アオトはいつもそうやって真面目なんだから。
他の人と比べなくたっていいじゃない。
アオトはアオトで」
彼女はそう、優しく声をかけてくれた。
「………」
「……?
どうしたの、アオト?」
彼女と知り合って、4ヶ月程経った。
なんなのだろう、この気持ちは。
彼女を見ていると、不思議な感情が心を覆うのだ。
「おーい……聞いてる?」
「……聞いてるけど」
「ほんとに?
ぼーっとしてたように見えたけど」
「……なんでもない」
「そうかなぁ……何か隠してるんじゃって……あわわっ!!」
「お、おい………!」
勢いよく立ち上がった彼女はバランスを崩し、俺の方へと倒れてきた。
目を開けると、彼女は俺の膝の上に乗っていた。
お互い目を逸らし、なんだか気まずい。
顔も近く………最初出会った頃のことを思い出してしまった。
「最初会った時にもこんなことあったよね」
彼女も同じことを思い出していた。
「……そんなの、あったか?」
「ふふ、ほんと素直じゃないね」
「…………」
何故か俺は彼女の背中に手を回し、そっと抱きしめていた。
自分でも分からなかった。なんでこんなことをしているのか、無性に彼女を抱きしめたくなったのか。
寂しいから?心の穴を埋めたかったから?
「ア、アオト……?」
「嫌だったら抵抗すればいいだろ……」
「ううん、全然嫌じゃないよ。
ただ、急にどうしたのかなって。
何かあった?」
彼女の優しい声。
伝わってくる温もり。
そして彼女も俺のことをそっと、抱きしめてくれた。
「………特に何かあったって訳じゃない………ただ……」
「ただ?」
「…………」
「ただ……どうしたの?」
「お前……分かっててわざと聞いてるだろ。
だから………その……」
「ごめんごめん。ちょっと意地悪した。
うん、分かってるよ。
言わなくても、ちゃんと。伝わってるから」
そのまましばらく、彼女に甘えていた。
どうして彼女には、他の人には絶対に見せないような態度をとってしまうのか。
分からない。
分からなかった。
* * *
朝。
目が覚め、布団から起き上がる。
「俺は、今でもお前の夢を──」
朝食を済ますと、リツがリビングにやって来た。
リツはとうに着替えを済ませ、出かける所だった。
「最近ここの街で人間側の動きがあったから、ヨミと一緒に行ってほしいんだけど」
地図の一部を指さし、その地図を俺に渡した。
「分かった。
他に情報は?」
「数はおそらく4、5人。
夜に人を襲ってるって事しか」
「そうか。
リツは今から仕事か?」
「うん。ちょっとした依頼がね。
じゃ、もう行くね」
「あぁ」
バタンと扉が閉まる音が響く。
部屋に戻り着替えと準備を済ませると、ヨミの部屋の扉をノックした。
「おーい、いるか?」
ガチャと扉が開き、オレンジ色の瞳で睨むようにこちらを見ているハムスターの亜人。
紺青色の長い髪に、部屋着なのか緩いワンピース姿だ。
「何よ?」
「仕事だ。街で人間側の動きが見られた。俺とヨミでこの街に行くぞ。
ちなみに私服な」
「りょーかい。
ちょっと待ってて」
廊下で待つこと10分。
「終わったわよ」
「んじゃあ、行くか」
家を出て、街へ行く馬車に乗る。
この七月担当のヨミとは、何十回、何百回とペアを組んで仕事をしている昔からの仲だ。
年齢は俺より2つ下の22。
「静かね」
「そうだな」
馬車が揺れ、走る音だけが聞こえている。
時折カーテンの隙間から窓の外が見え、のどかな田舎道を走っていることが分かる。
「ふわぁ〜………あたし、もうちょっと寝たかったなぁ……」
「寝不足か?」
「まぁ、そんなとこね。
てことで、ちょっと肩借りるわよ」
「おい……」
ヨミは俺に寄りかかると目を瞑った。
「すぅ……すぅ………」
「聞いてねぇし、すぐ寝やがったし……はぁ」
──そのまま馬車に揺られること1時間。
「おい、着いたぞ……って涎垂れてるし」
「………ん?
もう着いた?ふわぁ〜………ん〜、最っ高にいい目覚めかも」
「俺は最悪だけどな」
「何よ、そのぐらいご褒美みたいなものでしょ」
「いつからんなこと言うようになったんだよ。
そんなキモい性癖持ってねーし」
「何よキモいって!
あたしの涎が汚いみたいな言い方じゃない!」
「いや、そりゃあきたな──」
「うるさいうるさいうるさーーい!!
なんにも聞こえないんだから!」
「あ、あの……お客さん………そろそろ降りてくださるとありがたいのですが……」
「「あ」」
すみませんと謝り、馬車を降りた。
通りかかる人は皆、亜人ばかり。
人もそれなりに多く、一見何か事件があったようには見えない平和な光景。
「……情報屋の所に行くか」
「そうね。
あまり気が進まないけど」
人通りの少ない場所まで歩くと、建物にもたれ掛かるフードを被った亜人が1人。
そいつがいる近くの壁に同じようにもたれ掛かる。
「んで、情報は?」
「シシシ、相変わらず冷たいねぇ〜。
もぉーちょっと、親しげに話してくれたっていいのに〜」
「そういうの、いいから」
「はいはい」
変わった笑い方をする、全てが謎に包まれたこの少女の名はシーフル。もちろん偽名だ。
本名不明、素顔も仮面をしているため不明。年齢不詳。
分かっているのは女性ということと、狐と狼のミックスの亜人ということだけ。フードからはみ出した黄緑色のふわっとした二つ結び、身長はヨミより少し低く、おそらく153ぐらいだろう。
中立組織に協力し、彼女の情報には嘘偽りは無い。その証拠として彼女との関係が切れていないことと、ここまでの腕を持つ者はそうそう居ないと言われるほどの実力はある。
のだが……どこか胡散臭いというか、本当に信用していいものかと度々疑ってしまうような存在なのだ。
「場所はG区の……地図見して。
……そう、この辺りっと」
シーフルは地図のある場所に赤いペンで円を小さく描いた。
「ここら辺で襲撃事件があったらしい。
詳しく聞きたきゃあこの街にある酒場に行きな。連日この話で持ち切りだから、きっといい話が聞けるよ」
「ここで詳しく言ってくれてもいいんだがな」
「なぁに言ってんだ。
長居すると良くないことはキミも分かってるだろ?誰に聞かれてるか見られてるのか分かったもんじゃない。
……と、言っても誰か来たり魔法を使ってたら気配で分かるけど」
「情報どうも。報酬は後日ちゃんと支払われるはずだから」
「キシシ、今回も期待しとくよ」
俺たちはシーフルと別れ、その場を後にした。
* * *
酒場から出て少しすると雨がポツポツと降り始め、小走りで喫茶店に入る。
「はぁ……はぁ……何よ、急な雨なんて聞いてないんだけど!」
「仕方ねぇだろ、天気なんだから。人が操れるようなもんじゃねぇし」
「んなこと分かってるわよ」
「お客様、2名でよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいわ。あと、適当な席でいいから」
「かしこまりました。ご案内致します」
店員に案内されたのは窓際の席だった。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
「はーい」
ヨミが軽くそう言って席につく。
「ハンカチ使うか?濡れてるだろ」
「え、いいの?
……大丈夫よ、軽く濡れただけだし」
「そうか」
「それより、せっかく喫茶店に寄ったんだから情報まとめるついでに甘い物でも頼みましょ」
「甘い物じゃなく、情報まとめるのがついでになってないか?」
「細かいことはいいから。ほら」
メニュー表を取り、互いに見やすいように机に広げられる。
「チョコパフェ……もいいし。あ、ケーキも美味しそう〜。迷うなぁ。
ねぇねぇ、アオトは何がいい?」
「俺はなんでもいいよ。
ヨミが頼みたい物2つ頼めばいいだろ?」
「あたし2つも食べれ……あぁ、なるほど。
でも、アオトはそれでいいの?」
意図を理解したのか言葉を途中で止め、俺の方を見た。
「いいって言ってるから提案したんだろ」
「そっか。
ならお言葉に甘えて〜。
店員さーん、注文決まりました〜」
チョコパフェとミックスベリーケーキ、飲み物は2人とも紅茶を頼んだ。
店員が注文を受け立ち去ると、ふぅと一息つくヨミ。
「で、聞いた情報によるG区の中でも一部の箇所で固まって発生してるって」
「そう言ってたな。
みんな不安がってる……」
「……アオトってそういう助けたがる人だったっけ?」
「人を心無い奴みたいに言うなよ。
ただ思ったことを言っただけだ」
「ふぅ〜ん。
アオトも変わったね」
「変わった?」
「なんでもない。
その一部の地域ってどこだったっけ?
今のうちに印付けとかないと」
ヨミが机に地図を広げた。
「G区の………ここだな」
俺は広げられた地図のある場所、G区の2番地に赤いペンで小さな丸を書いた。
「ここねぇ。
一体目的は何なのかしら」
「さぁな。
大方復讐なんじゃねぇの」
「復讐……ね。
ま、気持ちは分からなくもないけど」
「…………」
「……沈黙、ね」
「は?いや、俺自分でもそんな話すタイプじゃねぇと思うんだが?」
「ねぇ、何か隠してない?
あたしに言ってみなさいよぉ」
ずいっと机に身を乗り出し、顔を近づけてくるヨミ。
思わず驚いて数秒の間固まってしまった。
目を逸らし、ソファの背にもたれる。
「前からそんなこと時々言ってるけど、別に何も変わってもねーし隠してもねーから」
「それ、自分から見た自分でしょ?
人から、あたしから見るとそうは見えないけど」
「………本当になんでもねーから」
「あっそ。
……あくまでも言わないつもりなのね」
「っ、だから──」
「お待たせしました、こちらチョコパフェと──」
タイミング悪くメニューが運ばれ、机に並べられた。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が立ち去り、ヨミは目をキラキラさせながらスプーンを手に取る。
「さ、暗い話はこれぐらいにして、美味しいスイーツを堪能しましょ」
「……」
心にモヤモヤが残る中、ヨミはそんなことは気にもせずパフェを頬張り幸せそうに微笑んでいる。
俺はふと窓の外に目をやった。窓には水滴がいくつも付いていて、小さな雨粒が水滴にぶつかり窓を流れていく。
そんな光景を見ていると、ヨミが俺のケーキを一口食べた。
「ん〜、これもイケるわね。
はい、あーん」
ヨミは自分のパフェをスプーンですくうと目の前に差し出した。
「いや、俺はいいよ」
「いいから」
「んな気を遣わなくても……むぐ」
口を開けた瞬間、強引にスプーンを突っ込まれる。
生クリームの甘さと、ほんのり苦いチョコソースが口いっぱいに広がった。
「どう、美味しい?」
「………美味い、けど」
「そ。ならよかった」
ヨミの声色と微笑む顔はどこか優しく、しかし憂いを帯びたようにも感じられた。
* * *
夜、月の制服に着替えた俺たちは川沿いの道をずっと走っていた。
「これ、飛んで行った方が速いんじゃないの?」
「俺もそう思う……なっ!」
同じタイミングで地面に並行に飛んで行く。
なるべく低めに飛び、ひたすら南を目指す。
道には街灯は無く、暗い。
だが俺たちにそんなことは関係無い。人間とは違い、夜目に強いから。
「──乗り越えたらすぐさま奴らを打ちのめすぞ」
「分かってる……わよっ!」
右に曲がり堤防を乗り越え、そこにタイミング良く人間側の奴らがやってきた。
屋根を伝いながら目的地に行く途中だったのだろう。
「なっ、おい!中立組織だ!!気をつけ──」
「黙れ」
敵の鳩尾を柄頭で思いっきり突く。
「ぐはっ………」
屋根から落ちそうな敵の腕を掴み地面に置くと、即座に次の標的に向かって行く。
「くそっ、邪魔ばかりしやがって!」
「お前ら程度に手間取ったりしない」
刀を抜くと相手の剣とぶつかり合う。
「おっと、手間取らないんじゃなかった?」
「いっとくが加減してるんだぞ。
このままじゃお前、落ちて怪我するか死ぬからな」
「舐めやがって!!」
女性が身を引き、後ろの屋根へ移動した。
「はぁ……あんま手荒なことはしたくねぇが」
屋根を蹴り、その勢いのまま鞘に収めた刀を振り上げる。
「ひっ……」
女性の顔が恐怖に歪む。
俺は着地しすぐさま女性を組み伏せると、ポケットから出した縄でキツく縛る。
人間側の数は全部で5人。
残り2人はヨミが片付けているであろうから、あと1人──
「いた」
屋根から地面に居る1人に向かって刀を振り下ろす。
「急に攻撃とはあぶないですね」
「銃で攻撃を防ぐとはなかなかだな。
お前がこの隊のリーダーだな?」
「はっ、甘く見ないでください!」
俺は後ろへ跳び、男は銃を俺に向ける。
「甘く見たのはお前の方だよ」
「あたしのこと、忘れてない?」
「──っ……!」
ヨミが男の首元に短剣を突きつける。
今にも触れてしまいそうなほど、近く。
「これ、結構切れ味いいのよ?
どう?これで殺されるよりも痛く、苦しい目に遭いたい?」
「チッ………くそぉっ!!!!」
悔しそうにこの場に座り込み、地面を何度も何度も殴る。手から血を流しても尚、止める様子は無い。
男を立ち上がらせ、手を後ろに縛る。
他も同じように縛り、中立組織に協力している街の憲兵に引き渡した。
* * *
「ふぅ……これで終わりね」
「いつも通り、だったな」
「そうね、これぐらい何ともないけど……」
俺が歩き出そうと一歩踏み出した時、ヨミが服の袖をぐいっと引っ張った。
「ねぇ、少しだけ飲んでから帰らない?」
「え、まぁ……いいっちゃいいけど……」
「何よ、乗り気じゃないわね」
「別にそんなんじゃ……ただ、昼喫茶店行ったし……」
「晩御飯はどうするのよ?」
「あ」
「はぁ……さては忘れてたわね。
ほら、行くわよ」
「お、おい……分かったから引っ張るなって……!」
2、30分程歩いた所にあるお店に入った。
中はカウンター席が4つと、座席が4つの小さなお店。
ここに来るのは初めてではなく、何度か足を運んでいる。
「マスター、来たわよ」
マスターと呼ばれたお爺さんは優しく微笑み返した。
席につき、 適当なものを頼む。
誰も話すことなく、緩やかな時間が流れる。
少ししてメニューが机の上に並べられた。
「はぁ〜ちょうどこれが食べたかったのよねぇ。
どれか欲しいのあったら取ってもいいから。
その代わりあたしも貰うけど」
「………」
「どうしたのよ。
ったく、今日はずーーっとそんな感じじゃない。
……何かあったの?」
「別に。ただ……なんとなく……こう、気分が上がらない日とかあるだろ?
それだけだ」
「ふぅん。そ。
………そういえばさ、どこか行きたいとこってない?」
「食べながら話すなよ」
「む……別にいいでしょ、食べながらでも。
質問の答えは?」
「急だな。
行きたいところって言われても……」
「あたしはね、どっか暑い所に行って海で遊んでリフレッシュしたい!」
「行けるといいな」
「行けないの分かっててそういう返答しないでよ。
辛くなるじゃない」
「だってそう言うしかねぇだろ」
俺はそう言って、ライムのカクテルを飲んだ。
……とはいえ、俺は酒に強い方ではないためノンアルコールだ。
「あーあ、休みが欲しい」
「けど無理だよな。
あった所でやる事ねぇけど」
「それならあたしが色々連れてってあげる」
「えぇ……いいよ、疲れるし」
「だーめ。
これ約束ね?」
「知ってるか、こういう約束って大抵果たされないまま終わるんだぞ」
「嫌な言い方しないでよ」
行きたいところ、それを聞いてから不思議と心がザワザワしている。
俺はもしも、もし……一日でもどこか自由な所に行けるとしたらどこに行きたいというのだろうか。
「なぁ、さっきの質問の答え」
「え?
あぁ、行きたいところっての?」
無言で頷く。
「俺は……街から離れて、緑に囲まれた場所がいいかな」
「田舎ってこと?」
「まぁ、そうなるな。
人が少なくて、音も川が流れる音だったり……たまに馬車が走る音とか。空気も澄んでいて綺麗で……青い空がどこまでも広がっているように大きく見えて、風が時折吹いて。
一面どこを見渡しても緑が見えるような……そんな場所」
「アオトって時々表現が豊かになるわよねぇ。
なんか書いてみたら?」
「茶化すな」
「でもそっかー……なるほどねぇ、それがアオトの行きたいところ、なんだ」
それから食事を終えてしばしのんびりした後、馬車乗り場まで歩いた。
今から馬車の中で眠り、朝目が覚めると着いているという訳だ。
「あたし馬車の中で眠るの苦手なのよね」
「今この中には俺たちしかいねぇし、あんま揺れないようにゆっくり走ってくれてるだろ?」
「……そう、だけど」
すっと布団から手を出すヨミ。
「手……繋いでくれる?」
俺は無言で手を繋ぎ、その手をヨミの布団の中へ移動させる。
「な、なに……?」
「手、出してたら寒いだろ?」
「で、でも……その、アオトはいいの?
腕ちょっと出てるじゃない」
「このくらい大丈夫だって」
「……何よ、自分だけカッコつけちゃってさ」
ヨミは起き上がり枕を俺の隣へ近づけた。
すぐ隣にヨミが居て、背を向けてしまいたくなる程恥ずかしい。
けれど、手を繋いで寝るためそうすることは出来ないが……。
「これ……すごく恥ずかしい、けど……すごく落ち着いて……安心する」
「そうか」
ヨミはこう見えて、気がすごく強い訳ではない。
今みたいに弱気になることだってよくある、普通の女の子なのだ。
彼女が安心してくれるのならこれも仕方がない。
なかなか眠れず、天井を見上げる。
ヨミは安心したのかぐっすり眠っている。
薄暗く、何の変哲もない天井──というには違う、骨組みに分厚い布を縫い付けただけのもの。
仮に雨が降ったとしても濡れたり雨漏りする心配はなく、ちゃんと天井としての役目は果たしているのだが───
「はぁ……」
自然と口からため息が出る。
ずっとだ。ずっと、心の中がモヤモヤしている。
こんなこと、滅多にないのに今日はやけにそれが酷い。
「あぁもう……寝よ」
その理由を考えるよりも早く、目をつぶって力を抜く。
今はもう何も考えたくない、から───




