交わした約束─ねがい─
今夜、村では祭りがある。
そのため夜も見回りしていた。
屋台がたくさん出て賑わっており、皆楽しそうだ。
見回りはすぐ終わり帰ろうと村を出ようとした時、誰かが手を握った。
驚いて振り返ると、ノエルがいた。息を切らして、じっと見つめてくる。
「さ、探した……んだから」
「な、なんだよ。今日は祭りだろ?お前も楽しんで──」
「どうしても、行きたい場所があるの」
「今からか?夜は危ねーから明日な」
「……明日じゃダメなの、今日じゃなきゃダメなの!それも夜じゃなきゃ。お願い……」
「………」
何時に無く切実な表情に、俺はいつからこういうのに弱くなったんだとため息をつく。
「……ノエルがそこまで言うなら」
「ほんと!?」
「で、そこは何処なんだ?」
「案内する!」
嬉しそうなノエルの後をついて行く。
村からどんどん離れ、小屋も通り過ぎ着いたのは境界近くにある小さな丘だった。
ノエルは1番上まで駆け登り、くるりと俺の方を向いて止まった。
「ここでね、どうしてもやりたい事があったんだ。今日じゃないとダメなの」
「やりたい事っていうのは一体なんなんだ?それに今日じゃないとダメって」
「2つとも後でちゃんと話すから。
すぅー……はぁ………」
緊張したように深呼吸をする。
なんだかこちらまで変に緊張してしまいそうだ。
「……今から話すのは、私が小さい頃に読んだ御伽噺」
『むかしむかし、あるところに女の子と男の子がいました。
女の子は普通の家に生まれた、普通の女の子。男の子は幼いながらも苦労してきた、男の子。
その2人はある日、出会いました。それは偶然か必然なのか。
一目見て正反対であると、けれどどこか似ていると感じました。
女の子は男の子に話しかけますが、男の子は冷たい態度をとります。男の子は素直になれないだけで、本当は女の子と話したいと思っていたのです。
女の子は不思議とそれを分かっていました。だから冷たくされても傍にいて、話しかけ続けたのです。
いつの間にか男の子も女の子と話していて、仲良くなりました。
そんな日が何日か続いて、女の子とお別れの時がやってきました。
女の子は家族と旅行でこの島に来ていたのです。もう帰らなくてはなりません。
男の子には家族がいません。また、ひとりぼっちです』
「──その男の子がひとりぼっちにならないように、ある『おまじない』をしたの」
「それをやりたいってことか?」
「うん」
「理由を聞いてもいいか?」
ノエルが話した御伽噺は寂しく、どこか自分にも似ているような気もして、なんとも言えない複雑な気持ちだった。
「……私ね、この御伽噺が好きなの。
真似してやりたいっていうことじゃなくて、このおまじないにはね『ずっと一緒』って意味が込められているの。
このおまじないをしたら……絶対に切れない繋がりが、結ばれるんじゃないかって」
「絶対に切れない、繋がり……」
「それに今日は、1年に一度綺麗に晴れる日なの。
空を見て」
言われて空を見上げた。
雲一つ無い、綺麗な星空。年中曇り空が広がるこの島では珍しい光景だ。
大小様々な星、白く光る星、赤っぽいのや青っぽい色の星が、満遍なく空に散りばめられたように輝いていた。
「綺麗、でしょ」
「そうだな」
「こんな素敵な日におまじないができたら、御伽噺の……お話の中でのおまじないとはいえ、本当に叶いそうじゃない?」
「……だな」
自然と笑みがこぼれる。
自分でもそうなるんじゃないか……そうなればって、強く思っているなんて。これは思いというよりも、願いに近いのかもしれない。
「どうやればいいんだ、そのおまじない」
「手を出して」
「こう、か?」
手を前に伸ばすと、ノエルはその手をそっと握り──
「……はぁ!?」
驚いて変な声が出てしまった。
なんとノエルは、俺の手を自分の胸にぎゅっと当てたからだ。
「お、おま……何やって………!」
「……動かさないの。
ほら、同じように」
ノエルが手を伸ばす。そこでようやく理解したのだ。
ノエルの手を自分の胸に当てる。
「目を閉じて」
言われた通りに閉じる。
「アオト、私の胸の鼓動……聞こえる?伝わってる?」
優しい風が通りすぎる。
─────緊張したように少し速い鼓動の音、振動が伝わってくる。
「あぁ。聞こえたし、伝わってきた。
……ノエルはどうなんだ?」
「私も聞こえたよ。ちゃんと伝わってきた」
綺麗な星空の下、小さな丘の上で2人っきりで、特別なおまじない。
俺たち以外誰もいない、自分たちだけの、自分たちのためだけの空間と時間。
時折吹く穏やかな風が、俺たちを守ってくれているような。
──ずっと一緒に居れますように
彼女の、彼の、願いが聞こえたような──
目を開けると、ノエルと目が合った。
しばらくそのままで────先にノエルが口を開いた。
「ほんとはね、このおまじないには続き……があるの」
何故か恥ずかしそうに目を逸らす。
「続き?それはやらなくていいのか?」
「……そ、そそそれは……ま、またいつか、ね!」
「………?あ、あぁ」
このおまじないの続きとは何なのだろうか。
………なんだか胸の辺りが温かく感じる。




