正反対
6月も終わり、7月になった。
雲の隙間から差し込む光が、道と俺たちを明るく照らす。
「アオトそのローブ暑くないの?中も長袖だったけど」
「俺はあんまり汗かかない体質なんだよ。暑さにも強いし。
だからこれぐらいなんてことない」
これは半分本当で半分言い訳のようなものだ。
ローブさえ着ていれば中は半袖だって構わない。今着てる制服だって、夏服を頼もうと思えば頼むことだってできる。
そうしないのは、あまり人前で肌を見せたくないから。特に腕や脚は極力見せたくない。
「見てるこっちは暑いけど」
「そう言うノエルだってローブ着てんじゃねーか」
「これ、実は夏用なんだ。暑い日でも着れるように、この前作ったの。
生地薄いから、風通し良くって」
ノエルはその場で一回転してみせる。
ローブがふわっと靡き、ワンピースからすらりと伸びる細く白い脚が見えた。
思わず心臓がドキッと飛び跳ねるような感覚に戸惑う。
「生地の軽さが分かった?」
「あ、あぁ……よーく分かったぞ」
様子がおかしいことに気づいたのか、ノエルの頭にはてなが浮かぶ。
「……な、なんでもないから、行くぞ」
そう、こんな日常が続けばいい。
ノエルと見回りをして、ノエルと小屋で過ごして、ノエルと……………
* * *
「やっと来れた……」
アレスへ向かおうとした矢先、外せない仕事が次々に舞い込みすぐ来ることができなかったのだ。
島に着くなりアオトの元へ急ごうと一歩踏み出した。
──と、目の前に現れたのはあの人だった。
「やぁ、リツ君。この前会った時以来だね」
「前も境界で会いましたよね。こうやって、今みたいに」
「そうだね。
早速だけど本題にいこうか。これ以上先には行かせないよ」
「何故、そこまでするんです?あなただって忙しいはずですけど」
「忙しいからこそ、早く終わらせたいのさ。
ここから先は、アオト君のプライベートだろ?
彼が仕事をちゃんとこなしているのは報告書を見れば一目瞭然。
あの誤字だらけの原因は風邪や疲れが溜まってたからで、今はそんなミス一文字もないよ」
「何も、僕だってプライベートに踏み込むためにこんな事をしてるんじゃないですよ。
……単刀直入に言いますね。あの女の子、普通の人間にしては気配が普通の人間と明らかに違う。
僕も離れていたから最初は気づかなかったけど、あなたなら僕よりも近くでそれを感じたはず。
なら、言ってる意味が分かりますよね?」
「……確かに私も感じたよ。
何せ、気配の消す能力が強者のそれだ。この私が感知できるギリギリまで消せていたんだ。
只者じゃないはずだよ。……でも、害は無いだろ?
キミが目指している世界にあの2人はまさに理想で、ぴったり当てはまるんじゃないのかい?」
「……そう、かもしれませんね」
僕がこの国で目指しているのは極力人間と亜人の争いを無くし、『現状を維持』すること。
そして、本当に目指しているのはその先……今やっている事よりも大きく不可能に近いこと。
「でも、やっぱりこのまま放っておく訳にはいきませんよ。
あの女の子の情報が少しでも欲しい。アオトとの関係も。
……それによって僕がやるべき事が変わってくるんですよ」
「ふぅん………なるほどね。
全ては──」
「人間と亜人が争いを無くし、幸せになるため」
「けれど、私にはあの2人がそこまで重要に思えないんだけどなぁ」
「あなたは気づいていないだけですよ。
……僕がこの島にまた来ようと考えた時からおかしい。
その時から仕事が増えて、ここに来るのが予定より遅れてしまった。
そんなことが偶然、起きるものなんでしょうか?」
「あの女の子がそうさせたって言いたいのかい?」
「恐らくは無意識でしょうね。
アオトとの関係を邪魔されないために、僕のような存在を少しでも遠ざけようと……運命を捻じ曲げ、変えてきている」
「大袈裟だなぁ」
「本当に気づいてないんですね。
僕はアオトに会った時からずっと感じているモノがあるんですよ。あまりにも小さくて誰も気づかないようなモノ。
あの女の子はアオトのモノとは正反対のようだけど……正反対でありながら、似たようなモノを感じたんです。
少し見方を変えればあなただって解るはず」
「…………分かった。その件については考えてみるよ。
だから、今日の所は諦めてくれないだろうか。
……なんだったら頭も下げる」
「どうしてそこまでするのかっていう質問の答えを聞かせてくれませんか?」
「キミは本当に無礼でぐいぐい来るんだな。いいよ。
簡単なことさ。アオト君の立場になって考えてみたらって。
アオト君、自分の事……特に過去を探られるのが嫌いだろ?そんな彼が自分のプライベートを探られてるって知ったら嫌な思いをする……居場所を無くすような事をするなって、言ってるんだよ」
鋭い視線が向けられる。
「そうやってわざと痛い所を突くような理由付けて、ただ2人を守りたいだけなの見え見えですよ。
……でも、そうですね。僕もアオトを傷つけたくないのは本心ですし、今のところ害は無いみたいなのでしばらく様子見ってことで。
──けれど、僕は完全に諦めた訳ではないですから」
深々と頭を下げ、ではと踵を返しこの場を去る。
「…………」
あの女の子の事を調べたいが、仕事が忙しくて当分無理そうだ。
あくまでも女の子の事を調べるのは、真の目的の次に重要なことでしかない。
目的のためにこの身を捧げると決めたのだ。
真の目的。
そのためにまずは、この国の争いを極力無くし現状維持。そして王の決定が変わったら争いを全て無くし、誰もが平和に暮らせる完璧な国へ。
世界のお手本にするために。




