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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
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揺蕩う水面を鎮めるのは

壊れる。


「辛そうな顔……してねーし………」


「してるよ」


「……いいから。早く部屋から出て行って──」


「ここであなたを離したら、きっと後悔する。

私とあなたの間に大きな溝が出来て……逸れてしまうから」


「何、言ってんだよ……」


ノエルから逃げるように、壁の方へ後ずさる。



来るな。



ノエルは無言で近づいてくる。



怖い。



踏み込んでくるな。



ベッドに乗り上げ、俺との距離が縮まってくる。



俺の世界が、壊れる────



彼女は俺の両手を優しく握り、目を閉じた。


「私は離れたりしないって、この前言ったでしょ?」


「……………」


動けなくて、上手く話すことさえできない。


「大丈夫」


彼女はそう一言呟くと、俺をぎゅっと抱きしめた。

柔らかくて、温かくて。いい匂いがして、不思議と落ち着く。

けれど、これをこのまま受け入れるのはダメだ。

そう思い、離れようと抵抗しようとした。

が、彼女はそれを許してはくれなかった。さっきよりも強く、抱きしめられる。

抵抗する。

また強く抱きしめられる。


「な……んで、こんなに優しくするんだよ…………こういうのは、本当に大切な奴に──」


「……馬鹿。誰彼構わずするような人じゃありません。

アオトだから、だよ。アオトが辛そうにしてるから……。

無理に聞くのは良くないから……こうすることしかできないの」


優しく頭を撫でられる。

ダメだ……負ける。誘惑に。

彼女になら、本当の自分を少しだけでも見せていいんじゃないかって。

普段偽っているつもりはない。ただ、見せてない一面があるだけ。

俺が欲しいもの。それは金でも、ただ生きることでもない。生きる目的でも。


「…………………」


彼女の言葉は、行動は罠だ。

どんどん俺をダメにして、崩していく。外側を削られていく。


「話を聞いて欲しいのならいくらでも聞くよ。

ただ抱きしめて欲しいのならいくらでも抱きしめてあげる。

……私に出来ることなら、何だって言ってくれていい」


人は弱っている時程脆いことはない。

だからいつもより気をつけて、壊れないようにしてきた。固い殻で身を守ってきた。

彼女はそれを壊す力を持っている。


「んなこと言って……俺が何かして欲しいって言うとでも思ったか?

………意味分かんねーんだよ。なんで、ここまで優しくするのか。

まだ会って1ヶ月ちょっとしか経ってないんだぞ?

そんな奴に……なんでここまで……」


「……シャネって人の言う通り、時間なんて関係ないよ。

大切なのは時間じゃなくてどう過ごしたか、でしょ?

この1ヶ月でアオトのこと、前よりたーっくさん知れたよ。

素直じゃないだけで本当は優しいこと。なんだかんだ言って、村や私を守ってくれていること。大切に想ってくれてること。いつも、誰かのために行動してくれてる。

それってすごい事だよ。憧れるよ。

隣に立ってて、言わなくても伝わってくるの。あなたの想いが。

そんなあなたの事が…………………そう、想ってるから……。

他にも色々あなたに対して想ってる事はあるよ?

そういうの全部含めて……ね?」


「そ、それが……理由」


「理由って言い方はちょっと違うような気もするけど……そうだよ。

それだけで十分なんじゃないかな。

私、あなたが思う以上にあなたの事想ってるよ」


「………」


俺が欲しいもの。


それは────俺を、受け入れてくれる存在。

自分じゃ自分を受け入れられないから。あまりにも醜くて、重くて、1人じゃ耐えきれない。

せめて受け入れきれない分だけでも、受け入れて欲しい。

けど、こんなのはノエルに対して失礼だ。

ノエルはきっと、俺みたいな理由で俺の事を想ってくれている訳じゃない。

なのに………。


「お、俺は……お前が思ってるような……そんな、すごくていい人じゃねぇよ……。

きっと知れば嫌になる。俺から離れた方がいいに決まって……」


「アオトからすれば、そう想うのかもね。

でも、それで私は幸せにならない。

だって、私はあなたの隣に居たいんだもん。ただ、居るだけでいいから。

それで、私に出来ることをやるだけ」


全部、預けてしまいたい。

でも……………でも………………………………!


「あなたの望みを教えて」


──その甘い一言で、優しい表情で、今まで躊躇っていた鎖が切れた。

彼女の手が俺の頬に触れ、そっと撫でる。

何故、彼女は全て理解(わか)ってくれるんだろう。

俺の欲しいモノをくれるのだろう。

満たして、くれるのだろうか。


時間なんて関係ない。

誰からどう思われようが関係ない。

俺と彼女だけの空間。理解。


ノエルのことをどう思っているのか分からない。

はっきりしているのは、大切にしたいということだけ。

ただ俺を満たしてくれるから、なんて理由じゃない。

そんな最低な理由じゃなくて………これは………この気持ちは…………………


「……俺のこと、受け入れてくれるか?」


「うん」


彼女はまた、俺のことを抱きしめた。

さっきよりも優しく、温かく感じる。

彼女に軽く体重を預け、目を瞑る。



こんなの普段の俺らしくなくて、正直認めたくない。

けれど、そういう考えさえどうでもよくなっていった───

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