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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
19/83

(非)日常の雨の中、抱え込んだ気持ち

今日は朝から雨が降っていた。

一向に止む気配はない。


「雨降ってるし、見回り俺1人でいいか?」


「結構降ってるよ?お店も閉まってると思うし……」


「このローブは特殊なもんで雨とかを弾くんだよ。だから、大丈夫だ」


「そっか。

……流石にそんな特殊な生地使ってないから、私が行くとびしょびしょになっちゃうね。

私が来た時はパラパラ降ってるぐらいだったのに。笠持ってくればよかった」


「そうだな。

じゃ、行ってくるよ」


「うん。行ってらっしゃい」


雨の中、川沿いの道を歩いていく。


──村に着くが、当然誰もいない。家の明かりを見ずとも、(みな)家の中にいるという事は分かっている。

こういう時はいつも同じような気持ちになる。

上手く言い表せない、昔に忘れて置いてしまったような感情。

こんなことを考えながらでも、ちゃんと見回りは出来ている。嫌な気配は感じないし、どこを見ても異常は無い。


静かだ。

雨の音がうるさく聞こえるが、そういう意味で言ったんじゃない。

誰も人がいないことをそう表したのだ。

お店の前で仲良さそうに話して、こちらに気がついたら挨拶してくれる。

けれど雨の日はそうでは無い。

自分1人が道を歩いて異常が無いかを確認して。家には明かりが灯っていて。


「雨の日はなんでこんな気持ちになるんだろうな……」


俺が呟いた言葉は雨の音でかき消された。

これだから雨は嫌いなんだ。

普段より薄暗いせいか、気分まで持っていかれる。

この気持ちをなんとかして変えようと、足早に小屋へ歩き出した。




「おかえり〜」


「……た、ただいま」


「どうしたの?ぽか〜んとして」


「い、いや……」


なんで俺は一瞬、こいつの「おかえり」という言葉に安心したんだ?

……なんなんだよ、ほんと。


「前から気になってたんだけど、フード被ってるでしょ。

……耳って、どうなってるの?」


「急になんだよ……」


「せっかくだから聞いておこうかなって。

耳ぺしゃんってなってるのかずっと気になってて……」


俺の方をまじまじと見るノエル。


「……外から見えてないだけで、耳入れる場所があるんだよ。

ほら、ここ」


そう言って、俺は自分の耳をフード越しに触る。


「私には何も無い空間をフニフニしているようにしか見えないけど……」


「………触ってみれば分かる」


「え、いいの?」


「……ダメだったらわざわざ言わねぇだろ」


「で、では……」


ノエルが近づき、軽く耳に触った。


「わっ、動いた!

……ほんとだ、見えてないだけである。

これ、フードの中から見るとどうなってるの!?」


「なっ、や、やめろって…………」


ノエルはどうなっているのか確かめるため、フードを軽く持ち上げ覗き込んできた。

すぐ横に顔があり、なんだかいい匂いもして………は、恥ずかしくなってきた。

だからといって、抵抗しようにもできなくて。


「フードの中からだとちゃんと見える。

不思議だ…………ね……………」


目が合い、そのまま目が離せずにいた。


「わわっ……ごごご、ごめ………つい夢中で……気づかなくって………」


「べ、別に気にしてねーし……」


「「……………」」


最近こういう事が増えたように感じる。気まずいのとは違う、独特の雰囲気。

なんとかしないと、自分が耐えれそうになかった。

全身に響く鼓動に……この気持ちに。


「あ、あのさ──」


ノエルが違う話題を持ち出したおかげでなんとか切り抜けたものの、これが続くのは良くない気がした。




「アオト、ぼーっとしてどうしたの?」


「特にやる事ねぇなって」


「休暇もらったから?」


「俺がここに来る前は、こんなにのんびりする時間なんて無かったからな。

いざのんびりした時間ができると何しようかなって」


「本読んだりは?」


「俺はそれでもいいけど、その間ノエルが暇だろ?」


「私のこと、気を遣ってくれるんだ……」


「今は本を読む気分じゃないしな……」


「そうやって誤魔化したってお見通しなんだからね?

……ふふ」


「なんだよ」


「いや、楽しいなって」


「何もしてねーじゃねぇか」


「うん。

でも今みたいな、ただ話すことがとても楽しくて」


「楽しい……か」


俺もそう感じているのかもしれない。

ノエルと過ごす時間が楽しくて……………って、ダメだ。

俺が人間と仲良くするなんて……誰かと仲良くするなんて。心を開きかけるなんて。楽しい、と感じるなんて────


「ほんの少しだったけど、ちょっとだけ笑ってた」


「え……だ、誰が?」


「アオトに決まってるじゃん」


「……きっと見間違いだ」


「えー、そうかなぁ」


新しく芽生えかけている感情。

この感情を早く消さなくてはという思いとは裏腹に、大事に育ててもいいんじゃないかという甘い誘惑があった。

こいつの傍に居るとその誘惑に負けそうで……。


それから他愛ない話をした。

不思議と気がついたら昼になっていて。いつもより早く時間が過ぎているように感じる。

きっと……ノエルと話すことを楽しいと、そう思ってしまったんだ。無意識に、認めてしまった。

けれど、何故だか認めたことで楽になったような。まぁいいや、難しいことなんて放っておこうとそんな思考になる。



そして当たり前になったノエルの手作りの昼ごはん。

毎日違う物を作ってくれる。

美味しくて、お腹だけでなく心まで満たされるよう。

今日はシチューだった。


「ごちそうさま。

……毎日ありがとな。美味かったよ」


「……急にどしたの?

すごく、嬉しいけど」


「こ、これぐらい俺だって言うよ……」


「ふーん……」


「言わなくても分かってますよ、みたいな顔するな」


「ふふ、私のこと分かってきたじゃん」


「………」


分かってきた。

その通りだ。

ノエルの隣に居て、ノエルの事をたくさん知って。

色々分かったことがある。

こういう時こんな表情をするんだとか、反応がいちいち可愛らしいなって。

可愛らしいといっても、そういう感情は……きっと一切無く、て……。



報告書を書き終え、何度も何度も飽きる程読んだ文章を読み返す。

誤字脱字無し。おかしな所も無い。


「これで大丈夫そうだな。

っと………」


大きく伸びをして、ふとノエルの方を見ると椅子ですやすやと寝息を立てていた。

帰る時間までまだ余裕はある。起こしてしまうのはよそう。

かといって、このままだと風邪を引いてしまうかもしれない。椅子で寝てたら、起きた時どこか痛めてしまう可能性も……。

俺は部屋の扉を開けた。


「そっと、起こさないように……」


ノエルの首の後ろに腕を回し、膝の下に腕を入れ持ち上げる。

ぶつけてしまわないように慎重に部屋に入り、ベッドに寝かせた。

布団を被せ、立ち去ろうとする。


──こいつの寝顔、そういえば初めて見たな。

そりゃそうだ。まず見る機会なんてそうそうあるはずもない。今みたいな事が無ければ。

…………ノエルってこんな大人びた顔をしていたっけ……。女の子、じゃなくて女性って言葉の方が似合う。

まつ毛が長くて、髪も綺麗で……。

唇、頬とまじまじと見ている自分がいた。


「はっ!お、俺はなにをじろじろと見て……」


すぐさま立ち上がり、部屋を後にする。

うるさい鼓動を抑えるように、胸に手を当てた。


「ノエルの顔を見つめるとか……俺のやってる事相当やばいだろ…………はぁ……」


椅子に座り、机に伏せる。

窓の外はまだ雨が降り続いており、静かな小屋には雨の音がかすかに響いていた。

村に居た時と同じ1人なのに、そこに居た時とは違う気持ち。


「いつもと……おなじ……はず、なん……だけど…………な…………………………」


雨の音を聞きながら、意識はいつの間にか眠りに落ちていった。




───温かくて、いい匂いがする。

リズム良く安心させるように背中をぽんぽんとしてくれて、時々優しく頭を撫でてくれているような感覚。



「………ん……………………?」


「……っ!」


「あ、あれ……俺、寝ちゃって……………ノエル?」


机から起き上がり、すぐ側でそわそわするノエルに話しかける。


「な、なんでも……ないよ?」


「………あぁ、毛布かけてくれたんだな。

……………ん?」


眠気が覚めていき、意識が鮮明になっていく。


「な、なぁお前………ひょっとして俺の頭を──」


「うわあぁ!なになに何のこと!?わ、私全然分かんないなぁ……!」


「…………」


なんて嘘が下手なんだろう。

下手すぎて呆れてしまう。

ノエルがどうしてこんな事をしたのかは分からないが……。


「まぁ、そういう事にしといてやるよ」


「む………な、何よその分かってるっていう顔は!」


「さて、ノエルは帰る時間だな」


「話を逸らさない!」


「雨は止んでるみてーだし、見回りついでに送ってやるよ」


「お、送ってくれるの?」


「俺の気まぐれだ」


「なら、一緒に見回りしてもいい?」


「お前がそうしたいって言うんなら、それでいいよ」


「やった!」


嬉しそうに笑い、はしゃぐノエル。

起きていると顔も行動も年相応に見える。


「それじゃあ準備して行くぞ」


「うん!」

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