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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
18/83

見つめて、見つめて、見つめ合って

今朝、家に届いたのは一冊の本だった。

送り主はシャネさん。

同封されていた手紙にはこう書かれていた。


──アオトくんへ。


今のキミにぴーったりな本を見つけたから、ぜひ読んでみてね。確かアオトくん本読むの好きだったよね?

当分大きな仕事は無いだろうし、休暇みたいなものだと思ってゆっくり過ごしてくれて構わないから。

……読まなきゃダメだからね?これ、上司の命令。休暇(仮)中の宿題だよ?

感想待ってるからね☆


シャネより



「宿題って……子どもじゃないんだし……」


手紙を置き、肝心の本を手に取る。

タイトルは『炎と氷の結晶』。作者は不明……というより名無しで、ページをめくり軽く読んだ感じだと、どうやら恋愛もののようだ。


「全く……余計なことを………」


今日はいつもより早く目が覚めた。

ノエルが来る時間までまだ1時間程ある。

それまで自分の部屋で読もうと、椅子に腰掛け本を開いた。



内容は炎の戦士と氷の妖精が恋に落ちてしまったというものだった。

昔から炎の戦士が住む村と氷の妖精が住む森とでは争いが絶えなかったらしい。

炎の戦士が調査のため森を歩いていると、怪我をしている氷の妖精と出会う。

敵であるはずの氷の妖精を当然のように手当てする炎の戦士。

それをきっかけに2人は度々出会うことになり、惹かれ合っていき、やがて恋に落ちた。

けれど炎と氷という相容れぬもの同士。人と妖精。

種族も違うこともあり、結ばれたくともそれができないまま日々を過ごしていく。

そして恐れていた大きな争いが村と森とで起こってしまう。

戦場の中で2人は出会い、最期の約束を交わす。


炎の戦士は氷の妖精が住む森を守るために、村の人々に立ち向かい戦いを止めようと必死に戦った。

氷の妖精は炎の戦士が住む村を守るために、妖精たちに立ち向かい戦いを止めようと必死に戦った。


──2人の犠牲により争いは終わりを告げ、村と森には悲しみと平和が訪れた。


という悲しい終わり方だった。

しばし感傷に浸る。

読む前はあまり興味が無かったが、読んでみるといくつか心に刺さる台詞や場面があり、つい夢中で読んでしまった。


特に残ったこの台詞──


『もう何も見えない。キミの姿を見ることさえ出来なくなってしまった。

もう何も話せない。キミと話すことさえ叶わなくなってしまった。

もう何も感じない。キミの温かさを感じることさえ奪われてしまった。


伸ばすこの手が数多の攻撃に傷つけられ、形をとどめていなくとも伸ばすことをやめるものか。

皮が剥がれ落ち、骨がむき出しになろうともまだ伸ばせるのであれば───


僕は死ぬ最期までキミを守り、愛することを誓ったから』


自分の命を懸けてでも妖精のことを守ろうとした。

種族が違うから、敵だから。

そんな理由は些細なことで、本当に心から愛し合っているからこそなのだろう。

氷の妖精もまた、炎の戦士と同じ想いを抱き戦った。愛していた。


……俺には関係ないことのはずなのに、ほんの少しだけ炎の戦士の気持ちが分かるような気がして。

ふと視線を感じ、振り向くと部屋の入口にノエルが立ってこちらを見ていた。

部屋の扉、閉め忘れてたのか……俺。


「ノエル、合鍵で開けたんだな………」


待て。

俺はこの本を一冊読み終わったんだよな?

読むスピードが遅いことは無いと思うのだが、結構時間が経っているように感じるのは何故だ?

………まさか。


「──やべ、もうこんな時間じゃねーか!

急いで……」


「もうやっといたよ」


「へ?やっといたって……」


「見回りとか、他にやること。

……さすがに報告書は書けないけどね。

アオトったら何回呼んでも気づかないんだもん。邪魔しちゃ悪いかなって……私が勝手にやっちゃったんだけど」


「…………」


「や、やっぱり怒、るよね……アオトの役に立ちたくて………やったんだけど」


「い、いや違うんだ。驚いただけで……ありがとうな」


ノエルの頭を軽くぽんぽんと撫でた。


「──っ、…………………」


「ん、どうしたんだ?」


頬を赤く染め、何かを訴えかけるようにじっと俺の目を見つめるノエル。


「………ううん。

でも、そういうとこだよ………」


「?」


「……それより、アオトの仕事って休みの日とか無いの?

この1ヶ月間ずっと働きっぱなしじゃん」


「休んだら誰が村を護るんだよ。

一応しばらくは大きな仕事が来なさそうだから、落ち着いた日々になるだろうな。

それが休暇みたいなもんかな」


「そうなんだ……」


「休みがほしかったら全然言ってくれて構わないからな。

俺はそうもいかないけど」


「……っ、別に休みなんてほしくないし……」


「……なぁ、今日のノエルなんか変じゃないか?

いつもと違って……態度がつんつんしてるっつーか」


「………つんつんしてるつもり、ないんだけど」


「ずっと顔赤い気がするし、風邪でも引いたんじゃねーの?」


俺はノエルのおでこに手を当て、自分のおでこの温かさと比較する。


「熱はねぇみたいだけど……」


「……………なら言わせてもらうけど、私のこと子ども扱いしないでほしい……」


「なんだ、そのことで不機嫌だったって訳か」


「ち、違う!違うの………」


「……昨日、言い方きつかった………とかか?

あの時は頭に血が上っててつい………」


「ううん。その事はもう気にしてないから。

私こそ……ムキになっちゃって…………」


* * *


なんでこの人には伝わらないんだろう。

伝えたいのに、こんな態度をとるつもりなんて無いのに。

言いたいことがあるのに、上手く言葉にできなくて。


「……私は、ただ………」


「ただ?」


「……………」


ダメだ。

何度挑戦しても、アオトと普通に話すことすらできない。

私はどうしてしまったのだろうか。


「なぁ、その……悪かったって……」


私を気にかけて、心配そうな顔をする彼。

私の肩に手を置き、じっと見つめられる。

彼と一緒に居れて嬉しいはずなのに。胸が苦しくて、息をするのも大変なぐらい。気を抜けば、今にも潰されてしまいそう。


「ううん……アオトは何も悪くないの。

でも………」


私は彼の目を見て、はっきりと言った。


「鈍感バカ」


* * *


夕方になり、陽の光が小屋に差し込んでくる。

報告書も書き終わり、一段落することができた。


「そういえばアオトが読んでた本って何?」


「うっ………ノ、ノエルにはまだ早いもんだから」


「何それ……どういう意味?」


「言っとくけど変な意味じゃないからな。難しくてノエルには分からな──あぁ!」


話し終わるより前に俺の部屋に行き、本を手に取り軽く読むノエル。


「……………アオトが、恋愛……もの?

あと、作者の名前が書いてない」


「あー……シャネさんが送ってきたんだよ。読めって言われてな。

ノエルは本読まなさそうだから知らねぇかもしんねーが、作者名が書かれてないっていうのはよくある事なんだよ。

ていうか勝手に俺の部屋に入るなよ。本机の上に置きっぱなしなの、見てたな?」


「うん、見てた。

……この前は私を部屋に入れたじゃない」


「あれは緊急事態だから特別だ。

ノエルだって、俺がノエルの部屋に入ったら嫌だろ?」


「私、アオトなら全然良いけど」


「……え?」


ノエルの目を見つめ、ぽかんと口を開けたまま言葉を失ってしまった。

胸のモヤモヤ………というより、全身に響くように脈打つこの感じ。

これはいったい何なんだ?

また今までに無い初めてのこと。


「………」


「………」


互いに黙って目を逸らす。

気まずいような、そうでないような。

黙ったせいか、余計に脈打つ音がうるさく感じる。

それも……ノエルを見てると余計にひどくなるような…………。


「………そ、そろそろ帰る時間だな」


「……う、うん……そう、だね」


ノエルが手を振って扉を閉め、家に帰った。

俺はだんだんと落ち着く鼓動を感じながら、机に置かれた本を見た。


「……シャネさんに感想、送らなきゃな」

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