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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
11/83

異常

俺とノエルは小屋の前で睨み合っていた。


「お互い、意見は変わらないみたいだね」


「あぁ、そうだな。

ここでこのままってのもあれだし、さっさと行かせてもらうよ」


「私が追いかけないとでも?」


「……追いつける訳ないだろ。じゃあなっ──」


俺は地面を強く蹴ると、その勢いで飛んでいく。ちなみにあまり地面から離れずに飛んでいる。高く飛べば色々厄介だからだ。

魔力の少ない俺でも、これぐらいの魔法なら余裕だ。

人よりも元から魔力の多い亜人。昔は難しいとされていた飛行魔法は、今では誰でも練習すれば出来るぐらい簡単なものとなった。

村と外の境界の辺りに着き、木に隠れる。どうせノエルのことだ。俺を追ってここに来るに違いない。

10分程すると、俺の予想通りノエルがやってきた。


「アオトー、どこかにいるんでしょー。

いいの?私、ここから先に行っちゃうよー!」


俺をおびき寄せるように、周りをキョロキョロしながら叫んでいる。

そしてノエルが境界に向かって歩いていく。

あと一歩で出るという時、俺はノエルの手首を掴んだ。


──と同時にノエルも俺の手首を掴み、目が合う。


「……っ、お前分かってたのかよ」


「アオトなら絶対待ってるって。

私が追ってくること分かってたよね。なら、境界より先に行こうとしたら、きっとどこからか出てくるんだろうなって」


「どこに隠れてるのか分からないのに、よく手首を掴めたな」


「それはなんとなくっていうか、勘っていうのかな?」


お互い掴んでいた手を離す。


「……………はぁ、こっからは俺の独り言な。

掴まれ」


「掴まる?」


俺はそう呟くとその場に屈んだ。

訳の分からない様子だが、ノエルは俺の背中に体重を預け首に手を回す。

立ち上がり、ちゃんと背負えてることを確認する。


「わわ……おんぶだ」


「……しっかり掴まっとけよ」


俺は少し前に屈み、念の為ノエルの腕を掴むと助走をつけ、さっきよりも強く思いっきり地面を蹴った。


「うわっ、え?え!?えぇぇぇ!!?ちょ、ちょちょちょっと、速いって!!

ふ、振り落とされないよね!!?」


「うるさい。耳が痛くなるから騒ぐな」


森に囲まれた村とは違い、ここは植物などほとんど生えておらず周りはごつごつとした岩や石ばかりだ。

時々岩から魔物が現れ、俺たちを襲う。


「振り落とされるなよっ……」


「う、うん……!」


ノエルは必死に俺にしがみつき、俺は道を邪魔する魔物と出会ってはスピードを落とし、ひたすら斬っては倒すを何回か繰り返していった。



なんとか洞窟の前に着くと、ノエルは俺から離れ近くの石の上に座った。


「す、少し疲れたから……休憩させて」


「勝手について来といてこのザマかよ……」


「うぅ〜お願いだって!私だって掴まるの必死で…………って、結局私のこと守ってくれてたじゃん」


「勘違いするな。あくまで俺は俺の身を守ったまでだ」


「ん〜、つまり?」


「……俺は独り言を呟いただけだ。それを聞いたお前が勝手に俺について来た。

そしてお前は俺にぴったりくっついていた、ってだけだろ」


「……つまり、私はアオトから離れなかったから無事だったと。

あくまで自分の身を守っただけだって、言い張りたいのね。

振り落とされるなって言ってくれたくせに」


「………っ、あれはお前の幻聴だ。俺はそんなこと一言も言ってねぇ」


「あれはって、言ってる時点で認めてるようなものだけど…………アオトっていちいち面倒で遠回しな理由をつけないと人に優しくできないんだね。

素直にふつーに私と一緒に来て私を守った、でいいじゃない」


「言っとくが、ノエルがここに来ること認めたつもりはねーからな。

ノエルが、勝手に来たんだ」


「はいはい、そういうことにしといてあげる」


やはり、この態度が気に食わない。

だんだんイライラしてきた。


「……あんまそういうこと言ってると、休憩無しにすんぞ」


「ご、ごめんって!だからそれだけは〜!!」


──休憩を終え、洞窟の中に入る。

薄暗いが、壁にある松明のおかげで魔灯を使うことなく進めていた。


「止まれ」


「え、急に何?」


「右側に寄って歩け」


「な、なんで?」


「罠だ。

左側を歩くと、恐らく地面が抜けて下へ真っ逆さまだろうな」


「よく分かったね」


「よく見れば地面がおかしいことぐらい見抜ける」


分かれ道では左を行き、怪しげな線をくぐり抜けたりと罠を回避していき、目的の前まで来ることができた。


「あの前にある、オレンジ色の(たま)ってのが幻獣だろうな」


「あれが?大きさも手のひらぐらいしかなさそうだけど」


「眠ってる時の姿はああなんだろうよ」


球の元に行こうと一歩を踏み出した時──


「ノエル!」


「アオト!」


互いの名を同時に呼び、すぐさま後ろに飛び退くことで球から放たれた火の矢を避けることができた。

今度は轟轟と燃える炎が横切る。

俺は咄嗟に後方へ宙返りすることで回避できたが、ノエルはそれを屈むことで回避していた。


──なんで素人のあいつが攻撃を回避することができるんだ?

最初球から攻撃が来た時も、俺と同時に察知していた。だからこそ名前を、俺と同じタイミングで叫ぶことができたんだ。


着地した途端、複数の火の玉が高速で飛んでくる。

それを軽々避けるが、ノエルのことが気になって仕方なかった。


「馬鹿、そんなに走り回るな!

お前……何やろうとして──」


「アオトは私の心配をせず、自分だけの心配をして。

私なら大丈夫だから」


偉そうに、と腹が立つが一理ある。

ノエルは適当に走っている訳ではなく、なんと球に向かって走っていたのだ。

それもなるべく気配を消し、攻撃を全て躱して。


「フハハッ、これまた面白い人間がいたものだな」


球が眩く光り、収まるとそこには火を纏った女性が立っていた。


「あ、あなたは?」


「いかにも、妾が幻獣フェニックスじゃ」


「大人しく眠ってたはずじゃあなかったのか?」


「あぁ、眠っておったぞ」


「その様子じゃいつでも目覚めることは出来たんだろ?

ならなんで亜人が村と街を襲ってる時、目覚めなかったんだ?」


「……アオト、どういうこと?」


「…………」


ノエルの問いに答えることなく、フェニックスを睨み続けていた。


「あの時亜人が小細工を仕掛けよってな。そのせいですぐに目覚めることができなかったのだよ」


そう話すフェニックスには確実に俺に対する敵意があった。


「相当亜人のことを恨んでるようだな。

当たり前だろうけど」


「そういうそなたこそ、気になることがある。

まず、その武器はなんだ?」


フェニックスは俺の武器、刀を指さす。


「これは刀だ。噂によると別世界で作られた武器を元にしたとか。

使ってる人はそう多くないけどな。何せ自分に合う物を見つけるのに時間がかかるし、大体は特注だけど。

別世界か知らねーが、そんな訳わかんねぇとこから技術を盗んだせいか戦い方もみんなそれぞれだし。

好んで使うやつはそういないから、珍しいかもしんねーな」


話しながらノエルとフェニックスを引き離す方法を考えていたが、さっきからノエルがどうして攻撃を躱せたのかが気になって思いつけずにいた。

いつもならさっと浮かぶはずなのに、いったいどうして………!


「なるほどな。説明、有難く思うぞ。

ふむ……昔とは見慣れぬ武器か。

ところでそなた、アオトといったか。

……そなた人間を護りはするが、守りはせぬのだな」


「……何が言いたい?」


「そなたは人間を嫌っておるな。何故護る?」


「仕事だ、生きてくためだ」


見透かすような目。ノエルとは違う、本質を見抜こうとするこの目。


「なら、何故この者は『守る』なんだ?」


「言葉遊びか?ふざけるのも大概にしろよ」


「アオトの目には、様々な感情が混在しておるな。

それは──」


俺は強くフェニックスを睨みつけ、殺気を放った。


「人の事、勝手に探り入れてるんじゃねぇぞ。

それ以上話すつもりなら今ここで──」


視界にノエルが入り、続きを話すことができなかった。

ノエルの表情は俺を心配するような、そんな顔をしていた。

言葉の続きを言わなくてよかったかもしれない。もし、ノエルの前で言っていたら……。


──俺は何故、ノエルにどう思われるのか気にしたんだ?



「……気を悪くしたのならすまない。

では、次に人間のお主。お主は、亜人の彼とは違い武器を持っていないようだが」


「えっと……私は、戦えないから」


「なら何故ここに来た?」


「私はアオトのパートナーなの。だからアオトが行くって言うのなら私も行くわ。

どんな危険な場所でもね」


「ふむ……お主は今まで契約してきた者たちと同じ目をしておるな」


ノエルの前に立ち、フェニックスに刀を向けた。


「貴様、気配を消して妾に近寄るとは」


「誰に向かって言ってんだよ。幻獣なんかに亜人が劣る訳ねぇだろ」


「やはりそなたは矛盾しておるな。

人間を嫌いながらもその者を守っている」


「……そっちが来ないのならこっちから殺りにいってもいいんだぞ?」


「そんなに殺気を出しよって……よっぽど探られるのが嫌なようだな」


「てめぇ、最初から分かってて探ってるよな。

……ここでお前を破壊(ころ)してもいいんだぞ?」


「…………妾は仲良くしたいと思っていたのだがな」


「嘘つくなよ。そっちだって敵意むき出しだったくせによ」


俺の足元に向かって火を放つフェニックス。

刀で斬るには分が悪く、仕方なく距離を取る。

瞬間、ノエルとフェニックスの周りは炎に包まれてしまった。


「んなことしても何の意味も無いぞ」


「だろうな」


フェニックスはノエルに話し始めた。

その隙を狙い、目を閉じ集中する。


「人間よ、力は欲しいと思わぬか?

使いこなすのに時間はかかるが……お主ならできるはずだ」


「ち、力?……私はそんな」


「お主、あやつの足でまといになりたくないんだろ?」


「そ、それは……」


「ノエル、無視しろ。そんなやつの言葉、聞く価値も無い」


「アオト……」


これは早くどうかしなければいけない状況になった。

最初からこうすればよかったものを、余計なことが浮かんだせいで。


──周りの音がだんだん聞こえなくなり、無音になる。

そのタイミングで炎を斬った。ノエルとフェニックスを斬ることなく、属性の力を活かすことで炎を消した。

刹那、ノエルの元まで走る。


「一足遅かったようだな」


「ノエル……まさか!」



俺がノエルの前に来たのは、オレンジ色の光がノエルの胸の中へ消えた後だった。


「……ごめん、怒ってる……よね。

でも、あなたの力になりたくて……だから」


「だから契約したってことなのか。幻獣と」


「う、うん……」


俺の頭の中にはたくさんの疑問が浮かんでいた。


「……なぁ、最初出会った時縄を解いたよな?あれ、どうやったんだ?」


「アオトが意地悪なこと言って、それに怒ってたからあまり覚えてないけど……ここだって所に力を入れたら解けた……けど?」


「あんなの普通の奴が解ける訳がねぇ。

……なら、境界で俺の手首を掴んだのは?」


「だから、あれはなんとなくで勘だよ勘。

……どう、したの?なんかさっきから様子が変だよ」


ノエルは一歩後ずさる。

俺はそれを追うように一歩踏み出した。


「勘であんなことできるかよ。普通の人間なら間違いなく気づかねぇし、掴むことすらできねぇはずだ。気配を完全に消してたんだからな。

フェニックスの攻撃を察知し、避けることができたのはどう説明するんだよ」


「私、ボール当て得意って言ったでしょ?それと同じ要領でやれば、簡単に避けられるってだけだよ……」


後ずさるノエル。


「小屋に侵入してきた時や、フェニックスに向かって走った時気配を消してたのもか?」


一歩進む。


小屋に侵入されて気づかなかったのは俺が油断していた訳ではなく、ノエルが気配を消していたから。


「そう、だよ。鬼ごっこや隠れんぼ得意だって言ったじゃない。

私足速いし、走ってる時気配を消して近づけばより捕まえやすいでしょ?隠れんぼも、気配を消せば誰にも見つからない」


「お前得意なことないって言ってたよな。矛盾してるんじゃねぇの?」


「これは得意っていえば、そうなるから一応そう言ってるだけで……こんなの誰でもできる………でしょ」


「いいやできない。

なら周りに同じようなことができる奴、1人でもいたか?」


「い、いない……けど、これぐらい………」


ゆっくりと後ずさっていく。


「こんなの得意なものに入らないよ。だって、私にとっては小さい頃からできて当然だったから。

なんとなく、で出来てしまってたの」


「じゃあ、お前の言う得意なことってなんだ?」


ノエルを追い詰めるようにゆっくり進んでいく。


「……元から出来たものなんかじゃなくて、努力して手に入るもの。だよ」


とうとう壁にぶつかり、ノエルはこれ以上下がることはできない。


「ね、ねぇ……ちょっと怖いよ?どうしちゃったの、アオ……ト?」


「その上幻獣に認められて………」


ただの人間じゃなかったのかよ。

素人のくせに、動きや勘の鋭さが他の人間より確実に上だ。

幻獣に認められるのだって、よっぽどの精神や力を持ったものしか選ばれないはずなのに。


俺はノエルの両肩を掴んだ。


「なぁ……お前、なんなんだよ本当に」

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