休養 - 2
「どうしてこんなことになったのかしら……」
目の前の惨状に、アリアは頭を抱えていた。
ボロボロに破壊された遊具の数々、奇声をあげて走り回る人々──いや、走り回るというより、もはや暴走か。
テンションが上がりに上がりまくって、もはや理性を損失していた。
その中心にいたのが、甲高い笑い声を上げて白い大きな犬にまたがる銀髪碧眼──いや、今は銀髪灼眼か──の小柄な少女だった。
「いぇーい!みんなー、騒いでるかーいッ!」
「「ヒーハーッ!!」」
少女──アリスが呼び掛ければ、乗り気な返事を返して更に盛り上がる。
もはや理性を残しているのは、遊びに来ていた一部の中級以上の冒険者くらいだ。
「それじゃあカニス!
あのでっかいプールで大波を起こすぞぉ!
らせ◯がーーーぁん!!」
「わふわふぅーーーん!!!」
言って、アリスが何か物凄い濃度の魔力の玉を投げ込んだ。
込められているのは力属性単一。
その魔力が球状に集約され、さらに内部で乱流を作っている。
パワーバーストと呼ばれる魔法だった。
「まったく、エレガントじゃ無いわね……」
止める術が全く見当たらず、ただ巨大な波が大量の人間を巻き込んで壁に遊具にとぶち当たっていくのをみながら、頭痛のためにため息をついた。
──どうしてこうなったのか。
わからないわけではなかった。
もしかすると止めることもできたかもしれない未来だったが──と悩むのも後の祭り。
周囲の魔力が、彼女の呪いによって吸い尽くされずに済み、かつ彼らが魔力切れを起こして次々に気を失わない状態になっているのが、まだ救いではあったが。
「ドクターまで巻き込まれてなきゃいいけれど」
呟いて、症状が治るまで魔力嵐の届かない距離から、その惨状を眺めるのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
──数時間前/グランドストーン北部某所/グランバルド・プールリゾート
「よぉし、何から遊ぼっか!
ウォータースライダー!?流れるプール!?それともビーチバレー!?」
マリアに遊ぶ許可をもらったところで、フラッペンとアリアに声を掛ける。
このプールリゾートは、もともと冒険者たちの水中戦闘訓練施設だったものを、ギルドへの貸主であったグランバルド家が一部改修してレジャー施設に再開発されたものらしい。
そのため、関連施設の一部を遊具として作り直された施設がいくつもあった。
ちなみに広さもそれなりにあって、アリスたち一行の他にも、沢山の来場者が水着姿で楽しんでいた。
「そうね、フラッペンはどこか行きたい場所とかあるのかしら?」
アリスの提案に、柔らかい笑みを浮かべながら案を伺う。
「そうだね。
いきなり水の中に入っちゃうと怪我するかもだし、まずは軽く運動したいかなぁ」
「軽く運動、か」
聞いて、ムムム、と顎先に指を当てて目を瞑り、思考を巡らせる。
あまり激しい運動ができない上、暗黒形式の魔法が使えないアリスにとって、その提案は悩むところがあった。
とはいえ、プールに来たからには運動しないわけにもいかず、尚且つ最初に自分から『ビーチバレーがしたい』ということを匂わすような発言をしてしまった。
(失言だった、と今になって思うが、後の祭り。
自分も楽しく参加するためには、はてさてどうすればいいか……)
「わふ」
そう悩んでいると、リードを伝ってカニスからとある提案がなされた。
たしかに、それなら自分の体力を使うこともないし、自分も楽しめる。
ちょっと絶叫系アトラクションのような怖さはあるが、多分大丈夫だろう。
そう考えたアリスは、『軽く運動したい』と口にして、彼女があまり激しい運動をしてはいけないことを思い出して失言に気が付き、訂正を口にしようとしたのを遮った。
「よし、やろっか!ビーチバレー!」
そういうわけで、そそくさとビーチバレーが楽しめるゾーンへと移動する。
そもそもの話、この世界にビーチバレーなんてあるのか?と疑問に思うだろうが、その心配はない。
なぜならその広場は更衣室から出た先に貼られていた園内マップにきっちりと示されていたからだ。
合成樹脂による人工の砂浜。
そこに隔たれた一張りのネットと、同じく合成樹脂製の軽いボール。
材質はスライムが多めに使われているようで、かなり弾力性があった。
ちなみに。
スライムの体液は様々な用途で加工されて利用されるため、この世界にはスライム農家という職業がある。
なので、アリスが作る人工脂肪などに利用するこういったスライムの体液は、かなり安価で手に入るようになっているのだ。
閑話休題。
「本当に大丈夫なの?」
カニスがボールを魔法で浮かせてくれるのを受け取りながら、マリアが心配してくる声に応対する。
「大丈夫だよ、お母さん。
私は今日、腕しか動かさないから」
長いリードを腰に巻き付けながら、笑顔で答えてみせる。
そう。
運動で一番エネルギーを使うのは、たぶん移動だ。
サッカーでもバスケでも、移動することが一番体力を使い、蹴ったりシュートをしたりということにはあまりエネルギーを使わない。
だったら、腕だけでボールを打ったりして移動は全部カニスに任せてみればどうだろう。
きっとそれほど体力を使わないに違いないし、心拍数が上がって封印が解ける可能性も小さくなるのではないだろうか。
そんなカニスの妙案をドヤ顔で伝えると『そこまで言うなら』と了承してくれた。
というのも、親として、子供が友人と遊べないというのは非常に悲しいことだったからだ。
できれば友人たちと楽しい思い出をいっぱい作って欲しいと願って。
「でも、あまり無理しないでね?」
「わかってるわかってる♪」
彼女の心配をよそにして、早速チーム分けにとりかか──ろうとして、どこかで聞いたような声が鼓膜に届いた。
「ぬっ!?
こんなところにまで魔物の手が!?
今助けに行くぞぉーッ!うおーッ!」
声のした方へと振り向けば、そこには金色に輝く海水パンツが目立つ少年が、空から拳を握りしめて突撃してきていた。
「わふぅん!?(ど、ドッグキラー!?)」
カニスの叫びに、反射的にリフレクションの魔法を組み上げかける。
しかし、それより早く彼の暴走を止める人影があった。
「だから落ち着けっつってんだろバカ勇者ァ!!」
「ごっふぅ!?」
彼の正面に空中で回り込んで、その首にラリアットを咬ます、黒のブーメランを履いた緑色のセミロングを後ろで束ねた髪型の青年だった。
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