正統派イレギュラー逆ラッキースケベなリーシャちゃん
「失礼、うちの馬鹿がご迷惑を──って、トルソンさんじゃないですか、奇遇ですね!」
黒いブーメランを履いた青年が、爽やかな笑顔を向けながらこちらに歩み寄ってきていた。
その風貌は、いつかどこかで見た事があるというものではなく、正直に言うと全然見覚えがない青年だった。
──と言うのも、俺の目が、その黒いブーメランの尖っていなくてはならないそこが、股間のブツのせいで巨大に膨れ上がって揺れていて、それ以外の場所に目を向ける余裕が無かったせいでもあったのだが。
「でっ……!?」
「で?」
いや、アレは流石に凶器だろ……。
前世の自分は、日本人にしては多少大きい方だった──と思っていただけに、それを遥かに超える──しかも素の状態で──物を見せつけられ、どこか負けた気がするのだ。
アリアちゃんがフラッペンさんの胸を羨む感覚、なんかわかった気がする……。
そんな様子の彼女を見て、俺が怯えているのではと勘違いしたのだろう。
フラッペンとアリアが前に出て対応しようと足を踏み出すよりも早く、一人の男が間に入った。
「やぁ、御仁。
彼女とは知り合いなのかな?」
顔の輪郭を整えた髭で囲う、筋骨隆々の金髪のおじさん──ウィルバート・フォン・グランバルドだった。
「えぇ。
以前ウチのバカ勇者が彼女に迷惑をかけてしまいまして、その際に。
今回もこんな形ではありますが、再開できて心より嬉しく思います」
対して、優しい面構えで飄々と応対する。
ウィルさんがそんな凶器を遮るように、その隆々と逞しい背筋で壁を作ってくれたので、なんとか心を落ち着かせる事ができた。
「勇者……?」
青年のセリフに、不思議そうな顔を浮かべて床で泡を拭いている金髪少年に目を向ける。
頭も水着も真っ金々な少年だ。
そちらの方は、なんだか見覚えがあるような気がしたが、はて、勇者……勇者……。
まぁいいや、思い出せない物を考えても仕方ない。
……それにしても、あのブーメランは犯罪だわ。
目に毒だわ。
むしろこういうウィルさんみたいな綺麗な背筋の方が落ち着くわ……。
思考を放棄して、ウィルさんの背筋を見て癒されることにしよう。
行動も顔もイケメン、体つきまでこんなに包容力があるとは……。
(俺ちょっとメス堕ちしそう)
そんなことを考えていると、遠くの方から『すみませーん!』と声をかけてくる少女がいた。
長い茶髪を編み込んで、後頭部でシニョンにしている女性だ。
白いビキニの上に見覚えのある紺色のローブを羽織っていて、とても扇情的であ──あ、こけた。
「きゃぶへっ」
「ぐはぶっ!?」
ちょうどつまづいたのが、バカ勇者と揶揄された少年の手前だったのが悪かったのだろう。
ラリアットで泡を吹く彼の鳩尾の方へと、思いっきり彼女の肘が振り下ろされたのだ。
(ゆ、勇者ぁ────ッ!?!?!?)
ラリアット受けて泡吹いている上からさらに鳩尾に肘鉄ってこいつ不運すぎるだろ!?
でもそのおかげで彼女の豊満なパイ乙が勇者の顔面に!
ラッキースケベだーっ!?
すげぇ、ラッキースケベってリアルで起こるんだ!?
初めて見た!
ちょっとした感激に、思わずガッツポーズをとる。
……誰も見てなくて良かった。
「何やってんだか……。
すみません、ちょっと失礼します」
やれやれ、とでもいう風に、後から来た彼女の方へとその凶器を揺らしながら近づいていく。
「大丈夫か、リーシャ?」
少し前屈みになって、リーシャと呼ばれた少女の方へと手を差し伸べる。
しかし、彼女は目の前に現れたその凶器に一瞬フリーズしてしまった。
「?」
いつまでも差し出した手を握り返さないので、怪訝な表情を浮かべて催促する青年。
ようやくその差し出された手に気がついたのか、慌ててそれを握り返そうとするが──。
「……あっ、は、はい!
とってもおっきいです!」
ガン見していたのがバレないようになのか、目を逸らしつつ手を伸ばした結果、がっしりと彼の凶器を握って、かつ慌てすぎたせいか、心の中で思っていた事が誤って口をついて出てしまった。
「あれ、なんだか柔らか……ん?あれ、おっきくなってきて……って、ひょわあああ!?」
握っていたものがナニかを理解し、一瞬強く握り込みつつ半分フリーズする。
対して青年はといえば、困ったような、戸惑うような笑顔で
「……リーシャ、褒めてくれるのは嬉しいけど、そういうことはまた夜にしてくれ」
「し、しししししししませんよ!?ま、間違えただけですからぁ!?」
慌てて間違えて掴んでいたモノを離して立ち上がる。
……この感じ、思い出したかも知れない。
そうだ、この三人。
スヴィンを駅まで見送りに行った帰りに遭遇した、あの頭のおかしな勇者パーティだ。
この女の子のドジっ娘な雰囲気で思い出した。
そうだそうだ、あのもどかしいインスタント・ヒールの娘だ。
……にしてもこの二人、そういう関係だったんだなぁ。
(勇者がちょっと可哀想)
あるいは逆ハーレムで、二本とも彼女の──なんて。
……無いか。
青年の方の凶器を思い出して、その考えを否定する。
あるいは、入らないから勇者の方だけ、なんてことも考えられたけど……これ以上はちょっと、精神衛生上悪いな。
俺の前世のDTの魂が、この陽キャどもを嬲り殺せと息巻いている。
こんなのを見るくらいなら、ウィルさんの背筋を見て癒されていた方が何倍もマシだ。
それにしても神様はわかってるなぁ。
正統派とはちょっと違うラッキースケベ、からの逆ラッキースケベのこのコンボ。
ごちそうさまです!
閑話休題。
「それで、勇者パーティなんかがどうしてこんなところに?」
後ろで改めて勇者ドッグキラーことアレン君をリーシャが治療しているのを傍目に、ウィルさんの背中に隠れながら青年(こいつなんて名前だっけ?)に口を開いた。
「実は、この街に魔王軍の残党が隠れているという情報が入ってきましてね。
以前もそんな情報があったものですから色々捜索していたのですが、今回それが確信に変わりまして」
あー。
たぶん、ツェペシの事だろうな。
あれが本当に魔王軍の幹部なら。
魔王軍の残党、という彼の言葉からも分かる通り、魔王軍はすでに勇者によって討伐されている。
中世暗黒時代、なんて呼ばれ方をしている時期──ざっと100年くらい前を中心に魔王が現れて以来、人類はつい最近まで魔王軍との死闘を繰り広げていたらしい。
といっても、俺がこの体に転生する前に終息した過去の戦争なのだが。
それで今は、各国総力を上げて、その残党狩りとやらをしているところなのだそうだ。
「トルソンさんは、どうしてこちらへ?」
「きゅ、休養です」
どこからどう答えらばいいのか迷って一瞬口を噤むが、とりあえず結論から答えることにした。
「確かに、最近暑いですしね。
脱いでも脱いでも──」
いやお前のそれは脱ぎすぎだろ。
なんて突っ込めるはずもなく、愛想笑いで済ませる。
あー、早くどっか行ってくれないかなぁ。
正直こいつと話しているのはストレスでしかない。
なんかよくわからんが、疲れる。
(ここは、ちょっと強引にでも離れるか……)
ビーチバレーもしたかったけど、あまり無理はできないし。
「あの──」
そう思ったのも束の間だった。
どうやってそう解釈したのやら、どうやら俺が、彼らを遊びに誘いあぐねていると見たらしいウィルさんは、俺の言葉に被せるようにして、彼にこんな提案を持ちかけた。
「あー、せっかく知り合いにあったんだ。
せっかくなら、これから君たちも一緒にビーチバレーに参加しないか?」
「うぇっ!?」
驚きのあまり、そんな声が口から漏れ出た。
ちょっ、ちょっとウィルさんんんんんんんんんん!?!?!?
見上げれば、そこにはウィンクする爽やかな(?)イケオジの姿があるだけで、どうやら俺の心労には雀の涙ほども気が付いていないらしい。
……いや、まぁいいけどさ。
心の疲れは体を動かせば回復するってゲームじゃ常識だし?ウィルさんはスポンサーだからこういうの断りづらいし?そもそも俺コミュ障だからこういうの断れないし?
「……」
対して青年の方を見てみれば『え、良いんですか!?でしたら是非!』とめちゃくちゃ乗り気に見える。
……うーん、これは元日本人として断りづらい空気。
……仕方ない。
やるっきゃないか────────────☆(諦観
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