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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー開幕記
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Erisー戦略会議

妖魔領北東の小さな村にて、エリスを中心とした作戦会議が行われていた。

「敵についての情報は、以前お聞きしたとおりで間違いないですか?」

エリスが卓上の地図を眺めながらテェレアの座る方へ声をかける。

「それは間違いない、盗賊による被害は増加する一方だが、新たな伝説を使用したという報告は受けていない」

そう答えたのはエクスデト、彼はテェレアを支える参謀として一団の状況、情報を一手に担っている。とはいえ、見聞を利用した魔術道具を使用しているため、そこまで難しい事ではない。

「敵が使うのは・・・、見えない矢、水の炎、黒い刃。以上で間違いないですね?」

「そうだ、どれも見聞きした物で正確さには欠けるが、使う側も理解はしていないだろう」

伝説を理解する事は、現在の魔国では難しい。ただ一人、その全てを理解しているのはキュウだけであろう。

しかし現在、エリスの側にキュウはいない。居たところで教えてくれるとは限らないが、それでも、一抹の不安を抱いてしまうのは仕方ない事だろう。

だからと言って立ち止まるわけにはいかない、この状況を望んだのは他でもない自分自身の意志なのだから。

「伝説と地形を踏まえた上で、今回の戦略についてお話します」

エリスの声に反応し、トゼルが卓上に地図を広げた。正確さには欠けるが、大まかな立地を把握するには十分な物だ。

「まず敵の所在ですが、鋼魔領の険道けんどうから少し逸れた岩山を根城にしている、と言う事です」

赤くバツ印が付けられた場所をエリスの指が指し示す。

鋼魔唯一の街へ続く道、馬車が一台しか通れないような険しく細い道が長く続く場所で、険道と呼ばれている。

「私とトゼル、それとテレアさん達三人、この五人で敵に奇襲をかけます」

「五人?たったそれだけか?」

人数の少なさに驚いたエクスデトが思わず聞き返す。いくら強い力を持つテェレアとエリスが居るからと言って、敵の精確な人数が分からない場所に少数で突っ込むなど無謀でしかない。

「いいから黙って聞きなさいよね、せっかちな男はモテないわよ?」

「なっ!・・・、ふん・・・」

トゼルが茶化しにかかるが、エクスデトは怒りを堪えて静かに腕を組んで押し黙った。今は戦略を聞くのが優先だと自身でも理解したのだろう。エリスもそれを理解し、話しを元に戻す。

「あまり大きな攻撃では伝説ごと破壊してしまう可能性があるので、険道まで誘導し、そこで挟撃します」

エリスの指が地図をなぞり、バツ印から丸い印が付いた所へ動く。

「待機部隊には予め魔術式を設置してもらい、足止めをしてもらいます」

ありふれた攻撃術式の一つ、水の流れを作り出す簡単な魔法、殺傷力が弱く、魔族との戦闘ではあまり効果が無いと言われている魔法だが、足止めとしては優秀な効果を期待できる。

言葉を切って視線を周囲に移すと、その場に居た全員が感心したように頷いていた。

「配置と順番を考えるだけで、簡単な魔法でも存分に効力を発揮できる訳か、使い方一つでこれほど見方が変わるとは」

「こりゃ、素直に感心だ。魔法で罠なんて考えもしなかった」

「やっぱり、エリスちゃんに頼んで良かったよ」

素直に感心するテレア達、その後ろで話しを聞いていた人魔達も、確立された勝利に安堵し、喜んでいるようだ。

キュウの助言を受けて考えた今度の作戦はエリスもかなりの自信があった。敵の魔族は全員が爬魔族で魔法への耐性が低い、魔法主体の人魔であれば完全勝利できる。


会議を終え、鋼魔領へと入った一行は、次第に険しくなる道に牛歩を余儀なくされていた。

「ここからは馬車での移動だと逆に危険かもしれないね、徒歩での移動になるけど、大丈夫かい?」

「ええ、問題ないです」

既に予定よりも一日以上の遅れが出ている為、テェレアの判断により徒歩での移動に切り替える事となった。

目的地に到着するのはさらに遅くなるとの事だ。

「それよりも、盗賊はどうしてこんな所を狙うのでしょうか?」

エリスは不思議に思っていた、伝説の力を手に入れたならば、もっと大きな道で多くの盗みを働くのではないかと。

「それはこの先に鋼魔領唯一の街があるからだよ、街と言って良いのか分からないけどね」

「センテツの穴蔵街か、あそこに続く道は少ない、商人への被害も相当なものだろう」

「鋼魔の連中も、あーんなとこに住んでないで、もっと麓に住めばいいなのにな」

「しょうがないよ、彼等は気難しいからね」

テェレア達が鋼魔について他愛ない話しをするが、実のところ彼等は鋼魔の事をよく知らないのだ。

鋼魔領と人魔領は隣接する領地だが、その間には高く険しい氷剣連峰ひょうけんれんぽうが存在し、簡単に行き来できないのだ。その為、人魔と鋼魔は五種族の中で最も縁遠いとされている。

「鋼魔、そう言えば見た事無いかもしれません」

「彼等は住処からは出ないんだけど、質のいい武器なんかは彼等にしか作れないからね、武器商人なんかはこういった道を進むしかないんだ」

そう言った商人を狙い、武器や金品を巻き上げ、別の盗賊に流す。それを繰り返しているのがここに居る盗賊なのだと言う。

「彼等を倒さなければ魔国の賊は強化されていく一方で、他領地には武器が届かない悪循環が生まれてしまう、それを食い止める為にも、早急に賊を討たなければいけないんだ」

テレアの目は平和を脅かす盗賊を睨みつけるように道の先を見据えた。彼が本心からこの国を想っている事が見て取れる。

「この地形で所在地を掴むのに苦労したんだ、仲間も数人やられたしな。借りは返すっきゃないな」

ダブルブがテェレアの肩を叩き、陽気に、力強く呼応する。

「この度の戦いも気を抜くなよ」

そんな二人を土台から支えるエクスデトが上手く手綱を取り、三人が先頭を進んでいく。

その時、エリスは確信した。彼等には自分とは違い、確固たる目的がある。

自分と歳の変わらない少年は、何か大切な目的の為に剣を取り、魔法を使い、世界を旅している。だったらわたしは・・・。

「私は、国を変える為に・・・。でも・・・」

目的が漠然とし過ぎて見えない手段、今はただそれを見つける為に旅を続けているが、本当にそれでいいのか、先を行くテェレアを見ると、少し自分の進む道に疑問を持っていしまう。

その時、左肩に重みを感じた。いつもはキュウの居る筈のその場所に、今はトゼルの手が置かれていた。

「お姉様はもう少しゆっくり歩いてもいいのよ、急ぎすぎたらこけるわよ?」

「・・・ほんとに、感が良いんですね」

エリスの不安を読み取ったトゼルが微笑みかける。テェレアに二人の仲間がいるように、私にも二人の家族がいる。

「お姉様の考えは分からないけど、気持ちは分かるのよ?だって、」

「家族ですから」「家族なのよ」

二人で重なった言葉に笑い合い、自分のペースで歩いて行く。

きっとヌエも同じ気持ちで別の道を進んでいるのだろう、そう思いながら。


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