断じて行えば鬼神も之を避く
白色盗の討伐で多大な貢献をしたエリスは、魔術のように戦を行う者、白き戦術者として討伐隊の人々に受け入れられつつあった。
結果だけ見れば大成功だ。
「エリス、今回の戦いはよくやった。これでお前の評価は魔国中に知れ渡り、ヴァイスとしての生まれを払拭する程の名声を手に入れた訳だ」
野営地に設けられた焚火の明かりの中で、キュウとエリスが向かい合って話をしている。
キュウが切り出した言葉を聞いて、エリスの顔が綻ぶ。今回の戦いでは、自分でも驚くほど上手くいった自信がある。もしかすると、キュウの想像を超える戦果を出せたのではとワクワクしているのだ。
「じゃぁ、今回は100点ですよね!」
「そうだな、結果だけ見れば100点だ」
エリスの顔がパッと明るくなり、キュウの言葉を掴むように拳を握ろうとして、止まる。
「・・・結果だけ、とは?」
掴みかけたその二文字が引っかかり、エリスに疑問を与えた。結果より以前にある問題、それがあるとすれば過程だ。
「そもそも、今回の戦いはどう転んでも勝っていた。たとえお前達が居なくてもな」
「そんな・・・、では私の考えた戦略はなんの意味が・・・」
明るい笑顔から一転、項垂れ肩を落とす。自分がやった事に意味がなかったと言われ、必死に考えた努力はなんだったのかと自信を無くしそうになる。
「意味はあった。こちらの戦死者が無かったというのは戦略があったからだ、闇雲に戦っても無意味な死体が増えただけだからな」
キュウ自身、被害がゼロに抑えられたというのは驚く事でもあった。運の要素がかなり大きかったというのは確かだが、それでもエリスが考えた戦略が命を守ったのは言うまでも無い。
いまいち納得できないという顔のエリスに、模範解答を教えるべく、二人の反省会が始まった。
「それでは、順を追って説明してやろう」
「お願いします!」
落ち込んでいたエリスの顔がキュウを真直ぐ見つめ、真剣な表情へと変わる。ころころと変わるエリスの表情を見ながら、自分との会話以外でももっと表情豊かに話せるようになれば、とも思うのだった。
「まず始めに今回の戦いだが、全体を通して言える事は有力者に頼り過ぎている」
「有力者ですか?」
有力者、読んで字の如く力の有る者。戦いの中で終始活躍していたのは、エリス、トゼル、テェレアだ。
戦略の要であった魔術という点を踏まえれば仕方のない事だが、それでは隊を組んで進行する意味がない無駄だ。
「戦いを見て確信したが、お前の力は群を抜いて強力だ。後の事を考えなければお前だけで白色盗を壊滅させる事も出来ただろう」
「それは言いすぎです、結構辛い戦いでしたよ?」
自分の魔力量を考慮して今回の作戦を実行するには不十分だとエリスは考えたが、キュウの考えは根本から少し違った。
「それは戦いを前提にしているからだ。敵を油断させて一気に叩く奇襲作戦であれば簡単だろう」
「奇襲・・・ですか」
「例えば、白色盗にお前一人で近寄って咆哮魔法で一気に押し切ればいいだろう。今回の敵の数だと手加減は難しいだろうから、敵の多くは固有魔力を散らして死に至るがな」
この作戦はエリスがヴァイスであるから成功率も高く、危険も少ないだろうが、今回に限っては不採用だ。
今作戦の最重要事項は白色盗の討伐ではなく、エリスの力を魔国に知らしめるという目的にある。討伐は目的ではなく手段でしかない。
「でも、それはあまり使いたくないですね」
エリス自身、魔族の死に少し心的外傷を抱えている。自分が殺したヴァイスの男、その時感じた意志の奔流が頭をよぎるのだ。
戦の中で攻撃的な魔法を唯一使わなかったエリスから見てとれるように、戦い方にもその影響が少なからず出ている。
だからキュウは念の為に釘を刺しておく。
「使いたくない、という感情だけで否定するな。可能性を否定した判断が何百何千という命を無駄にするんだ」
「それは、そうですけど」
「生きている物は全て犠牲の上に成り立っている。百の為に一を切る事も、己が生きる為に魔物を狩る事も、同じ頂くという事だ」
暗い表情でキュウの言葉を聞くエリス。頭で理解していても、心はそれを拒絶する。才能はあってもまだ18の子供、多くの命を背負うにはまだ成長が必要だろう。
「それと、今回の戦いはあの小僧、テレアとか言ったか。奴の存在も大きい」
「・・・彼が、ですか?」
「この目で見た訳ではないが、奴はお前と同じか、それ以上の素質を持っている」
テレアの一団に属していた者達の会話から推測したものだが、当たらずも遠からずの評価だろうと思っていた。
炎の波を生みだす魔法で幻影を一掃し、それを連発しても疲労の見えない余裕。もちろん伝説を使った形跡は無い。魔術の才能ならエリスよりも上、と考えるのが妥当だろう。
「彼ってそんなに凄いんですね」
「ただ、・・・いや。それよりも話を進めよう」
あれほどの力を持っているなら、キュウの想像を超える存在であっても不思議ではない。けれど、エリス、ヌエ、トゼルと出会った時のような心臓の高鳴りがない。
この話は心の内に潜め、エリスに向き直る。
「結果だけ見れば、今回の戦いでは、実力、戦力差、共に圧倒的だった訳だ。伝説があろうとなかろうとな」
「では、戦略は元々必要なかったんですか?」
少し混乱し始めた頭を整理しようと首をひねるエリス。言葉を重ねるたびに少しづつ見えなくなっていく会話の答えを必死に考えている。
「それは違う。お前も言っただろう?戦略とは、戦争を簡略化する物だと」
「つまり、その点では戦略は成功したんですよね?」
ほんの少し考えた後、苦笑いしているような声で、
「そうだな、成功と言って良いだろう」
そう答える。
エリスの顔がまた少し明るくなり、自信を取り戻す。ここで否定してもエリスにさらなる混乱をもたらすだけだと思ったキュウは、率直に答えてやる。
エリスの考えた戦略は、正しい意味とは少し違う解釈だが、キュウの知る意味から見ても、戦略は十分に成功したと考えていた。
「以上の点を踏まえて、まずは点数を発表しよう」
「・・・はい!」
「今回は・・・、40点だ」
「前と一緒ですか・・・」
その点数が不服だったのか、不満そうな声で返事を返す。
成功が必ずしも100点では無いという意味では、今回の戦いはエリスにとって大きな意味を持つ事になるだろうと考えた結果の点数でもあった。
「不満か?」
「初めてにしては頑張ったと思いますし・・・」
頑張ったという意味では確かに評価はしている。
「いいかエリス、頑張ったというのは自分で決める事ではない。他者が認めて初めて頑張ったと言えるんだ」
優しく諭すように教えてやる。これはキュウにとっても大切な言葉であり、エリスにもよく覚えておいて欲しい言葉だ。
「自身で頑張ったと思ってしまうと、そこが最良、限界になってしまう。それじゃつまらないだろう?想像も同じだ、他者が認める想像の上を行く事こそが、本当の意味で想像する事だと、俺は思っている」
珍しく長い説明をするキュウの言葉を受け止め、自分の間違いを受け止める。限界を求めるのではなく、その先を想像する。
「私には、まだ見えそうにないです」
キュウは驚き、愉快そうな声で喋った。
「俺だって見えてないさ、限界が無ければ終わりがない。想像に終わりなんてないんだ」
「なんだか、大変な道を選んでしまった気がします」
「あぁ、大変だよ。けれど、これほど楽しい事は無い」
エリスは大きく頷きながら、
「はい、がんば・・・。やってみます」
そういって真剣なまなざしを向けた。
一通りの心構えを教えたキュウは、本題の戦略へと話を移した。
「まず、今回の戦略だが、お膳立ては整っていた」
「オゼンダテ?」
「準備の事だ。人員、物資、その他全てのな」
今回に限っては、その全てが討伐隊という名目の元に整えられていた。エリスが行ったのは正確には戦略ではなく知略や作戦。
戦略と言う大きな目的の為に行う戦術だ。
「そこは今後の課題として、策だが・・・」
「三角作戦ですね!これは自信があります!」
三角形を描くような布陣で3つの大隊を形成し、徐々に敵へ圧力をかけていく包囲戦。
敵の主戦力が三人なら、一人一人を別々に対処すれば、という発想からこの形に行き着いた。
その場に留まるのならば数で圧倒し、逃げるのであれば二方面から挟撃する。バラバラに逃げたところで、元々の数が違うのだから対処は簡単。
「知らずに包囲網を引いたのは素直に感心した。それは20点だ」
「えぇ、それだけですか・・・」
20点と聞いて落胆するエリス、かなりの自信があったのか、両手を地面について項垂れていた。
「後は、魔法による狼煙の発案。原始的な方法だが、実に分かり易い。10点だ」
「思いつきだったんですが、・・・って、10点も貰えるんですか!?」
魔国ではケンブンのような文字を送受信できる超広域魔術式が普及し始めている。ただし、利便性は薄く、周囲全てに情報を発信してしまう不便さもある。
もしも敵がケンブンをもっていたとすれば全ての情報が筒抜けになってしまう。
そこに気付き、代わりとなる原始的な方法を思いついたのは認めるべきエリスの想像力だ。
「最後の10点は、・・・運だ」
「う、運?ですか?」
「運も実力の内、と言うからな、それも考慮して、合計40点だ」
この運の要素には、前にも述べた強者が揃っていた事、討伐隊に死者がでなかった事などがある。 この運無くして今回の大成功は無かったと思えば、加点するのが妥当だと判断したのだ。
「以上が内容の全てだな、異論は・・・ありそうだな」
口には出さないが、じっとりとした目からは不満の二文字が読み取れる。
やれやれ、と言うように尻尾をふり、キュウの考えを教えてやる事にした。
「今回の作戦で最も重要なのは、エリスの存在を認めさせることだと言ったな?」
「その為に策を使え、でしたよね?」
頷くように首を振り、エリスが忘れていない事を確認する。
「作戦の大きな間違いは一つ。討伐隊の雑兵を役者ではなく観客として見るべきだったな」
「やくしゃ?かんきゃく?」
この世界にも演劇は存在している。エリスも知っているが見た事は無い。
「魔法部隊による牽制で追い込みをかけ、罠による奇襲で勝敗を決する。簡単な作戦だ」
エリスのように、始めから包囲を敷くのではなく、始めから後退できる余裕を作っておき、そこへ誘導するように攻撃の手を狭めていく。
目的の場所まで誘導すれば、あとは落とし穴なり魔法式なりを発動させて生かさず殺さず、一網打尽にする。
「主に攻撃に参加するのは魔法の使える者と少数精鋭の兵、その他の兵は罠の周辺で敵を追い込む陽動とする」
陽動と言っても、防御に専念していれば被害を最小限に抑えられるだろう。わざわざ人の密集している場所へ突っ込む敵ならば一回目の作戦ですでに死んでいる筈だ。
「運の要素を減らして、確実に味方を守り、敵を仕留める事が出来る。敵が如何に強力な魔法を使おうとも、数の前には無意味だからな」
「なるほど、けど、それと観客というのは?」
「簡単な事だ、防御に専念しているという事は敵の動きをよく見ているという事だ。その敵が一切手を下さずに倒れたとしたらどうだ?」
エリスはキュウの言った状況を頭の中に描きながら考えていたが、
「・・・驚きます」
そんな月並みな答えしかできなかった。
「それでいい。呆気なさに驚くだろう、万の兵で勝てなかった敵を、触れずに倒すという驚きだ」
そこまで言うと、エリスも気付いたのか、嬉しそうな顔でキュウに詰め寄る。
「戦略の重要性と、それを実行した私を認めさせる事が出来る、ですね!」
その答えに満足したのか、エリスの目を見返し、ニヤリと笑った。
「その通りだ。呆気なさから驚きへ、その気持ちの浮き沈みがそのままお前の評価につながるんだ」
供に戦い勝利を得るという方法も間違いではないが、認めさせる、と言う事を前提にするならば、憧れや羨望を与える立ち位置として、役者と観客に振り分ける方法が良いと考えていたのだ。
その考えにエリスも納得し、自分の行いとキュウの考えを照らし合わせ、さらに先、想像を超える想像を目指して思考を巡らせる。
話し終わると、ヌエとトゼルの元へ戻る為に立ち上がり、キュウを肩に乗せる。
「まだまだ、追いつけそうにないです」
少し悔しそうにそう言ったが、その顔は期待に溢れる力強い笑顔だった。
「そう簡単にこちらへ来られても困るさ、というより、永遠に追いつかれる気は無いぞ?」
少し冗談っぽくそう言ったが、それが彼の本心である事は誰よりもエリスが知っていた。
説明パートの書き方模索してたら更新止まり過ぎて・・・。読んで頂いてる方には申し訳ない。
あまり説明だらけでもと色々省略したけれど、いまいちピンと来なくなってしまった気も・・・。
次の章はあまり気にせずに書いてみようかなぁ




