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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー開幕記
65/73

善悪は水波の如し

討伐隊との戦いに敗れた白色盗の面々は縄で縛られ、野営地へと連行された。

戦いから一段落ついたエリスは、白色盗の主要メンバーである三人と話をする為に収容所へと向かっていた。

「姉者、どうして彼等の元へ?」

白色盗の処遇については獣魔が判断を下す事になっている。彼等がこの後どうなるかは粗方見当は付いていた。

エリスがそんな彼等と話をするなど、錘となるのではないかと心配しているのだ。

「心配しなくても、少し話をするだけですから」

「お姉様なら大丈夫でしょ?お姉も、恐い顔が余計に恐くなってるわよ」

「・・・恐い、・・・顔」

トゼルの何気ない発言に複雑な顔をする、戦いにおいて無表情は有利な点となるが、日常では欠点ともなる難しい問題だ。

「そ、そんな真面目に落ち込まないでよ!ほら、こうやって口角を上げて」

ヌエの顔に手を当て、指先で口元を釣り上げる。

口元だけが異様に笑い、目は冷ややかなまま、不気味な面持ちになってしまう。

「・・・こわっ」

「トゼル貴様ぁ!」

今度はヌエの手が伸び、トゼルの口の形を歪めていく。ヌエの力で捏ね回され、痛みで涙目になるトゼルだったが、そんないつも通りの様子を見て、エリスも緊張が解けていく。

「やっぱり、少し不安だったかな」

ほっとした自分の気持ちに苦笑いしながら、後ろの二人を温かく感じていた。

「ほら、二人とも。そろそろ到着するから一旦落ち着いて」


目的の収容所へ着くと、そこには二名の先客が見えた。

「ファラさんと、ロクロクさん?どうしてここに?」

「おや、オジョウちゃん。珍ぁしい場所で会ったね」

二人の前には白色盗を率いていた白王が座らされていた。この二人も彼に聞きたい事があったと言う事だろう。

エリスに続いてトゼルとヌエが現れた瞬間、白王が勢いよく立ちあがり、それに驚いた監修が雷の魔法を足に放つ。

バランスを崩した彼の身体は前のめりに倒れ込み、エリスの足元へ顔を落とした。

「どうしたよ、自分と同じヴァイスに驚いたのか?」

「どうもそうじゃないらぁしいがね」

白王の瞳が捕えていたのはエリスではなく、隣に並び立つヌエの姿。

その瞬間、エリスの口から一人の名前が零れ落ちる。

「・・・カガシジ」

白王の目がヌエからエリスへと移り、そして目を伏せた。

「姉者、もしやこの方は・・・」

「やっぱりね、白の爬魔って聞いた時からもしかしてとは思ってたけどね」

「お前達白王の事を知っていたのか?」

ファラは三人の反応に驚いていた。


白王、カガシジは固く口を閉ざしたまま何も言わない。

エリスがヤトオウドから聞いた彼についてを簡単に説明すると、その場に居た二人は改めてカガシジに向き直る。

「なるほどね、おまえさんも。辛い道を歩んで来たようだね」

「どうりでつえぇ筈だ、あの爬魔不敗とタメ張れるってんなら納得だ」

その言葉にも動じず、彼はただ静かに不動を貫く。そんなカガシジに痺れを切らしたのはヌエだった。

「貴様、それでもヤマタの者か!」

「っ!?」

ヌエに首を掴まれ、驚いたように目を見開く。ヌエとカガシジとでは親と子ほどの歳の差があるが、それを一切感じさせないほどの気迫だ。

「ちょっと!ヌ・・・」

驚いたエリスが止めに入ろうとするが、トゼルに肩を掴まれ止められる。彼女は「心配ないわよ」、と言った顔で笑っていた。

エリスも気を取り直し、ヌエの言葉の先をただ静かに見つめていた。

「父上は、奴の技に敵う事は無かったと言った。それがこの体たらく、同じヤマタの者として許せん!顔を合わせた今なら分かる、未熟な拙者でも今の貴様には負ける気がしない!」

ヌエの怒号に負けたのか、カガシジの驚いた顔は少しづつ穏やかなものへと変わっていく。

「・・・同じだ」

初めて聞いた彼の声は、酷く穏やかなものだった。

「初めて奴と出会った時、同じ事を言われた。貴様には負ける気がしない、とな」

「父上が、ですかな?」

ヌエも手を放し、同じく穏やかな声で相槌を返す。

「あの時は俺をヴァイスと馬鹿にした村の連中を叩きのめした時だったな。怒りだけの拳に価値は無い、などと」

そう言って彼は初めて笑う。長年閉ざしてきた過去の記憶が溢れ、懐かしさと惨めさで無意識に笑ってしまっているのだろう。

「まさか、親子二代に同じ言葉で説教されるとは思わなかった」

笑った彼の瞳から、後悔と無念の涙が溢れ、暫く止まる事は無かった。


カガシジは心を落ち着かせると、後ろでその様子を見ていた白色盗の面々に向かい、頭を下げた。

「すまないお前達、結局俺は、お前達を守る事が出来なかった」

その姿に驚いた者達はざわつき、混乱していたが、その中の一人が立ち上がった。

「ふざけるな、ふざけるなよ!何が守るだよ、今回の戦いで何人死んだと思ってる!俺のダチも、死んだんだぞ!」

「そ、そうだ!俺は恐くて抜けたかったのに、お前が抜けたら殺すって言うから!仕方なかったんだ!」

怒りの波紋は一つまた一つと増え、次第に大きな波を作っていく。今まで彼がやって来た事を考えると仕方ないとは思ったが、手の平を返すような彼等の行動に憤りを超えて呆れさえ覚える。

「お前ら、自分では何もできなかったくせに文句だけは一人前だな?なぁおい?」

バチッっという炸裂音と共に響いたファラの威嚇交じりの声にその場が静寂に包まれる。立ち上がっていた者も、立ち上がろうとした者も、一様に後ずさり口を閉ざす。

「さすがにこの状況でこのままって訳にはいかないだろぉうね?ちょいとそこの監修さんよ、この男だけ別の場所で隔離してやんな」

「えっ、しかし」

「いいんだ、彼の言うとおりにしてやれ。今死なれちゃ困るからな」

「はっ!了解しました」

白色盗の管理は獣魔が行っている。カガシジは一人だけ別の場所へ移される事となり、一行は彼の出て行った後を追うように外へと向かった。


「ファラ殿、頼みがあるのですが」

「・・・ダメだ」

収容所から出ると、ヌエは神妙な顔で口を開いたが、ファラは内容も聞かずに拒絶した。

「まだ何も」

「奴を開放しろって言うんだろ?」

言葉を食い気味に喋るファラ、彼自身もしかするとカガシジを開放してやりたいと言う思いが少なからずあるのかもしれない。その思いが、苛立ちとなって口調に現れていた。

「無理なら、せめて父上に会わせるだけでも!」

「これから死ぬ者を会わせたいのか?だとしたら相当な嫌がらせだぞ」

「ぬぅ、そんな・・・つもりでは」

二人とも感情的になっていて話が進まない。そんな二人の様子を見て、エリスも本音が漏れそうになる。

「私も・・・」

だが、その言葉はキュウの手によって止められる。彼の小さな手がエリスの頬を押し、言葉を遮らせたのだ。

「この場でお前が本音を漏らすのはよくない、感情に対して感情をぶつけるのは、現状ではやってはならない事だ」

今までの戦いでエリスは自身の力を見せた、それは、ヴァイスの認識を一変させるほどの印象を持っていた。けれど今ここで感情をぶつけてしまうと、わずかでもエリスの評価が下がる事になりかねない。

獣魔との関係の第一歩として、ファラとは安定した距離を保たなければならないのだ。


そんな重い空気が流れる中、この状況を打開する男が居た。

「やれやれ、お前さん達はまだまだ青いね」

「ロクロク殿・・・?」

自身を変能だというこの男は、一方から見れば最もな常識人だ。自分を変だと知っていて変を装う。誰にでも真似できる事ではない。

「お前さんが白王を助けたいと思っているぅのはよく分かった。けどね、それぇだけじゃどうにもおさまらない事があるぅんだよ」

「治まらない事とは?」

彼はヌエの前に立つと、丁寧にゆっくりと話し始めた。

「今回の戦いで何人の犠牲者が出たか分かるぅかい?」

「正確には聞いていませんが、死傷者は無し。軽傷者が百数名ほどだと」

「そうだね、毎回戦いがそうだといいんだけどね。けれぇど、今回の戦いってのは白色盗との戦いの事だね」

丁寧ではあるが、少し回りくどい質問をするロクロクにヌエは首をかしげる。

「白色盗との戦いで死んだ獣魔は千人以上だね」

「戦う上で負傷や命を落とすのは当たり前の事では?」

そこでヌエはまたも頭をひねる。武術を学ぶ彼女にとって戦いとは命のやり取りであり、敵が魔族であろうと魔物であろうと関係ないのだ。

「そこはお前が間違ってるんだ。死んだ獣魔にも家族は居る、残された家族の全てがお前のように死を割り切れるわけないんだ」

「ぬ、しかしそれは自己責任では?」

自己責任と言って納得するなら話が早いが、その一言で全ての魔族が納得するのなら、そもそもこんな押し問答はしていない。

「戦いに参加した者の大半は募集で集まった者だ」

討伐隊に参加した者には報酬が出る。功績を上げた者にはさらに褒賞も追加される。命をかけるに値する対価でなければ人は従わない。

そもそも現在の魔国には軍という物は存在しない。種族間の争いは魔王グレイによって禁じられ、魔物の討伐や盗賊との戦いが起きた場合は、兵を募集して対応していた。もちろんそこで多大な功績を上げた者が、地位と名声を得る事も少なくなかった。

「何のために地位や名声を手に入れぇるかね?自分の為、家族の為、それぇは人それぞれだね」

多くの人が集まれば、それだけ多くの意志が動く。その全てを叶える事はできなくても、その全てを纏めなくてはいけない。

「白色盗との戦いで命を落とした者の家族になんと言うかね?自己責任で死んだと?それぇじゃ納得できないだろう」

ロクロクの目がエリスを捉える。ヌエもその意味が分かったのだろう、何も言えなくなり口を固く結ぶ。

もしもエリスが命を落としヌエが残された時、そんな事を言われ、はいそうですか。などと言える筈がない。ヌエの場合、怒り狂い敵討の為に魔国中を走り回るだろう。

「領地ってのは巨大な魔物と一緒だね、けれぇどその魔物無くして我々は生きる事はできない」

その言葉に、珍しくキュウが反応する。嬉しそうに目を細め、ロクロクの姿をじっと見つめた。

「だからぁ今回、その魔物には生贄をささげて大人しくなってもらうのが一番なのさ」

この場合の生贄とは白王であるカガシジ。彼一人の命を使って、獣魔領の平穏を保とうという考えなのだ。

ヌエは咄嗟に別の案を考えようとするが、思い浮かばない。そんな自分の歯がゆさに苛立つ。

「誰が悪い訳でもないさ、それでも、誰かを悪にしなけれぇばならない時もあるんだよ」



領地や人々の説明、みたいなものです。

色々書き方を模索してたら日数が・・・。


一先ず。白色盗の話はこれにて終了となります。

次にちょっとした小話の後、次の展開へ向かう予定です。


感想まってるぅよ。

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