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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー開幕記
60/73

所変われば品変わる

翌朝、決戦の時。

「今回わたしゃ、あんた達二人ぃの補助ってことだね」

「そうであるな、よろしく頼む」

「アタシが一番大変なんだから、しっかり援護よろしくね?」

ヌエ、トゼル、ロクロクの三人は南西の位置で開始の合図を待っていた。

魔法と武力の双方が無ければ成功しない今回の戦いでは、この布陣が妥当だとエリスが采配したのだ。

「ところで、トゼルと言ったかね?妖魔なのに魔法が使えるぅのかね?」

「そこは秘密ってことで、それに。今回は魔法って訳じゃないみたいだし」

「ほぅほぅ?それぇはどういう・・・」

ロクロクはその発言に興味を持ったのか、詳しく聞こうと目を光らせたが、遠くの空に黒い煙が昇った事を確認し、会話を中断した。

「むぅ、黒煙の合図が出たか。皆の者!直進の合図だ、進もうぞ!」

真直ぐと丘の方へ進む一団、前方に魔術が得意な者が山形に並び、その後ろに近接が得意な物が無造作に並んでいる。

トゼルが率いる魔法隊が前を進むと、空から無数の岩が落ちてくる。

「あら?お姉様の予想より遅かったわね、それじゃ・・・」

岩は次第にその大きさを増していく、このまま落下すれば隊の前方は壊滅的な損傷を受けるだろう。

「あんな魔法、止められるのかよ・・・?」

誰かがそんな苦言を漏らし、周囲が若干の不安に包まれ始める。

法冠を取り出し、魔力を籠めると、トゼルの前方に氷の槍が生み出され、上空へと飛翔した。

氷の槍が岩と当たった瞬間、双方が弾け飛び、魔力流となって世界へ溶けていく。

空から迫る岩が消えると同時に、その場は安堵に包まれた。

絶対に大丈夫だと言われていても、実際の光景を目にした時、多少怖気づいてしまった者も少なくなかったはずだ。

エリスを信じて止まらないトゼルが起こした行動によって、この魔法が看破できる物だと分かり、逆に勢い付く。

「氷の属性だったら何でもいいわよ、次からはみんなもやっちゃってね」

続いて迫り来る岩の数は先ほどよりも多い。

この数が一度目で来ていたなら、トゼルももう少し苦戦したかもしれない。

けれど今度は違う、魔術に長けた者達による、氷魔法の荒波。生み出される氷の造形達。魔物を模した物、武器を模した物、様々だ。

それが一様に空へと向かい、岩と激突し、消えていく。氷の進撃は止まらない。


「テレア、あの程度の相手ならお前の魔術で葬れるんじゃないのか?」

北の陣地でそう呟いたエクスデトに対し、テェレアは笑いながら、

「それじゃ、伝説まで一緒に壊しちゃうじゃないか、ここまで来た意味が無くなっちゃうよ」

そう言い返す。

「けどよ、伝説がその程度で壊れるのかね?そこんとこどうなのよ?」

「ダブ、テレアはこう見えて歴代最強の黒の象徴だ、破壊という可能性もあるのだろう」

「エク兄、俺にはテレアがあの子と話したいだけに見えたんだけど」

それっきり黙ってテェレアを見る二人だったが、視線を感じた彼は無理やり話題を変えた。

「そ、それより。軽いって何だったのかな、すっごい気になるんだよね」

話題を変えても結局はエリスの話になってしまっているのだが、その事に気付いて溜息をつく兄弟と、乾いた笑いを浮かべるテェレア。

これから戦いが始まるとは思えない雰囲気に、その様子を眺めていた討伐隊の参加者達は、この三人の力量を図りかねていた。

「おっ?黒い煙ってことは直進だったかな?しかし凄いね、煙で合図は分かりやすいし、遠くからでも見える信号になるのか」

「あの対応力には驚かされる。さぁ、我々も行くとしようか、進むぞ!」

彼等が進むと、対面から白いもやのような物が押し寄せてくる。

白い靄の正体は、無数の魔物の幻影。その全てが白く揺らめき、押し寄せてくる。

「こりゃすげぇ!話を聞いてなけりゃビビってるところだったぜ」

エクスデトが足元の石を拾い上げ、投げた。真直ぐに飛んでいく石は魔物の靄に呑まれると同時に見えなくなる。

「直接的な攻撃は効果が無いと言うのはこういう事か、当たらなければ倒す事はできないわけだな」

「そんじゃ、僕の出番かな?確か、炎か雷を使えばいいんだっけな?」

テェレアの右腕に浮かびあがる黒の刺青が形を変え、式を構築していく。

握り拳の指を一本ずつ伸ばしていくと同時に、式に宿る術式が輝きを増し、全ての指が開かれた時、彼の右腕が赤く燃え上がる。

「紅き竜の咆哮ブレス・オブ・バーニング

右腕から放たれた炎の波は白い魔物の幻影を飲み込み、更なる波となって世界を焼き尽くしていく。

炎の波の去った後には、文字通り何も無い空間だけが広がっている。

「テレア、やりすぎだぞ」

「もう、テレア一人でいいんじゃないかな?」

「あはは、次からはもう少し威力を抑えるよ」


「なぁ、ヴァイス。なぜ俺と一緒なんだ?」

「何故と言われても、戦力を考えてこうするのが妥当だと判断したのですが?」

東南の位置に陣取る一団は、エリスとファラが前方の丘に目を合わせ、双方が顔を見ないまま会話が続いていた。

「ところでお前は、どこの生まれだ?その耳と尾は砂漠の獣魔の特徴に似ているが、俺はお前を知らない」

「私は妖魔の両親に拾われたので、生まれは知りません。砂漠の獣魔と言うのは気になりますが、今は目の前に集中しなければ」

「拾われた・・・?今の話詳しく聞かせてくれ」

ファラの目が一瞬だけエリスの横顔を見たが、前方から駆け寄って来る討伐隊の男の姿を見て口を閉ざす。

「いいですけど?この戦いの後ですね」

その時のエリスは戦いに集中していてファラの感情まで汲み取る事はできなかった。

「前方に風が発生しました!やっぱり前と同じだ!」

「予想どおりですね、黒の樽に火をつけて下さい」

隊の一人が樽に火を付けると、中から液体が零れ出し、炎は一気に燃え上がり黒い煙を吐く。

中に入っているのは獣魔の持ってきた酒の樽で、中にはその光景を残念そうに見ている者も少なくない。

因みにこの事はトゼルには言っていない、お酒を燃やすなど、それだけで作戦に反対しかねないからだ。

「私達も進みましょう」

隊が進み始めると、前方から押し寄せる風が強くなり、進むのも困難になる。

「氷壁」

あらかじめ用意していた魔術式の一つを使い、前方に氷の壁を生みだす。

氷の壁に阻まれた風は魔法をかき消され、そよ風となって世界に流れていく。

後はエリスが進むに連れて壁を生みだしていけばいいだけだ。

歩みは遅いが、着実に進んでいく一行は、エリスの無尽蔵とも思える魔力に驚いていた。

キュウ直伝の魔術式によって効率化されているという事実を除いても、エリスの魔力は突出して多い。

同じ獣魔と比べれば数十倍以上、まさに天と地の差がある。

その光景を真近で見ていたファラが、道を進むに連れてエリスに対しての考えを改めるには十分な時間だった。

「これが蔑まれたヴァイスか?これが獣魔の力か?末恐ろしいのは知恵だけじゃないな」

白い彼女の後姿を見ながら独り言を呟くファラの考えに、ヴァイス差別などと言う物はすでに存在していなかった。


今回はそれぞれ拠点ごとの視点で書いてみました。


もともとの視点とは変わって完全に3人称になってる気がしますが。

個人の視点で戦略を描くって難しすぎたんですよ・・・。

文章力のレベルが足りなかった・・・。


感想御待ちしております。

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