犬も歩けば棒に当たる
「・・・以上が、私の考えた戦略の内容です」
説明を終えたエリスが周りを見渡すと、周囲の者は呆気にとられたように静かにエリスを見ていた。
やはり私ではダメなのだろうか、言葉も実力も足りない力では、誰も納得してはくれないのだろうか。
「オジョウちゃん、これぇを考えたのかい?」
「はい、とある・・・方の意見を参考にして、私が考えたのですが、やっぱり・・・」
ダメですよね。と続けようとした瞬間、周囲の何人かが笑い声を上げる。
「ルッフッ!こりゃとんでもねぇ奴が現れたもんだ!」
「ホゥホゥ!おもしろいね、この若さでこれとは末恐ろぉしいね」
「すげぇ、こんな戦い方ができれば負けないぞ」
「魔物との戦いでも使えるな、こりゃとんでもない!」
称賛を含んだ喝采。その渦の只中にエリスは立っていた。
何故彼等はこんなにもはしゃいでいるのだろう、一瞬の戸惑いの後。この状況を作り出したのは私だという自覚、湧き立つような愉悦。
だが、全員がそうであるという訳ではない、周りの状況が分からずぽかんとしている者も少なくは無い。
「そこの、後ろで呆けてる阿呆。お前さん達にも解り易くおしえてやろぉうじゃないか」
ロクロクに指を刺され、居心地が悪そうな顔をする者達、別段彼等が悪いわけではない。魔国において学ぶ事は少なく、事学問に関しては一生触れずに生きている者も少なくない。
根本的な知識不足であると言わざるを得ないが、一端ではそれも仕方のない事だ。
生者は生まれながらにして平等ではないのだから。
「いいかい、素手と素手で戦ったらどっちが勝つかね?」
「それは、強い方が勝つだろう」
先頭に立っていた獣魔の男が答えると、並みの答えに頷くロクロク、近くの爬魔が持っていた槍を借り受け、突き出す。
「素手と槍、戦ったらどっちが勝つかね?」
「武器を持っている方が勝つだろう」
「ホゥホゥ!よくできたね」
武器を元の持ち主に返しながら、馬鹿にしたように笑う。
その態度が気に入らないのか、槍を突き付けられた獣魔は苛立ちを隠しきれない様子だ。
「オジョウちゃんの戦略は槍だね、討伐隊は素手の相手に槍を持って戦おうっていうんだ、結果はわかるぅだろぉう?」
「・・・」
ここまで言われて分からない筈が無い、圧倒的な優位性を持って戦う以上、その結果は勝利以外ありえない。
戦略という新たな力を知った者達の熱気で溢れていたが、まだ一つ、戦略の要が欠けている。
「えっと、後一人、広範囲の魔術が得意な方が必要なのですが」
この戦略の要は三方向からの一斉攻撃。その為には強い魔法が必要不可欠になる。
南西はエリスとファラで、南東はトゼルとヌエで請け負うが、北にもう一つ欲しい。
最悪の場合二方面も考えていたが、最善を取るならば。
その場に集まった者達は先程の熱気が嘘のように視線をそらす。
元々爬魔と獣魔の多い討伐隊で魔術を扱える者が少ないのは知っていたが、一人ぐらいはと望みを持っていたのだが。
「その一つ。僕達で請け負うよ」
入口からかけられた声に、その場に居た全員が振り返る。
そこに立っていたのは三人の男。
短めの黒金の髪に黒い瞳を持つ、どこかのんびりした雰囲気を漂わせる青年。
右手に暗い紫の髪と髭が特徴的なひょろりとした男と、左手に濃い紫の短髪と無精髭が特徴的な筋肉質な男。
エリスはその中心に立っている青年に見覚えがあった。
「・・・あなたは、どこかで?」
「あぁ!やっぱり君だったんだね!声が聴こえたからもしかしてと思ったけれど、また会えて嬉しいよ」
永遠の盆地で出会った不思議な青年。テェレア・ティウ・ブラック。
「なんだ?テレア、このヴァイスと知り合いなのか?」
「エク兄、その言い方はテレアが嫌いだって言ってたっしょ」
人魔の三人が入って来ると、その場に居た同じ種族の人魔達が驚く。
「もしかして、お前達は黒紋塔に選ばれし者か?」
「人魔からはそう言われてるね、僕自身は気にした事無いけど」
「そうかい、お前さんが黒の象徴なんだね」
人魔の特殊な選定者を知らないエリス達に、ロクロクが教えてくれた。
人魔領では、領地を管理する領主の他に、結束をより強固とする為の目印のようなものとして、黒の象徴と呼ばれる者を選定する。
一端では領主よりも強い発言権すら持つ存在になる。
「それで、そんな凄い力を持った人が何故ここに居るのですか?」
「そうそう、この戦いに参加するのはいいんだけど、一つ条件があってね」
エリスの前に進み出たテェレアは人差し指を立ててウインクをする。
「・・・条件?」
「この戦いが終わったら、僕とデートしよう!」
「・・・えっえぇ!?」
突然そんな事を言い出すテェレアに飛んでくる拳。彼の右手に控えていたひょろりとした男の物だ。
「テレア、お前はもう少し自分の立場を弁えろとあれほど言い聞かせていただろう。象徴であるお前がヴァイスとで、でででデートなど!」
「エク兄、奥手だからってデートって単語でどもるのはどうなん・・・イダッ!」
筋肉質の男が苦笑いで頭を搔いておどけるが、テェレアと同じく拳を受けた。
「ええい、お前もだダブ。護衛役のお前がしっかりしないでどうするのだ!」
そんな喜劇が繰り広げられている中、驚きと焦りで顔を真っ赤にしたエリスは尻尾を縦に激しく揺らしていた。
三人がそれぞれ落ち着きを取り戻すと、ひょろりとした男が口を開いた。
「このバカが言った事は忘れろ、それと。名乗り遅れたが、俺はエクスデト・ハーデ・ネロ、そしてこっちが弟の」
「ダブルヴ・ゼウ・ネロっていいますんで、よろしくっす」
この二人は実の兄弟で、二人揃ってテェレアの護衛をしているらしい。
護衛というよりは、御付きや保護者というように見えるが、それも仕方ない事だろう。
二人の歳は27と29、テェレアがエリスと同じで18なのだから、ほぼ10歳の差がある。
「エクスは冗談が通じないなぁ・・・。まぁ、半分は本気だったけど」
「・・・テレア、また殴られたいのか?」
「わかったわかった!本題に入るよ!」
エクスデトが拳を握りしめ、恐い顔でテェレアに詰め寄ると、彼は慌てて態度を改める。
「で、本題なんだけど。白色盗の持つ伝説武器を貰い受けたいんだ。もちろんそれだけ、他にため込んでる金品とかはいらないから」
少しその場がざわつくが、誰も表立っての不満は無いようだ。
伝説はそれだけで強い力だが、そのほとんどが魔術道具であり、その力を最も利用できるのは人魔に他ならない。
彼らの手に渡った伝説のおかげで、様々な魔術道具がここ数年で発達したのは言うまでもない事実。
彼等の助力を跳ね除けてまで伝説を手に入れる必要は、今の世界には存在しないのだ。
そんな周囲の雰囲気を感じ取り、エリスはその条件を飲む事にした。
「いいです、その条件で参加していただけるなら、こちらとしては問題ありません。皆さんも異存は無いですか?」
暫くの沈黙。この場合は肯定と受け取っていいだろう。
「ただ一つ、私個人が気になったのですが、伝説を手に入れてどうするつもりですか?」
そんなエリスの質問に、テェレアは短く、
「世界を変える為に」
そう答えたのだった。
エリスはもう一度、テェレア達が居る前で戦略の説明を始めた。
エリスの事をヴァイスと呼んでいたエクスデトすら、その内容には驚いたようで、終始聞き入っていた。
全ての内容を聞き終えた後、テェレアは一人で拍手をしていた。
「ははっ、素晴らしいよ!こんな事を考え付くなんて、本気で惚れそうだよ」
いい加減エリスも彼の言動に慣れてきたおかげか、呆れた様な顔を浮かべる。
そんな時、肩に乗っているキュウがしかめっ面で、
「こんな軽い奴、俺が一番嫌いなタイプだ」
そんな事を呟いた。
軽いという意味が分からなかったエリスは、不思議そうな顔をしたが。一つ試してみる事にした。
「私は、貴方みたいな軽い男は嫌いです」
「か、かるい?僕が?・・・どういう意味で?」
やはりテェレアも意味が分からなかったようで、自分の身体を触ったり、後ろの兄弟に自分が軽いのか尋ねたりしていた。
「それでは、明日に備えて私は準備します。皆さん、よろしくお願いします」
「あ、ちょっと!軽いってなん・・・」
そんな彼の疑問はエリスに届く事は無く、その場に居た全員に謎を残してその場を後にしたのだった。
因みに、後でキュウに意味を聞いたエリスも教えてもらえず。自分で言っておいて自分で悩むという事態に陥るのだったが、結局謎が解決する事は無かった。
GWに色々と予定とか入ってかなり更新遅れました。
暫くは元の更新速度に・・・なるように頑張ります(汗
感想御待ちしております。




