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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
55/73

心情不明

「何の騒ぎですか?」

「おぉ、母上!いいところに」

騒ぎを聞きつけてやって来たのはヌエの母。外へ逃げ出した修行者達を見て何事かとやって来たようだ。

「もしかして、お父さん倒しちゃったの?」

手を頬に当てて不思議そうな顔をするヌエの母に対して、何と説明してよいのか困ってしまう三人はしどろもどろになっていた。

「ぬぅ、これは、なんと言うか・・・」

「す、すみません。その、色々あってですね」

「正直に言っちゃった方がいいんじゃないの?」

ヌエは悩んでいた、父であるヤトオウドは爬魔族最強の武術家とも呼ばれている存在だ、そんな父を三人がかりとは言え倒してしまった事実をどう伝えれば良いものかと。

エリスは困惑していた、一方的に挑まれた勝負で、非が向こうにあったとしても、彼を倒してしまって本当によかったのだろうかと。

トゼルは一人、能力を使った反動で疲れ切っており、その他諸々に気を回す余裕は無かった。

三者三様を見せた姉妹の姿を見ながら、ヌエの母は、

「おめでとうヌエ、お父さんを倒すなんて、強くなったのね」

そう言って大喜びし、ヌエに抱きつくのだった。

その場に居た全員が、彼女の様子に驚いたが、やはり彼だけはそうなる事を知っていたかのように呑気な欠伸をするのだった。


「だれかお水を持って来てもらえる?この人を起こさないと」

その言葉に、修行者の一人がバケツを持って外へ走っていく。

いつも自分達が気を失った時に受ける「洗礼」を、師範代にする日が来るなど、彼等は夢にも思っていなかっただろう。

「母上、拙者達が倒してしまって良かったのであろうか」

ヌエの悩みは母の姿を見た後でも消えておらず、自分では解決できないと考えたのか、いつもの彼女からは想像できないほど小さな声でそう言った。

この道場は爬魔最強の武術家が師範代を務めているからこそ、多くの修行者が入門する。その師範代が倒されるなど、在ってはならないのではないか。そう考えていたのだ。

そんなヌエの頬を優しく撫で、彼女の母は微笑んだ。

「そんな事気にしていたの?この人が一度倒されたくらいで落ち込むような人に見える?それに、ここの門下生の最終目標は世界一の武術家になる事、つまりこの人を倒す事。そうでしょう?」

その問い掛けに答えたのは道場内に残っていた修行者達。

「そうですね。強きを求めんとする心は皆同じです」

「師範代の強さに到達する日は遠いかもしれませんが、いつかは俺も!」

「お前は腰抜けて逃げ遅れただけじゃないか」

「そう言うお前だって、まだ膝が笑ってるぞ?」

「なんだと!」

「なんだ!」

「えぇい、うるさいのぅ。いつも平常心を保てと教えているはずだがのぅ」

騒がしくなった修行者達を咎めるように、静かだが重く厳しい口調で話すヤトオウド。

「あなた、気が付いたのですか?」

「父上!大丈夫ですか!?」

「少しふらつくが、力を使った反動だ。致し方ないのぅ」

ゆっくりと立ち上がった彼は、丁度良いタイミングで修行者が持ってきたバケツの水を貰うと、自分で頭から水を被った。

「洗礼は何十年ぶりか、がはは。懐かしいのぅ」

先程のような獰猛な笑い声では無く、落ち着いた口調で笑う。

その姿からは先程のような怒気は一切感じ得なかった。

彼はその場で胡坐をかくと、両手の拳を地面に付け、三人に向かって頭を下げた。

「ワシの負けだ!完敗だ!」

そう言ったヤトオウドの顔は、清々しい程の笑顔を浮かべていた。


その日の修行は休みとなり、三人はヌエの実家である家に厄介になる事となった。

石と木で作られた家は中国の歴史的建造物のような家だ。

因みに、キュウの見た限り爬魔領の建物はその風潮が強い。標高の高い山々に囲まれたこの国では、少ない土地を有効的に使う為、このような建築様式が使われるようになったのだろう。

壁や天井に施された細工や装飾が統一された家に色彩をもたらし、風情のある情緒を生みだしている。

「まさか、このワシが負ける事になるとのぅ」

「あなたもいい歳なんですから、あまり無茶はなさらないで下さい」

「わたし達は三人でしたし、一人では勝てなかったです」

広間の丸テーブルに全員が座り談笑していた。

入口の最奥にヤトオウド、その左手に妻が座る。本来であれば右手にヌエが座るのだが、彼女はエリスの右手に座っている。エリスはヤトオウドの向かいの席、左手にはトゼルといった席順だ。

因みに、本来の席順から言えば少し違うのだが、話しやすい位置という事でこのような席順になっている。畏まった席でも無いので全員気にしてはいないようだ。

「姉者、父上は修行者全員が相手でも負けるどころか、一撃も当てられないのです、そこは誇って下され」

「謙虚な性格のようだが、爬魔ではその謙虚が侮辱になる事もあるからのぅ」

「そ、そんな!侮辱だなんて思ってないです!」

「がはは!知っておる、今後気を付けなされ」

慌てて訂正したエリスの姿を見て、気にしてないと言うように笑う。

ヌエによく似て豪気で大らかな性格のようだ。この場合、ヌエが良く似ていると言った方がいいか。

「しかし、まさかヌエの姉とはのぅ。ってきり妹が二人かと思うたぞ?」

「私は初めから分かってましたよ?ただ、この子が姉だとは思いませんでしたけど」

「・・・なに?おまえ、気付いていたのか?」

ヌエの母が言った言葉に驚くヤトオウド、自分が見抜けなかった存在を知っていると言う事に驚いたのだろう。

「ヌエは二人を紹介した時に、姉と妹と言ったでしょう?」

「ワシは姉妹としか聞いておらんかったがのぅ?」

彼の視線がヌエに移ると同時に、しまったという顔になる。

「・・・拙者とした事が、失念しており申した」

勢いよく頭を下げるヌエに対し、

「馬鹿者が、あれほどお前は言葉が足りないのだから気をつけろと言っておっただろう、ワシも知っておればもう少し・・・」

溜息交じりに叱るヤトオウドだったが、

「知っていても、あなたは勝負を挑んだのでしょう?」

そんな彼を窘めるように話すヌエの母。

「それは、そうだがのぅ。う、ううむ・・・」

ヌエの母が言った通り、結果は変わらなかっただろう、そこを突っ込まれたヤトオウドは言い淀み、それ以上ヌエを叱る事が出来なくなってしまった。

魔国最強の男も、妻の前ではただの夫だ。

「プッ、ふふふっ」

「姉者?」

突然笑い出したエリスを不審に思い、ヌエが呼びかける。

「ご、ごめんなさい。わたしも故郷の事を思い出しちゃって。ふふっ」

思い出していたのはアビス参道街に住む彼女の育ての親、アビス夫妻。

種族や領地が違っても、夫婦の姿は変わることなくそこにある。

そんな些細な同じ所が面白く、懐かしくてつい笑ってしまったのだった。

ヌエの両親が彼女の笑顔の虜になったのは言うまでもないだろう。


その日はヌエの自室に三人で泊る事となり、久々に落ち着いた夜となっていた。

旅の途中では魔物の脅威もあり、なかなか安心して休む事ができない。それも醍醐味の一つではあるが、やはり安心して眠れるベッドは格別だ。

「姉者、今日は拙者が至らないばかりに迷惑を・・・」

「もう終わった話です。それに、良い物も見れましたし」

「お姉様が笑ってたあれ?確かに、良いご夫婦よねぇ」

ヌエは少し居心地が悪いような、それでいて嬉しいような、複雑な心持のようだ。

そんな雑談を続けていた三人だったが、不意にトゼルの目が怪しく光った。

それに気付いたのはキュウだけだったが、大事になる気配は無かったので放置することにしたようだ。

「お姉の部屋の本って、やっぱり武術に関する文献ばっかりなのねぇ」

机の上に乱雑に置かれた本を見渡しながら、トゼルが呟いた。

その時のヌエは特に気にした様子は無く、ぶっきら棒に、

「うむ、父上から頂いた物ばかりだ。トゼルが見て面白い物は無いな」

本を眺めていたトゼルが、獲物を定めたかのように素早く手を伸ばす。そこに書かれていたのは、武術家の伝記物語ノンフィクション

「待て!それはっ・・・」

「はっはぁん、やっぱりねぇ」

「ぬ、ヌエ?トゼル?えっと、一体何を・・・?」

突如トゼルへ飛び付いたヌエを見て驚いたエリス。トゼルは口角を上げ、実に楽しそうな顔で、本の中身だけをエリスへ投げ飛ばした。

伸ばした腕は投げられた本に一歩届かず、エリスは飛んできた本の表紙を確認してしまった。

「私と彼の恋・・・ってぇええぇ!?これって有名な恋愛小説じゃ!?」

「うふふ、お姉・・・、隠し方が甘いのよぉ」

「ぬぅぁぁぁ、これだけは見られたくなかった物を・・・トゼル貴様ぁ!!」

「きゃーコワイわーお姉オチツイてー」

棒読みでヌエから逃げ回るトゼル、そこまで広くない部屋で逃げ切る事など不可能で、すぐに捕まってしまうが、それでも尚楽しそうなトゼル。

この世界にも物語を綴った本、小説は多種多様に存在する。まだ漫画という文化は存在していないようだが、古今東西、こういった物語が人を魅了するのは世の常だ。

しかし、ヌエと恋愛小説が頭の中で結び付かなかったエリスは驚き、秘密を見破ったトゼルは自慢げに笑う。

「ひょねぇ、いはいわひょ。ひゅうひへー!」

ヌエに頬を両側から掴まれ笑いながら泣いて許しを請う。

「ぬぅ、このお調子者め!今度という今度は・・・」

トゼルに対して怒っている、というよりは恥ずかしさで憤慨している、と言った方が正しいだろうか。

「こら、二人ともその辺で。わたしも驚いてごめんね。ヌエも女の子なんだからこういう事に興味があって当然ですもんね」

ヌエに対して「女の子」という表現は些か問題があるような気もするが、一端の落ち着きを取り戻したヌエはエリスの隣に腰かけ、本を受け取ると大切そうにその胸に抱きかかえた。

「拙者はこんな身体故、好いてくれる男もおらず、拙者自身恋心など感じた事もないのです。だから、この物語のような身を焦がす恋という物に憧れているのですな」

恋に恋するお年頃、というには少し遅い気もするが、生まれも育ちも特殊な彼女の事でもあるし、おかしい事ではないだろう。

エリス自身、恋や愛などと言われてもさっぱり分からない。

「正直アタシも、男なんて騙し甲斐の無い生き物としか思ってないしね」

「それはちょっと・・・、違う気もするのですが」

「本によれば、家族とも友とも違う好きという感情らいいですが、拙者にはなんとも」

少し気になって、エリスはその本を読んでみたくなったエリスは、ヌエに了承を得る事にした。

初めは困惑したようだが、エリスの頼みならと渋々了承したヌエが本を差し出した。

「アタシも読んだけど、その男は好きになれそうもないわ」

「それには拙者も同意見だな、この男には義が足りん!」

パラパラとページを捲るエリス。キュウと出会ってから文字を読む事が多くなった彼女は速読とまではいかないが本を読む速度は速い方だ。

この物語の冒頭部分、少女が旅の途中で休んでいるところに一人の男がやってきて、聞かれてもいない話を永遠と話すというところから始まっている。

何故か嫌な予感がしたエリスはそっと本を閉じてヌエに返すと同時に、

「わたしも、この男は好きになれそうにないです」

と言うのだった。

「お姉様も無理だったかぁ、ところで。お姉の好きなタイプって、やっぱり屈強な人だったりするの?」

今日のトゼルの標的は飽くまでヌエのようだ、話をヌエに戻すと、楽しそうに口角を釣り上げる。

「そうであるな、やはり拙者の一撃を受けて何とも無い様な男でなければな!もちろん魔法でもいいぞ?その点で言えば姉者が男であればと思うのだがな」

「お姉、そんな人は絶対に居ないわよ・・・」

「わたしが魔法を使っても、ヌエの一撃は止められない気がするんだけど・・・」

冗談にしか聞こえない本音は、二人を呆れさせるには十分だった。



男が女子の会話を書くって、無理があるなぁ・・・。

身長2メートルの恋に恋する女の子・・・ギャップ萌えってヤツかな?無茶がある。

自然体で生きる彼女にはちょっとした秘密がある訳です。


物語に出てくる小説は実在しない・・・はずです。

似ている小説はあるみたいですが、一切関係ありません。

恋愛小説なんて数えるほどしか読んでいないので、直球なタイトルしか浮かびませんでした、想像力の欠如です。


感想。お待ちしております。

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