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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
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族滅大蛇

二人の間では相容れない緊張した空気がぶつかり合っていた。

巨大な蛇が目の前の獲物を飲み込もうと、そのアギトを広げる獰猛とした緊張感。

一匹の獣が遥か遠くの空に咆哮を放つような、悠然とした緊張感。

本来の死合いであればエリスに勝ち目はないだろう。

けれどこれは殺し合いでは無い、あくまでも試合なのだ。

それと、エリスに課せられた注文はただ一つ、一撃を当てればいいだけだ。

ただそれにも問題が一つあったが、今の彼女に助言をして失敗してしまうと元も子もない。

ここで手に入れるべき物は、力による力の掌握だ。


エリスが足元を確認する、砂で作られた地面は脆く、駿足を武器とする彼女には不利になる地形だ。

一方、ヤトオウドはこの砂地に適した戦い方、動き方を熟知している。

地の利は向こうに在る。力量も歴然。

エリスは想像する。この状況を打破する方法を。創造する。

魔力を扱うに当たって訓練してきた中に、現状を打破する為の特訓が一つあった。

断続的な魔術行使の基礎訓練と、応変魔術の基礎訓練。訓練内容は至って簡単、水の上を走る。ただそれだけだ。

しかしこの訓練は言う程簡単な物ではない。

魔術とは基本的に0と1、消滅と発動の前提が存在する。効率や利便性を考えるならばこの基本は守らなければならない。

けれど、キュウはあえてその逆を行く奇をてらう。その答えはエリスの履いているブーツに仕込まれた魔術式。

エリスは他者と比べて固有魔力が多く、その扱いも天才的な物だ。そこでキュウが教えたのは断続術式・縮治しゅくち

術式を常に発動状態に置き、いつでも好きな時にその効果を得る事が出来る持続術式。

1と2、発動と再発動を繰り返す術式だ。魔力の消耗量は基本的な物と比べて3倍から4倍となるが、一撃必殺を型とするエリスには最適と言える。

足場に術式を展開させ、氷の凹凸を発生させる。足と接地面がピッタリと重なり合うように生み出された魔力の足場はほど良く噛み合い、余計な力を滑らせる。

この術式によって、エリスはどんな場所であろうと最速で在り続けられる。


「速さだけでは足りない、もう少し、もう一手です!」

エリスの駆け抜ける後には砂煙が巻きあがり、速度の凄まじさを物語る。

左手へと駆け抜け、右手を引き絞り、回転を加えた一撃を繰り出す。

「早いが、甘いわっ!」

ヤトオウドが右手を振るう。まるで羽虫を追い払うような仕草だったが、巨体から放たれた腕の一撃はその衝撃だけで砂を巻き上げ、道場の壁へと押しのける。

だが、そこにエリスの姿は無かった。

エリスが突っ込んでいれば砂と共に壁へとその身体を打ちつけられていた事だろう。戦いに関して鍛えているエリスだが、の一撃を受けて耐えられる身体では無い。

肉体に関して、種族という枠組みを超える事は不可能なのだから。

先に攻撃が届くかの賭けよりも、彼を翻弄出来るかの賭けに出たのだ。

エリスの巻き起こした砂煙が押し寄せ、一端後方へ飛び退いたエリスの姿を隠し、一瞬の隙を作る。

「目暗ましなど、ワシに通用すると思うたか!ヌゥーハッー!」

怒気を含んだ声と共に蹴りが放たれる。

巨体の速度とは思えぬ速さで振るわれた蹴りは鞭のようにしなり、砂煙を蹴散らしていく。

だが、その先にもエリスの姿は無い。

「これが、キュウさんの言っていた。戦いを想像すると言う事ですね」

「このワシが、背後を取られた、だと?」

左手に持たれた木刀はヤトオウドの左首筋に添えられ、戦いの終わりを静かに告げていた。


キュウがエリスに教えた戦いの基本、その中の一つに、

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

という言葉があった。

本来は兵法として、戦いにおいての心構えのような物だ。

「戦いも魔法と同じだ、属性を知り、反属性を選び、有利な条件で魔法を行使する」

属性相関図はエリスも座学で学んでいた事だが、その時の彼女にその言葉を実感する事はできなかった。

「いつも言っているだろう?想像力の欠如だ、と」

想像するというのは、初まりでしかない。その想像を如何にして創造へと繋げるか。

創造はどのように変化していくのか。

一連の物事全てを考える事こそが想像なのだ。

その時のエリスは心の底から喜びを感じていた。戦いに勝利した事よりも、自分の想像が正しかった事よりも、キュウに近付けた一歩が嬉しかった。

「想像力の。欠如です」


約束通り一撃を決めたエリスだったが、彼の背中から戦いの狂気が消える事は無く。むしろ湧きあがる闘士でその肉体が肥大化したように見えた。

しかし、それは錯覚などでは無く、実際に起きている現実だった。

「がははは、面白い!このワシが初手で後れを取るなど幾十年ぶりか!一撃などつまらん。存分に、存分に死合おうではないか!」

「ひゃ!?そんなぁー!?」

首筋の木刀を掴み、エリスの身体ごと投げつけるヤトオウドの身体は皮膚の所々が裂けたように開き、明滅する魔力光が身体中から迸る。

「姉者!!」

投げられたエリスは道場の壁に激突する前にヌエによって受け止められる。

「あ、ありがとうヌエ。助かりました」

「いえ。それよりもマズイですな、ああなった父上はもう止まりませんので」

二人の視線の先には雄叫びのような笑い声を上げ続けるヤトオウドの姿があった。

すでに修行者達はできる限りの距離を取り、中には逃げ出す者も少なくない。

「やはりこうなったか、熱血キャラにありがちな展開だな」

「キュウさん?・・・もしかして、こうなるって」

近寄って来たキュウが溜息交じりに言った言葉の先をエリスは察する。

「ヌエの父と聞いてこんな事になるんじゃないかとは思っていたが、想像通りだったな」

「だったら・・・」

「教えておけと?あの相手にエリスが手を抜けるとは思えないんだがな?それに、見つけられただろう?」

「うぐっ、全部お見通しじゃないですか・・・」

言いたい事全てを先回りで諭され、何も言えなくなってしまう。

「姉者、キュウ殿、来ますぞ!」

現状に愚痴をこぼしている暇は無い、ヤトオウドが飛び上がり、その拳をエリスに撃ち付けんと迫り来ていた。

間一髪でその場から退いた二人と一匹は後方へと下がり、追撃が無い事を確認すると、事態を収束させるべく手を合わせる。


相手を無力化させるのは殺すよりも圧倒的に難しい。特に、狂気に染まった戦闘狂など手に負えない。

エリスの戦術では殺す事はできても無力化する事はできないだろう、第一このような状況に陥るなど想定していない。

「エリス!お前は陽動だ、ヌエに奴を抑えろと伝えろ!」

「はい!ヌエ、正面は任せます!どれくらい抑えられる?」

「拙者では10秒が限界ですな、何かいい案でも?」

エリスが頷くと、ヌエもヤトオウドに向き直り、次の指示を待った。

「十分だ、合図したら始めるぞ!」

ヌエが正面に立ち、ヤトオウドの動きを制限させる。エリスがその後ろに立ち、魔術による支援を行う。キュウはトゼルの肩に登り、先日手に入れていた魔力結晶を放出した。

「トゼル、聞こえるな」

「わぁぉ、アタシにも聞こえるようになったの?」

「一時的な物だ、時間が無いから端的に言うぞ。奴を無力化するにはお前の力が鍵になる」

「りょーかい。手のかかる姉達を持つと大変だわぁ」

キュウの持つ魔力量は少ない、体内の魔力だけで他者と話せる時間は1分が限界だが、別の魔力を混ぜる事で余裕が生まれる。

トゼルが背後に回り、布陣は整った。


「がははは!三人が相手か!良いぞいぞ!かかって来るがよい!」

ヤトオウドの身体から放たれる魔力光がその輝きを増しながら、ヌエに向かって突進する。

「息吹・氷壁!」

エリスの放った魔術はヌエの眼前に幾重もの壁を生みだした。

所詮は気休め、もともと魔法を無力化する為の壁では物理的な攻撃を止める事はできない。

しかし、突進の威力を軽減する事には成功したようだ。

「ぬぅ!重い、が。負けませんぞ、父上!」

ヌエは正面から突進を食い止める。衝撃で砂の足場は沈み、徐々に押され始める。

体格は同じでも、現在の条件が悪すぎる。本来の力比べであったなら、二人の力量は互角だっただろう。

「力は貸してやる、奪い尽くせ!」

「アタシも、やる時はやるのよ!」

トゼルが背中に回り、掌を置く。ヤトオウドに気にした様子は無く、眼前のヌエとの力比べに集中しているようだ。

爬魔族の皮膚は全面より背面の方が固い。奇襲による背後からの一撃など取るに足らないと言う事だろうが、この奇襲の目的はもっと別の物だ。

「がはは・・・はっ!?ワシの力が、抜ける!?」

ヤトオウドの身体から発せられていた魔力光が弱まり、身体の端から裂け目が閉じていく。

魔力の変化と共に一瞬の隙が生まれる、彼の狂気に身体がついて行けなくなったのだ。

一気に体勢を整えたヌエが腕を反転させ、掌が上を向くように引き伸ばされた腕は確りと固定され、その動きを封じた。

「ふッッ!!」

エリスが息を抜く呼吸と共にヌエの脇から木刀を突き出す。

「ガッ、かはっ!?」

ヌエから教わった爬魔族の弱点である顎の下の首に深く突きを入れる。

頭を揺さぶられ、呼吸が出来なくなったヤトオウドの身体がグラリと揺れ、片膝を着く。

「父上、御免!・・・破ッ!」

止めとばかりに放たれたヌエの正拳突きが頭部に直撃し、吹き飛ばされるように後方へと倒れる。

この瞬間、爬魔不敗と呼ばれた族滅大蛇の初敗北が決まったのであった。

「うげぇ・・・重い、お姉ひどいわよ・・・」

「ぬぅ?す、すまぬ。忘れておった!」

「と、トゼル!キュウさん!大丈夫ですか!?」

「俺は間一髪だったが、・・・早く助けてやれ」

後方に倒れたヤトオウドの後ろにはトゼルが居たままだった為、巨体の下敷きになってしまったトゼルは砂まみれで助けを求めていた。

なんとも締まらない結末を迎えた試合だったが、修行者達はその現状を夢でも見ているかのような表情で声も出せずに見ているのだった。


戦闘って書くの難しいですよね、特に文字だけだとどう表現したらよいか迷ってしまって・・・。

自分の頭の中では映像として起こしているので分かるのですが、それを人に解ってもらうにはどうしたらよいか、思い悩む日々です。

これもまた「想像力の欠如」ですね。


感想。おまちしています。

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