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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
48/73

謎に答え、色欲の異法

辺りが明るくなると同時に目を覚ます。

睡眠時間としては三時間程度、それでもかなりの疲労が取れるのは、焚火の魔術道具のおかげだ。

「魔術とは便利な物ですな、扱えないのが少し残念ですよ」

荷物を鞄に収めながら、そんな事を言うヌエ。爬魔族に魔術の適性は無い。

今まで野宿をするような旅に出る場合は、商人や旅仲間を集い、対処するしかなかった。

中には焚火の魔道具を扱う事のできる者も居ただろうが、魔術道具は総じて値が張る物で、一個人が持っているような物ではない。

魔術の扱いに長け、相応のエンを持ち、旅をする物好きなど、世界的に見てもほんの一握りだ。

「魔術道具は専門外なのよねぇ、エリスちゃんが居てくれて助かるわ」

「えっ?魔術が使えるのに、魔術道具は使えないんですか?」

魔術道具は魔力を通す事で発動させるものである、魔術が使えて扱えない筈は無い。

「トゼルは純魔であろう?今まで使っていたのは異法ではないのか?」

「うーんとね、・・・説明しないとだめ?」

隠したいわけではない、どちらかと言えば説明が面倒と言った感じだ。

だったら聞いてみたいと思ったエリスは、興味津々と言ったように首を縦に振る。

「じゃぁ、アタシに魔法使ってみてよ」

「えぇ!?危なくないですか?」

「いいからいいから」

そう言いながらひらひらと手を振って見せるトゼル。

その様子からは危機感など感じない、適当な事を言っている訳でもなさそう、至って冷静そのものだ。

「じゃぁ、いきますよ?」


ベルトポーチの一番手前から一枚の鉄板を取り出すと、そこに魔力を流す。

エリスは凄く丁寧で几帳面な性格だ、もちろんそれは自身の持ち物にも表れている。より強い魔術式は奥へ、簡単な物は手前へ、というように配置してある。

さらにベルトポーチは二つあり、左足の左側面に着いた物は限定展開式、左後ろに着いた物には広域展開式というように整理されている。

今し方使われたのは限定展開術式、限定した空間から自然魔力を取り込み、収縮させて使用する魔術式の総称である。

固有魔力が第一魔術式に流れ込み、命令を受けた魔力が自然魔力を取り込みながらその姿を変えていく。

エリスの眼前に現れたのは氷でできた拳大のつぶて

第二魔術式に魔力が到達すると同時に氷は前方への飛翔を開始し、トゼルに向かって突進した。


手を抜いているとは言え、その速度は2百キロを超える、当たればタダでは済まないが、トゼルは避ける事無く、自身の持つ武器で魔法を受け止めた。

受け止めたと言うには衝撃音も、命令を失った魔力流の発生も見られない。不思議に思っていると、トゼルがにっこりと微笑んだ。

「まぁまぁかな?これは貰っておくわね」

そう言うと鎌の可変部に手を添え、何かを抜き出した。

金でできた筒のような形状のソレは、簡単な術式が一つ書かれただけの物だった。

「ほぅ、八式か。やはり見つけていたのか」

「キュウさん?ハチシキって、秘密じゃなかったんですか?」

「なにっ!?エリスちゃんこれ知ってるの!?」

その言葉に驚いたのか、トゼルはエリスの肩を掴んで揺さぶる。

その反動でキュウは地面に落され、さらに驚いたヌエが止めに入る。

「トゼルよ、そんなに慌ててどうした?」

「大問題よ!純魔に伝わる最大の禁忌を知っているなんて、ホントに何者なの?」

「うえぇ。禁忌って、それを知っているトゼルも変じゃないですか」

彼女はおそらく見せただけで、その内容まで話すつもりは無かったのだろうが、知っている以上隠す事に意味は無いと判断したのか、少し戸惑いながらも話し始めた。


山への道中、会話が長くなると思った一行は、歩きながら話をする事となった。

「それで、エリスちゃんは禁忌をどこで知ったのよ?」

トゼルが訝しげな目を向けてくる。この術式を知っている事がそれほど不思議だったのか、それとももっと別の何かか。

「わたしも、見せた方が早いかもですね。キュウさんいいですか?」

肩に乗る黒猫は、少し悩んだようだが、一つ条件を加える事にした。

「トゼルに言え、知りたければ旅の一行に加われ、とな」

「えぇっ!?なんでそうなるんですか!?」

キュウが旅の事に口を出すのは初めての事だ、手助けはするが手伝いはしないと言っていた、あのキュウが突然そんな事を言い出すとは思いもよらず、驚いてしまった。

「なに?キュウちゃんが何か言ったの?」

「えっと、知りたければ旅の仲間に加わる事、だそうです」

その言葉にトゼルもヌエも驚いた。

エリス自身は旅の仲間が増える事は嫌ではないが、これでは脅迫と同じではないのか、とも思ってしまう。

「姉者、こんな奴をですか?」

「ちょっと!こんなって何よ!失礼ね」

それに、ヌエとトゼルは言うなれば水と油だ。二人が一緒に居て大丈夫なのだろうか。

睨みあっていた二人だったが、突然トゼルが吹き出し、笑った。

「キュウちゃん、ホントに何者なのよ?今なら魔神様だって言われても信じるわよ」

「えっ?どういう事ですか?」

「この依頼が終わったらアタシから言うつもりだったのになぁ」

流し目でキュウの姿を見るトゼルは、すでにいつものひょうきん者に戻っていた。

きっとこの彼女が本当の姿であり、偽りの姿でもある。そんな印象を受けた。

「えっと、それじゃ・・・」

「一緒に旅してもらえる?」

「もちろんです。改めてよろしくね、トゼル」

「ぬぅ、姉者がそう言うのであれば」

そう言って増えた新たな仲間は、愉快そうに笑うのだった。


和んだ雰囲気も一段落し、エリスはポーチの最奥から一枚の鉄板を取り出した。

他の物とは違い、所々に黄金の埋めてある豪華な作りだったが、問題はそこに描かれた魔術式にある。

因みに、この黄金はキュウが神殿からこっそり持ち出した物で、買った訳ではない。そもそもこれは流星スターダストと呼ばれる特殊な金属で、魔力の伝導率と持続率が通常の数百倍という代物だ。金と軽銀を魔石でつなぎ合わせた鎖のような糸で構成された金属。

それが複雑に絡み合って金属のように見えるのだ。

その一本一本を丁寧にほどき、思い通りに並べる作業は恐ろしく時間がかかる。

ただの鉄板に張り付けるだけでも、丸々一年を費やすほどに。


「なにこれ!?こんな術式見た事も聞いた事もないわよ!」

トゼルはその鉄板を手にとって術式を眺めているようだったが、その複雑さに驚いていた。

そこに書かれているのはキュウの知る限りを詰め込んだ、文字通り最強魔法の術式。今のエリスが使えば、その一撃で魔力不足に陥って昏倒してしまうだろう、彼女にとっても最終手段となる魔法。

「本当に命が危ないと思った時しか使わないように、ってキュウさんに言われてるんですけどね」

「そんな恐ろしい魔法、絶対使わないでよね。あ、これ・・・?」

魔術式の一つに目を止めたトゼル、そこには自分のよく知る術式が刻まれていた。

アラビア数字の8と同じような形、流星を媒体にした場合にのみその効力を発揮する九式魔術文字の一つ。

その役割は蓄積。本来流れて失われる魔力を術式内に留めておく事で、魔法の威力を持続的に高める物だ。

「ちょっと待って、九式ってことは他にもあったりするの?」

「全部で九個です、キュウさんが教えてくれました」

「それ、全部これに書いてあるってこと?」

エリスが頷くと、もう一度術式を読み解こうと必死になるが、十秒もしないうちに諦めた。

「一応言っておくけど、これを簡単に人に見せない方がいいわよ?」

トゼルは本心からそう思っているのだろう、いつものようなおどけた感じではなく、真直ぐにエリスの目を見て真剣に話しかけてきた。

「トゼルだから見せたんですよ、わたしもキュウさんから言われてましたし」


キュウ自身、これがどれほど危険な物か解っている。悪用すれば領地一つ簡単に掌握できる程の力を持っているのだ。

それは彼自身が望む世界ではないし、想像したくない世界だ。

何故こんな物を作ったのかは、言うまでもなくキュウの好奇心。この身体でどれほどの術式が生み出せるのかという実験でもあった。

最終的に出来上がった術式を見て、

「好奇心は猫をも殺す・・・か」

なんて言ったのであった。


「アタシだから、ね。うふふ、ありがと。その信用は裏切れないわね」

そう言って笑うトゼルはとても嬉しそうだった。まるで最高の美酒と出会った時のような妖艶で恍惚の笑み。

「では、トゼルの武器も教えてもらって良いですか?」

「もちろんよ」

トゼルの武器、錨大鎌はトゼルの家に代々伝わる物で、言い伝えによれば、象徴神と呼ばれる者から授かった二本の鎌を合わせて作られた武器なのだそうだ。

その時、キュウの身体がピクリと反応したような気がしたが、エリス以外はそれに気付かなかった。

「純魔族って、妖魔の中でもかなりひ弱な種族でね」

多種多様な種族からなる妖魔に共通する点は、魔術への適性が爬魔より無く、代わりに様々な異法が扱えるという点だ。

様々な異法は大きく分けて7つ。トゼルは色欲を持つ種族で、その能力は魔術式の吸収。

「式の吸収、ってどういう事ですか?」

「一言でいえば、相手の使った魔法をわたしが使えるってこと」

丁度いい標的を見つけたのか、先程の筒を握りしめたトゼルが川の水面に向かって手を伸ばす。

筒から流れ出した魔力が形作るのは、氷の礫。先程エリスが生み出した魔法だった。

礫が水面に触れると同時に、衝撃音と共に水柱が弾けた。

川が元の流れを取り戻すと同時に、一匹の水蝗がバラバラになって下流へと流されていった。

「思ったより威力強いわね・・・、さっすがエリスちゃん」

「ちょっと!流れて行っちゃうじゃないですか!」

「姉者、あれは流石に拾いきれませんな」

流れて行く魔物をどうする事も出来ず、仕方なく川に向かって手を合わせたが、どうにも腑に落ちないエリス。

当の本人であるトゼルは苦笑いで謝り続けるのだった。


「これで分かってもらえたかな?」

「確かに、さっきの魔法はわたしの使った物と同じようでしたし、なんとなくは解りました」

若干不機嫌さの残る声で答えるエリスだったが、自分の信条を通せなかった事が気に入らない様子だった。

案外頑固なところがあると、ヌエとトゼルは顔を見合わせて困った顔を浮かべるのだった。

「この武器は吸収した魔法を、この魔莢に封じる為の武器らしいんだけどね」

金色の筒は魔莢というらしい。トゼルが魔法を使っているように見えたのは、全てこの武器あってのおかげという事だ。

「トゼルがその武器を大切にしている理由はそれであるか」

「そうねぇ、これのおかげで旅に出る事ができたってのもあるけど。これはアタシにしか使えないみたいだし」

「どういう意味ですか?」

魔莢に魔法を閉じ込める事はできても、魔法を扱うには相応の知識と適正が必要になる。

この場合の適正とは、術式の読解力。

扱えない物を知る事は難しい。けれど、トゼルには不思議とその力があった。

だからこそこの武器を満足に使える訳で、一人旅にも困っていなかったという事だ。

「そんな大切な物を酒と変えるなど、やはり阿呆か?」

「そ、そこは。不可抗力というか・・・」

「一緒に旅をするからには、お酒は控えてもらわないとですね」

「そんな!それだけは勘弁してぇー!」

エリスのジト目を受けながら泣きつくトゼル、まるでお酒が無いと死んでしまうかのような取り乱し方だった。


キュウだけは知っている謎の答え。

けれど、それを彼女達に言う事はできない。

「あの武器、ただの草刈り鎌なんだよな」

巨大な草刈り鎌は、刈った草に宿る魔力を吸収して、新たな生命を生みだす為の媒体に使用していた。

その形はキュウの趣味で、特に意味は無い。

魔莢も同じくキュウの造った物で、魔法銃の開発をしていた時に試作品として生み出した物だ。

因みに、魔法銃はダンジョンの奥深くに封印されている。銃なんて代物が登場するには、魔国の歴史は浅すぎるし、危険すぎると判断した結果だ。

その二つがここに在ると言う事は、普通に考えれば在り得ない。

それに、トゼルが話した象徴神の話。キュウが眠っている間に、象徴達も人々の前から姿を消しているはずだが、知らない所で何かしらの交流があったのかもしれない。

きっといつか会うであろう家族の事を思い出しながら、黒猫はほくそ笑むのだった。


説明回が続いてる気が・・・、これでは話が進まない!?

ちゃんと次回から本筋に戻ります(きっと


感想。おまちしてます。

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