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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
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止り砕け、奇襲の森林

川を上って2日目の夜。一行はついに原因の巣窟へと足を踏み入れた。

木々の生い茂る森は暗く、空に浮かぶ星の輝きを垣間見る事は無い。森の中はじっとりとしており、空気を重く感じる。

魔術道具の一つ、爛淡ランタンの明かりを灯しながら、森の中を進んでいく。

何故夜に来たのかというと、カワズは夜行性で昼間は地中に潜み、探しだす事が困難だからだ。

「水気の多い土地ですな、確かにここならカワズが好みそうですが」

「水場が少ないのよね、最適な場所ではないのね」

「なんでこの森はこんなに湿っているのですか?」

この付近は標高の高い山は無い、爬魔領のラセン山の影響で雨が降る事も少ない土地だが、水不足になる事は無い。

「これは植物による影響だ」

キュウが口を開くと同時に、エリスの肩から飛び降り、近くにあった水色の丸い果実のような物がついた蔦植物に近寄った。

妖魔領の南西部を流れる川の水源は全てこの森から流れ出る水だ。

それほどの水分量をただの植物が生み出せるとは思えないが、その答えはすぐに分かる事となる。

「エリス、この花を一つ取ってみろ。刺があるから気をつけてな」

「えっ?花ですか?」

球体の果実だと思っていた物は、キュウが言うには花らしい。蔦の茎を折ると、そこから水滴が溢れてくる。

花を手に取ると、水の入ったガラス瓶を持っているような感覚だった。

「茎の側にある3本の刺を折るんだ、後は茎を吸ってみればいい」

言われた通りに刺を折り、茎を吸ってみると、さわやかな風味が口いっぱいに広がった。

すっきりとした透明感のある味、さわやかな甘みを含んだ香り。歩き疲れた身体を癒してくれる一杯だった。

「ふわぁ、これ美味しいですね」

エリスの緩んだ顔を見た他の二人も、同じように花を手に取り、飲んでみた。

「なんと!このような植物があったとは」

「酔い覚ましに良いわねこれ」

三人とも、この植物を気に入ったようだ。

これは水船葛すいせんかずら。別名、散水花さんすいかとも呼ばれる植物で、キュウの生み出したオリジナル。

日中は四枚の花弁を広げ、自然魔力を取り込みながら成長し、夜間になると花弁を閉じて袋状の形になる。

他の木々や地面から大量の水分を取り込み、花の中に蓄える事によって、朝と共に花を開き、水と共に種を吐き出す。

ただし、大量の水分を必要とす為に、ある一定の樹木にのみ寄生する。

その群生地が妖魔領南西の端に存在するこの森だ。この近くに住む魚人族は酔夢樹林すいむじゅりんと呼んでいる。

湿って足場が悪く、覚束ない足取りになり、昼間は霧になる事が多く、視界に靄がかかったようになる。

まるで酔っぱらった夢を見ているような森、という意味だ。

もちろんそこには魔物も生息している訳で、特に活動が活発になる夜中に森には入るような命知らずは居ないだろう。

水船葛が知られていないのも当然だ。

一行は珍しい植物の珍しい味を堪能しながら、一時の休息をしていた。


だが、そんな一行に忍び寄る影。

それに逸早く気付いたのはエリスとキュウだった。

地面を這うような音でその存在を感じたエリスはショルダーベルトのロックを外し、地に落ちる曲刀を空中で掴み取る。

その行動を察した他の二人も武器を手に取ろうとするが、一瞬の油断が二人の行動を鈍らせた。

「ぬぅ!?抜かったか!」

「いやぁーん、捕まっちゃったわぁ」

「二人とも!目を閉じて!」

手に持った爛淡をほおり投げ、叫び声を上げる。


咆哮術式・衝撃。魔力流をそのまま衝撃として放つ術式。属性の付いていない魔法に殺傷力は無い。形の無い剣、綿の鎚、水の槍のような物だ。

衝撃は上空に投げられた爛淡に当たると同時に、激しい光を生みだした。

一つ一万エンはする魔術道具を壊すのは気が引けたが、緊急事態なので仕方ない。

エリスが行ったのは攻撃でない。狙ったのは、魔術式の暴走と残留魔力による相互干渉。

魔術道具は、一定以上の魔力を流すと式自体が崩壊してしまう。

魔術道具とは、魔術式として刻まれた溝に魔力を流し、安定した魔法を使う事ができるように作られた物だ。

大雨によって川が氾濫する様を思い浮かべれば解りやすいだろう。大きすぎる魔力には式自体が耐えきれず崩壊してしまう。

暴発した魔法はドミノ倒しのように次々に周りの自然魔力を反応させていく。この場合は爛淡の効果である、光を生みだすというものだ。

それが残留魔力の相互干渉であり、その結果、森の中は昼間のように明るくなった。

明るくなった視界の先に現れたのは、全身が薄黄緑の丸っこい姿で、頭は三角型、スライム特有の核が目玉のようにこちらを見ていた。

背中の触手が蠢き、そのうちの数本がヌエとトゼルを捕えている。

触手と半透明の身体以外は蛙と変わらない姿だけれど、その大きさは全長三メートルはあろうかという巨体だ。

その姿を見たエリスの感想は、

「・・・気持ち悪いです」

それだけだった。


「エリスちゃんの魔法、ストックしておけばよかったわ」

「水に捕らわれているようだ、これでは抜け出せん」

捕まっている当の本人達は至って冷静だった。

身体の各所を触手で掴まれているとはいえ、所詮はスライムだ。体内に取り込まれるまでは大した害もない。

そうなる前にエリスがなんとかしてくれるだろうという信頼から来る余裕でもあった。

二人の動きと、前情報から物理攻撃に耐性があると言う事は分かっていた。即ち曲刀による直接攻撃は意味が無い、そもそもスライムは液体生物なのだから、エリスの得意とする冷属性と相性がいい。

小範囲魔法で凍らせれば簡単に倒せる。そう思っていたのだが。

背後から近寄るねっとりとした音に反応し、その場から飛び退くと、さらに迫る触手の攻撃を曲刀で薙ぎ払い、体制を立て直す。

「これは、思ったより大変です」

背後から現れたのは1メートルほどのカワズ。さらに周りから無数のカワズが這い出るように現れた。

「少し考えれば解るだろう、この大きさのスライムがヌシなら、そこに付随する子が居る筈だと、つまりは、」

「想像力の欠如。ですよね」

「・・・・分かっているならそれでいい」

決め台詞を取られて少し残念そうなキュウ。してやったりという顔のエリスはご機嫌だ。

もちろん油断しているつもりは無い、キュウと話している間にも、触手と動きをよく見て備えている。

エリスは左後ろのポーチから一枚の鉄板を取り出した。この状況で使うには勿体ない代物だが、今のエリスに自重は存在しない。

略六・殲滅魔術式、「氷華鏡ヒヨウゲキョウ

自然魔力はその動きを収束させ、パキパキという不快な音と共にその姿を変化させていく。



久々のちゅうにびょー炸裂です。

略六・殲滅術式エナイアレットシックスというフリガナは流石に「やりすぎ!」と思ったので、そのまま日本語として読んでください。


日本語の漢字って、本当に中二病心を擽ってくれますよね、「殲滅」とか。もう最高です。


感想。お待ちしてます。

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