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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
44/73

爬魔、即ち鉄球 新たなる旅立ちへ

街への帰り道、いろんな意味で重くなった背中を丸め、エリスは歩いていた。

右隣りには清々しい顔を浮かべるヌエ、その肩にはキュウ。

「何とも晴れやかな気分ですな、これも姉者のおかげですな」

「う、そのアネジャって言うの止めませんか?どう考えても姉って見た目じゃないです」

エリスの言いたい事も一理ある、身長も体格も圧倒的に劣るエリスが姉と呼ばれている様は、周りから見れば冗談にしか見えないだろう。

因みに、年齢的にもヌエの方が上になる。エリスは現在17歳、ヌエは20歳だ。

あの後なんとか訂正しようと頑張ってみたが、勢いに押し切られてしまった。

もちろんキュウが助けに入る事は無く、さらには、

「姉者がヌエさんなどと呼ばないで下され、是非ともヌエと呼び捨てに」

「あ、はい。ヌエさ、・・・ヌエ」

「なんでしょう、姉者!」

などと言われてしまう始末。

帰り道はとある荷物も増えた事で、キュウはヌエの肩に乗っている。

「これはこれで新しい視界だな」

なんて言っているし、きっと諦めろと言う事なのだろうと悟りつつ、どうにも腑に落ちないのであった。


とある荷物というのは目的の宝であるエンもだが、カシラの持っていた白銀曲刀だ。

間違いなく神殿から持ち出された遺物である。

力を求めた者によって魔国各地で盗難された物の一つ。

報酬のついでに頂いていこうと言う事で持ってきたのだ。その際に付着した血は全て拭き取ってある。

右肩から柄が覗くように背負われた曲刀は、エリスの髪の色と相成ってそこに在るのが当然と言ったように備えられている。

歩く時のキュウの定位置であるエリスの右肩は使えない。左肩に乗ろうとしても、慣れていないせいでぎこちない。その結果、ヌエの肩に乗っていると言う訳だ。


この曲刀は持ち主の固有魔力を流し込む事によって真価を発揮する。

自然魔力の吸収と放出によって並みの魔法は無効化され、そこに固有魔力を与える事によって扱う魔法の威力を向上させるのだ。

曲刀の形をした魔法の杖だと思えば解りやすい。

山賊のカシラのようにただの武器として使っても強いのだが、それはただの付随能力に過ぎない。

エリスの体術と曲刀という形状、魔学の知識と魔学の武器。出会うべくして出会った武器としか言いようがない。

試作品だけでも百は超えている魔術道具の中から、この武器がエリスの元に来たというのは、運命さえ思わせる。そんな出会いの一つでもあった。


一泊の野宿を経て、元の街に戻ってきた一行は、情報を貰った喫茶店へ向かう事にした。

「いらっしゃいませー、あれ?お二人さんは」

「どうもです」

そこには以前と同じウエイトレスが接客していた。

「武器を揃えて、これから出発ってところかな?」

「ハハッ!おじょうちゃんには不釣り合いなデカイ武器だな!」

ウエイトレスは勘違いな事を言い、昼間から飲んでいる客の一人はエリスの姿を見て笑う。

確かにこの曲刀はかなり大ぶりで、エリスのような小柄な女性が持つには不釣り合いである事は否めない。

全長140センチ、刃幅13センチの三日月型、重量は1キロ程度。つばには狼を模した装飾と銀糸。柄は銀糸と絹で編まれた帯状の糸が巻かれている。

歩く時に注意しなければ足が当たってしまうほど大きい。刃に触れても魔術の加護で守られている為、うっかり斬れるなんてことは無いが、慣れないうちは歩くだけでも精一杯だ。

「珍しい形だな?どれ、ちょっと見せてみろ」

「触らない方が・・・」

言うが早いか、近くに座っていた男が手を伸ばす、注意しようとしたエリスだったが。

「つめあつぁあ!?」

「・・・いいと、思いますが」

男は伸ばした手を引っ込め、突然の痛みに驚きを隠せないでいる。

エリスの固有魔力を宿したこの武器は他人が触れる事をよしとしない。武器全体がドライアイスになっていると思えば解りやすい。

触れた者を一瞬で凍りつかせ、凍傷にさせる程の冷気。

「へぇ、おじょうさん魔道具使いだったのね」

またも勘違いをするウエイトレスだったが、この場にその間違いを正す者は居なかった。

もし先手を打っていなければ今頃ヌエが暴れていたかもしれないが。

「それより、注文したいんですが」

「あぁ、そうだね。なににしますか?」

気を取り直していつも通りの顔に戻る、ウエイトレスとしては上出来だが。

「ヌエ、お願い」

少し不機嫌な顔のヌエは手に持っていた馬鹿鳥2羽と、一万エンを突き出す。

「これを調理して頂きたい」

「は、い?えっ、もしかして?」

ウエイトレスの顔が驚愕に染まる、その時エリスは思ってしまった。

人を驚かすのって、少し面白いかも?・・・少しだけ。

「調理してもらえますね?」


「「いただきます」」

「流石は姉者、先に何もするなとは言われてましたが。まさか行動だけで周りを納得させてしまうとは!」

一行のテーブルの上には馬鹿鳥を使った料理のフルコースが並べられていた。

茹で鳥のサラダに煮込み鳥のスープに串焼き、メインはもちろん丸焼だ。

これでも普通に考えれば一万エンには程遠いが、情報量としては十分。おかげでこの街一番の宿とちょっとした裏情報を手に入れたのだから。

エリスが仕掛けたちょっとした意地悪に店中が度肝を抜かれた事が痛快だったのか、ヌエは笑いながら次々に料理を胃袋へ流し込んでいた。

「もう、お行儀悪いです。でも、ちょっと面白かったですね」

キュウの悪い影響が出ているのか、エリスも笑顔が隠れきれていない。

馬鹿鳥というのは綿毛の山にのみ生息する魔物で、他の地域で見かける事は無い。加えて一万エンという大金は無一文が一日二日で手に入れる事のできる金額ではない。

それこそ、宝でも見つけない限りは。

それが同時に見せつけられたとしたら、その答えは一つしかない。

始めは驚きを隠せなかった人々だが、綿毛の山に入る事ができるようになったという情報は喜ぶべきことだと気付き、一様に二人を褒めたのだった。

エリスはいつもより少し多く、キュウはいつも通りに、ヌエは残り全てを食べ尽くし。心身ともに満足したのだった。

「「ご馳走様でした」」


情報を頼りにやってきた宿は、豪華の一言に尽きる仕様だった。

綿花を使用したふかふかのベットは寝心地よく、大浴場とはいかないものの、そこそこ立派な風呂が宿内に備えられていた。

伊達に一泊三千エンではないと言う事だ。

「千年前だったら喜ぶシチュエーションなんだがな」

「キュウさん何か言いましたか?」

現在の居場所は風呂、となればもちろん言うまでもないだろう。

「姉者、お背中流しましょうぞ!」

「えっ!?いや、わたしは・・・」

「相変わらずの風呂嫌いか」

エリスは風呂が苦手だ、身体が温まるとすぐにのぼせてしまう。風呂に来て身体を洗うだけですぐに出て行くつもりだった様だが、ヌエに捕まったらしい。

キュウはといえば、桶にお湯を張り、極楽気分で風呂を楽しんでいた。

いくら猫とは言え、中身は男のままの筈だが、思いもよらない落とし穴がそこにはあった。

猫の身体になってから、変わった事は様々だが、特に三大欲求を感じなくなった。

食欲、性欲、睡眠欲。どれも無いのだ。

味を感じるだけで食べる必要はない。この身体に繁殖機能は無い。寝る必要もないが、惰眠を貪るのは趣味の一つ。

蘇ったのはいいが、今までとは違う部分を少し残念に思う時もある。それが今かと問われれば・・・。


「姉者の身体は優麗なのに芯が通っていて、何とも凛々しくありますな」

「そ、そんなに見ないで」

「これは失礼を!代わりに拙者の身体ならいくらでも!」

腰に手を当てて何とも男らしい姿のヌエだが、ある一部分はその存在を強調していた。

「うくっ、なんで揺れるんです・・・」

「ぬ?これですか、戦いでは心臓を守る大切な鎧ですな」

「えっ、柔らかそうですが?」

たしかにソレはしっかりと揺れていた、鎧というには余りにも頼りない柔らかさ。

「爬魔の肉体は少し特殊でして、百聞は一見に如かず、でしたかな?触ってみて下され」

「ん、少し違和感があるけど、・・・やわらかい」

尻すぼみになっていく言葉は怒りなのか、悲しみなのか、そこは察しないでおこう。

「では、・・・ふっ!これでどうでしょう?」

「えっ!?なにこれ、鉄の球みたい?」

ヌエの身体が一回り引きしまり、皮膚が高質化する。表面が滑らかな鉄球を触っているような感覚、確かにこれなら鎧だ。

爬魔の皮膚は無数の硬い鱗で覆われ、固有魔力の流れを操作する事によって質を大きく変える事ができる。

蛇皮のような質から、鋼鉄のような質へ。これが爬魔族の持つ固有の異法だ。

ただし異法が肉体に与える影響が大きく、固有魔力が外部に出にくい。つまり魔術の扱いに不得手と言う事になる。

簡単な魔術道具なら扱えるが、それでも日常生活でという域を出ない。戦闘で使用できるような魔術道具は扱えない。

「それでも、足の運びなどを目で確認できないのは不便ですな」

「うぅ、わたしもあと少しで・・・」


少し悲観過ぎるエリスだったが、こうなったのも実は全てキュウの仕業だった。幼い頃から成長しない部分を吊るし上げ、まるでそれが全てにおいて優先される事のように話す事でエリスの弱みにしたのだ。

訓練をサボると大きくならない、魔学の問題が解けないと小さくなる。そうやって脅し続ける事でエリスの特訓は順調?なスタートを切ったのだ。

今でこそそれが全て嘘だと解っているエリスだったが、洗脳のように言われ続けた言葉が薄れる事は無く。嘘かホントか、成長する事もなかった。


宿屋のベッドの上、結局のぼせたエリスはぐったりと横たわっていた。

「姉者、申し訳もない」

「いえー、わたしもちょっと、いえ。楽しかったですし」

その言葉は嘘ではない、家族以外とお風呂で会話など今までのエリスには経験した事の無い事だ、アビス参道街の風呂屋では、いつも人の少ない閉店ギリギリに少しの時間、一人で行った事がある程度だ。

「それより、明日からはどこに行きましょうか、今のところ未定です」

「でしたら一度爬魔領、拙者の故郷に向かいませんか?」

この街から爬魔領までは馬車で2週間といったところだろうか、今度こそかなりの長旅になりそうだ。

とは言うものの、旅の資金は潤沢。すでに必要な物は揃っているし、その程度の旅ならば問題なくこなせるだろう。

「いいですね、ヌエの故郷。わたしも見てみたいです」

「是非ともおいで下さい」

そうと決まれば行動は早い。当ての無い旅は目的を定め、旅の続きを描いていく。

次なる目的地は爬魔領、ヤマタ麓町。

「おやすみなさいです」

「おやすみなさい」


鉄球とてっぱn

サービスシーンを入れてみました!が、色気は無い!

枯れた猫と鉄板と雌ゴジラじゃ仕方ないですね。


今回でヌエ登場編は終了です。

次回からは新たな物語へ入っていきますので、これからもよろしくお願いします。


感想、お待ち申しております。

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