奪取、即ち宝
「ここですな、目的の場所は」
「綿毛の山、なんだかすっごくふわふわです」
綿花の木が群生している山の入り口に到着したエリス達は、その一風変わった山の景色に驚いていた。
綿花の木は毎年冬になると、細い糸が絡み合ったような花を咲かせる。
本来であれば、ベッドやソファなどの中に詰める素材としてかなり有用なのだが、この国では綿花がそれほど普及していない。
その最たる原因は色にある。綿花は白、つまり犯罪色である。
そんなものを好き好んで使う者は少なく、普及率も低いという事だ。
「見惚れるのはいいが、目的を忘れるなよ?」
「・・・忘れてはいませんよ」
「何か言いましたか?」
「いえ、探索を始めましょう」
この山に来たのは観光ではない、確りとした目的があるのだ。
エリスはポケットから一つの魔道具を出すと、起動式を呼び出す。
懐中時計のようだが、針は一本だけ、その他には何も書いていない。
これは索敵用の魔術道具で、魔力濃度の高い地域や、特定の魔力を探す為に用いる。
ウエイトレスから買った情報によれば、この魔道具で探索可能だろうと判断したのだ。
「これは?少し動きが変ですが、多分ここから10時の方角です」
「相分かった、先頭は拙者が務めよう」
ヌエが前に立つと、白い山の中へ入って行った。エリスもそれに続く。
買った情報には場所と目的と、少しばかりの謎が書かれていた。
場所は綿花の山、目的は山賊の討伐、または宝の奪取。
ここ最近この山を根城に活動する山賊で、数は少ないが精鋭揃いとのことだ。
謎とは、この山賊を討伐しに行った旅人の話。
山賊の頭に一切の魔法が効かず、返り討ちにされてしまったという事だった。
命辛々逃げ出してきた旅人の一人が涙ながらに語っていたらしい。
返り討ちにされた事で混乱していたのかもしれないから、信憑性は定かではないが、気をつけるに越したことは無い。
山道の途中、エリスは面白い光景を目にする事になった。
「ぶぅえーん!」
「ひゃっ!?なに?」
当然聴こえた魔物の鳴き声、それは近くの木の枝から聞こえてきた。
そちらに目をやると、奇妙な魔物が居た。
顔と尻尾が馬のよう、身体は鳥で4本足、頭には鹿のような角が生えている。
そんな魔物は、頭の角が綿花に引っ掛かり動けずにいた。
「エリス殿は初めて見ましたか?あれが昨日食べた馬鹿鳥ですな」
「あ、あのおいしかったサンドの?」
「なるほど、バカドリか。言い得て妙だが、的を得ている」
「ぶぅえぇん!」
じたばたともがいているが、その度に角は綿花に食い込んでいく。一本一本は細く脆い綿花も、束になれば強靭な綿となる。それこそ魔物の力ではどうする事も出来ないほどに。
この山ではこうして綿に捕まって動けなくなる馬鹿鳥を多々見かける事がある。
この地域には彼等の天敵と呼べる存在はおらず、餌となる綿花の実も食べ放題。
そんな環境で生きるうちに、いつしか危機感も忘れ、このような形態に落ち着いてしまったという訳だ。
「ちょうどいい、あれは帰りの道中で捌きましょう」
「ヌエさん捌けるんですか?だったら調理は任せてください!」
思わぬ収穫に喜ぶ二人だったが、その場に居た一匹だけは腑に落ちないという顔をしていた。
「これが、魔国に出した魔物か、・・・複雑だな」
この世界の魔物は元はと言えば自分が生み出したモノ。
様々な魔物が長い月日の中で姿形を変え、こうして生きているとしても、
「だからって、馬鹿鳥は酷過ぎだろう」
そうやって、ついつい愚痴ってしまいたくなる事案だ。
ヌエの腰にぶら下げられたお土産が2つになった頃、目的の場所に到着した。
山の中腹辺り、少し開けた場所に小さな洞窟が口を広げていた。
洞窟の前には如何にもな爬魔の男が二人、酒を飲みながら笑っている。
エリスは耳をすまし、会話を聞きとろうとする。
「・・・でよ、俺は言ってやったんだよ。そりゃぁねぇ!ってな」
「そりゃそうだ、あの頭に限ってそりゃねぇよ」
「今頃は北の道で狩りの最中だろうけどな」
「なに言ってんだ、そろそろ帰って来るさ」
二人は相当酔っているらしく、所々呂律が回っていない。
会話からすると問題の頭は不在らしい、だとすれば今は好機。
「ヌエさん、今ならあの二人だけみたいですけど」
「ぬ、そうか。悪行の輩を成敗してくれようかと思っていたが、待ちましょうか?」
エリスは驚いたようにヌエを見る、どうやら二人の考えには大きな違いがあったようだ。
「えっ、戦う気だったんですか?」
「なにを申される、人々に害成す輩、同族と言えど許すまじ。なにより我が儀に反します故に」
どうやら彼女は相当な熱血気質らしい、エリスは優しいがその反面他人に興味を持たない節がある。
子供の頃から蔑まれて生きてきたのだ、それでもこれだけ真直ぐ育ったのは育ての親のおかげだ。それに、優しいと言っても聖人君子ではない。所詮は人なのだ。
幸か不幸か、この場にはヌエが居る。
エリスが初めてであった旅仲間であり、ここで見捨てるなどという選択肢は既に存在していない。
「・・・解りました。ですが、多少の安全は考えてもらいますよ」
「ぬ、エリス殿がそう言うのであれば」
こうして、エリスにとって初めての対人戦が始まるのだった。
「息吹」
小さく呟いた声に反応し、冷たい魔力が吹き抜ける。
「うぉ!?なんだこれ!足が!」
「なんだ?っ俺もか!?」
一人の男が自分の異変に気付く。まるで足に杭を打たれたかのように動かない。動けない。
エリスの放った息吹は氷の楔となり、男の足を封じたのだ。
本来の魔術式を使えばもっと大掛かりになっている。魔術道具であればあるいは可能かもしれないが、よほどの技能がなければ隠れた位置からの行使など不可能。
「なんと、これほどとは」
「ヌエさん、後はお願いします」
「相分かった!」
エリスの一声と共に駆け出す。左腕に巻かれた棍を右手で握ると、鞭のようにしならせ、男の首を穿つ。
強靭な肉体を持つ爬魔族であっても、呼吸を断たれては意識が持たない。
同じ爬魔族だからこそ良く解っている弱点の一つ。
たとえ足が自由に動いたとしても、今の攻撃を避ける事など不可能ではなかった、そう思わせる程の見事な攻撃だ。
「これで一先ずは、ですね」
「爬魔は頑丈だけが取り柄ですから、ほおっておけばそのうち目を覚ますでしょうな」
二人の男は近くにあった綿花で腕と足を縛り、近くの茂みに放置した。
ヌエは洞窟の入り口で偵察、エリスは洞窟の中を探索。
見張り番はあの二人だけだったようで、洞窟の中に他の山賊は見当たらなかった。
「大したものは置いてないな、そっちはどうだ?」
「すっごく解りやすいのが置いてあるんですけど・・・」
エリスの目の前には鉄製の箱、見るからに宝箱という雰囲気だ。
ご丁寧に南京錠までかけてある。間違いなくこれが目的の一つ、お宝だ。
エリスは腰に下げているベルトポーチの一つから手帳と鈎針を取り出す。
「えっと、宝箱を開ける魔術式なんてあります?」
「そんなものは無い、もっと簡単なのを使えばいいだろう」
「じゃぁ、軟化でいけます?」
「悪くないな」
この手帳には多種多様な魔術式の基礎陣形が書かれている。
キュウから教わった魔学をまとめた手帳だ、鈎針は陣を描く為の道具。
因みに、この手帳の中には魔国における魔学力の数百年先を行く物も存在するが、それを知っているのは今はまだ誰もいない。
南京錠に陣を描き、起動させる。
鋼鉄でできた鍵は自らの重みで崩れる程に柔らかくなり、簡単に千切れた。
宝箱の中身はエリスが想像していた物と少し違ったが、確かに求めていた物が入っていた。
「これ、一万エンですよね?いったいいくらあるんです?」
「数えたら分かるだろ?しかし、まさか本当にエンが出てくるとは」
宝石や魔石ならば大切に保管しているのも分かるが、エンそのままを入れているとは思わず、少し面喰った二人だった。
宝箱のままでは重すぎる為、近くにあった布袋に入れ替え持ち運ぶ。
それでも結構な重量があり、小柄なエリスはその重さに苦戦していた。
「ヌエさん、外の様子は?」
「特には、・・・それは?」
布の中身を見せると、さすがのヌエも面喰ったように驚いた。
「千はありますな」
「わたしじゃ持ち運べないくらいですから」
布の袋はガシャリと音を立てて二人の足元に置かれた。音だけでもかなりの重量がある事が分かる。
因みに、一万エン一枚の重量は5グラム、千枚で2キロになる。
2キロと言っても、持ち上げるのと持ち運ぶのとでは疲労感がまるで違うのだ。
初めて見る大金に気が逸れていたせいか、近づいてくる足音に反応が遅れたのは致命的だった。
「あん?てめぇら何やってんだ」
馬鹿鳥ですが、鳥肉のような触感、馬肉のような味がします。(多分
綿を眺めて鳥を待つ。枝から馬鹿鳥。なんてことわざができるかもですね。
お金について少し詳細を。
1,5,10,50エンは銅硬貨で、日本円と違うのは大きさです。
例えば、50円より10円の方が大きいですが、エンは50エンの方が大きいです。
100.500エンは青銅。
千・軽銀、五千・銀、万・金となります。
千以上の形はお土産なんかで見かける5gの純金プレートを思い浮かべてもらえれば分かりやすいと思います。
計数貨幣と呼ばれる物で、お金に書かれた価値と使われている金属の価値が同じようになっている、と言う事です。
別段ここまで詳細を書く必要は無いよなぁ、と思い本文では省略しましたが、せっかくなのであとがきに載せておきます。
設定好きなので大目に見てやってください。
感想。お待ちしてます。




