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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
39/73

交渉、即ち挑戦

荷主に走り去られた後、長旅の後という事もあり、なにかおいしい物を食べようと近くの喫茶店に入る二人と一匹。

「エリス殿、誠に申し訳ない!」

「いえ、こうなったのはわたしにも責任がありますし、だからそんなに謝らないでください」

腰を折り、深く頭を下げるヌエ。

食事をするのはいいが、長旅の後と、報酬がもらえなかったヌエは文字通り無一文となっていた。

責任の一端が自分にもあると思ったエリスがご馳走する事になったのだが、店に着くまでに5回、店に入ってから3回も謝り続けるヌエに困り果てていた。

「おまちどー、当店名物の馬鹿鳥のカツサンドでーす!」

「ほら、ご飯も来ましたし。食べちゃいましょう」

「本当に、申し訳ない・・・」

9回目の謝罪と共に、久々のご馳走となった昼飯。

「頂きます」

「・・・?エリス殿、それは?」

「あ、これはですね、」

ヌエは料理を目の前にして手を合わせるエリスを不思議そうに見ていた。

因みに、この魔国に日本人独特の礼は存在しない。

各種族ごとに様々な形式が存在するが、手を合わせ、「頂きます」と言うのはエリスだけだ。

これはキュウが教えた礼節に含まれている。

殺した相手に、食べる物に、受けた気持ちに、「頂きます」という。

簡潔で、洗礼された感謝の気持ち。

「なるほど、戦場でも、日常でも、礼を忘れないという事ですな。素晴らしい、拙者も使わせて頂いてよろしいですか?」

「そんな、許可がいるような事じゃないです。良識?ってやつらしいです」

「流石はエリス殿。感銘を受けます」

一々固いヌエではあったが、エリスの事をよく考え理解してくれる。

なにより、エリスの姿を見て少しも動じていない様は、とても安心できる存在だった。


「ふむ、このバカドリ。バカにできない美味さだ」

「キュウさんもこれ気に入りました?」

床に置かれた皿の上にはエリスと同じ料理が置かれている。

猫の肉体は想像の異法で創られた物で、魔力だけでも動く事はできるが、肉体の維持のためには少しの物質も必要なのだ。

味覚はそのおまけに過ぎないが、味というのは食事をするうえで大切なことだ。

「エリス殿、一つ聞いても?」

「はい?」

エリスは時々忘れているが、キュウの声はエリスにしか聞こえていない。

これはキュウを復活させた時に近くに居たエリスの魔力を媒体に使用した事で発生した物だと、キュウは想像している。

多少不便だが、猫はこの魔国的に見れば魔物だ。魔物が喋るなど普通は在り得ない。

「よく魔物?と話しているように見えるのですが」

「えっ、ああ。そ、そうですね」

「エリス殿は魔物と話せるのですか?それともまた別の」

「この人、じゃない、この魔物はちょっと特別で、わたしはなんとなく気持ちが分かるんです」

慌てながら誤魔化す。もちろん全て適当な言い訳であるが、説明したところで信じる人はいないだろう。

「魔物の気持ち、ですか。拙者には到達出来そうもない域ですな」

「そんな大層な物じゃないですよ、なんていうか、たまたま?」

キュウは良く知っているが、先程からエリスの左耳がピクピクと痙攣したように激しく動いている。癖というのは自分で気付けないし、知らない事は治すのも難しい。

初対面だから使える嘘だ。


昼ご飯となったカツサンドをエリスは一つと半分、キュウが半分、ヌエは一つ食べて終了となった。

けれど、エリスは不審に思っていた。身体の大きいヌエが一つで足りるのだろうか?と。

もし遠慮しているのだとしたらどうにかしてあげたいが、思っていたよりもヌエは意志が固い人らしい。

「おじょうさん、うちの自慢の一品はどうでしたかー?」

「あ、はい。とても美味しかったです。ごちそうさまです」

「そかそか、それはなにより!」

店のウエイトレスの女性が話しかけてくる。エリスとヌエ二人を交互に見た後、顔を寄せて来た。

「街の入り口で見てましたよー、おじょうさん。かっこかわいいですね」

「えっ、そんな、わたしは別に」

「謙遜しなくていいですって、それより、お二人は旅人さん?」

照れるエリスを見て頬を緩ませる女性、男ならず女性までも惹き込むエリスの魅力は相当な物だ。

「拙者は少し違うが、エリス殿は旅の途中らしい、危ないところを助けて頂き、今はこうして共に食事をしているのだ」

「おねぇさんを?このおじょうさんが?わぁお!」

女性が驚くのも無理は無い、片方は小柄で細身の可憐な乙女。片方は見上げる程の体躯と爬魔独特の強靭な身体つき。

助ける側と助けられる側がどう考えても逆だ。

だからだろうか、この女性がそんな二人の客に一風変わった情報を教えようと思ったのは。

「二人とも、旅の資金は潤沢で?」

「わたしは、まぁ」

「ぬぅ、傷口に塩を塗られるようだ」

ヌエは案外つまらない事をずっと気にするタイプのようだ、豪快な見た目と違って自分に対してはとことん繊細で厳しい。

「あはは、そう落ち込まないでよ。何があったかはなんとなく知ってるし。それで、面白い情報があるんだけど、買ってかない?」

「情報ですか?」

エリスは横目でキュウの様子を窺って見るが、床に寝そべったまま、反応がない。

好きにしてみろ、という事なのだろうと思い。自分の意志で交渉する事にした。


「ただ情報と言われても、漠然とし過ぎてます」

「そうだね、少し難しいかもだけど、お金になるのは間違いないと思うよ?」

雑貨商で学んだ商売の基本と、キュウから盗んだ交渉。

その二つを自分のできる限りで駆使していく。

「その情報はいつの物ですか?古くてはあまり意味がないです」

「へぇ、さすが。若いのに用心深いね。ここ最近ずっと噂は流れてるよ、ウエイトレスやってると噂話が舞い込んでくるのよ」

感心したようにうなずくと、エリスの瞳をまっすぐに見返してくる。

「どこで起きてる事です?遠くては情報が正確か分からないです」

「詳しくはまだ教えないけど、ここから半日ほどで行けるよ。もちろん馬車を使えばだけどね」

馬車で一日かからないというのはこの世界ではかなり近い方だ。だとすると情報の信憑性も高いはず。

「相手、もしくは何をもってお金になるのです?」

「うーん、そこまでは教えないよ?それが情報の一番重要な部分だからね」

まだ答えを出すには難しかったのかもしれない。

けれど、これで一番重要な部分がどこなのかの判断はついた。

「最後にもう一つ、わたしは何をすればいいんでしょう?」

「お宝探し、かな?」

お宝と言うからには確かにお金に直結するのかもしれない。

これで相手の手札は見えたけれど、これ以上は自分で考えるしかない。

一先ず話を要約すると。

ここ最近起きている事で、この街の近く、手段は不明だが目的はお宝探し。

あと一つ、なにか重要なパーツがあるような・・・。

真剣に考えるエリスの瞳にヌエの姿が映る。

言葉を操り、必死に考える姿を、何も言わず見守る彼女。

「そっか、戦闘だ」

「ん?どうかしたのかな?」

女性がこの話を持ちかけたきっかけは、エリスがヌエを助けたという話からだった、だとすれば・・・。

不思議そうな顔をする女性に対して真直ぐに向き直り、

「多分、何かと戦う事になるんですよね?」

「えっ、あー。運が悪ければ、ね」

これで答えは出揃った。

エリスは一息つくと、いつも通りの笑顔を向けてはにかむ。

「いろいろ聞いちゃってごめんなさい。情報、買わせて頂きます」

「うん、合格かな?ちょっと私も大人げなかったね、おじょうさんは90点だ」

「40点だ」

ウエイトレスの女性は満足そうにうなずくと、影の無い笑顔を向けた。

一方、キュウの付けたエリスの評価は微妙だった。

自分一人での交渉は初めてと言って良いエリスだったが、満足いく点数を貰えなかったのが少し残念だったのか、耳と尻尾が少し項垂れていた。


「それじゃ、情報は千エンでいいよ」

「ん?情報にしては少々安くは無いか?」

ここで初めてヌエが口を開いた、エリスもキュウもこの世界の金銭感覚には疎い、特に形の無い情報がいくらかなど分かるはずもないのだが。

因みに、この国で使われている金銭は日本と同じ円だ。違う部分は1から500までは丸い鉱物で作られた物で、千、五千、一万は銀や金に丸い穴の空いた板状の高価な鉱物でできている。

先程食べていたサンドが一つ80エン。宿が一泊千エン。キュウが知っている日本の10分の1の価値だと思って良いだろう。

「安いね、私はお小遣い稼ぎで情報売ってるし、それに。この情報は結構歩が悪いのよ」

「歩が悪いなどと、それを売ろうと言うのか?」

ヌエの目がギラリと女性を睨む、危険な情報をわざと教えるなど、偽の情報を教えるよりも性質が悪い。

「まぁ、そう睨まないでよ。私はあなた達なら大丈夫と思って売るんだからね」

「ぬぅ、そうまで言うのなら・・・」

エリスが千エンを女性に渡すと、

「まいどありー」

と言ってエプロンのポケットにお金を突っ込み、代わりに一枚の紙を取り出した。

そこには簡単な地図と、簡潔に書かれた情報が記してあった。

手書きだが、丁寧に描かれた情報を頼りに、エリスのお宝探しが始まるのであった。


交渉を書くって難しい。

動きがないから「喋り」と「考え」で文が埋め尽くされるんですよね。

動きがないから劇的!って感じにできない。難しい。


お金について少し触れてます。下手に異世界のお金作るより円にした方が分かりやすいかな、と。

2千円?知らない子ですね。


感想。おまちしてます。

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